きゅう)” の例文
若い同役の有峰松次郎——杉之助の弟に難詰なんきつされて返答にきゅうし、松次郎を斬って本国を立退いたのは、もはや十年も昔のことです。
わが輩も返事にきゅう躊躇ちゅうちょしていると、三銭切手きってを封入せる以上返事をうながす権利があると催促さいそくされたことも一、二度でない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
圧制あっせい偽善ぎぜん醜行しゅうこうたくましゅうして、ってこれをまぎらしている。ここにおいてか奸物共かんぶつども衣食いしょくき、正義せいぎひと衣食いしょくきゅうする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかも物質的に報いられる所ははなはうすく給料等も時々の手当てに過ぎず煙草銭たばこせんにもきゅうすることがあり衣類は盆暮ぼんくれに仕着せを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と低い声音に渾身の力をめて言った。これだけ真面目まじめに敬蔵が娘に云うことはめったにない。きゅうしてやむを得ずこれだけまともに言ったのだ。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「正成のほうからこそ申すべきところをば……はて、さような御意ぎょいを先にうけたまわると、どう申しあぐべきか、正成、いよいよおびにきゅうしまする」
こうわびられると、かえって、青木あおき返事へんじきゅうしてしまいました。それは、なぜでしょう? みんなの視線しせんかれかお見守みまもると、さもいいにくそうにして
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「出来て及第するのは当り前さ。イヨイヨきゅうしたら、出来なくても及第する法を考えなければならない」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうして両足を伸し腹部も十分に張って見たけれど、心のくもって居る様な胸の苦みは少しも減じなかった。はほとほと自分の体と自分の心との取扱にきゅうしてしまった。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
散策子は答えにきゅうして、実は草の上に位置も構わず投出なげだされた、オリイブ色の上表紙うわびょうしに、とき色のリボンで封のある、ノオトブックを、つまさぐっていたのを見たので。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
田川は返事にきゅうしたらしく、だまりこんだ。しかし、心で納得なっとくしたようには、すこしも見えなかった。かれは、それまで膝の上に突っぱっていた両腕を組んで、天井てんじょうあおいだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
汝のうその南山の竹に矢の羽をつけやじりを付けてこれをみがいたならば、ただに犀革を通すのみではあるまいに、と孔子に言われた時、愛すべき単純な若者は返す言葉にきゅうした。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
すでに和するの敵に向うは男子のはずるところ、執念しゅうねん深きに過ぎて進退しんたいきゅうするのたるをさとり、きょうに乗じて深入りの無益たるを知り、双方共にさらりと前世界の古証文ふるしょうもんすみを引き
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
要するに御腹おなかが減って飯が食いたくなって、御腹が張ると眠くなって、きゅうしてらんして、達して道をおこなって、れていっしょになって、愛想あいそが尽きて夫婦別れをするまでの事だから
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
老人は、この不意撃ちに会って、ハッと答えにきゅうしたらしく長い間押黙っていたが
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
五郎は返事にきゅうして黙っていた。すると女ははだしのまま簀子の上にあがって来た。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
その頃私は沈滞した、仕事の手につかぬ、苦い日々を送っていたのでした。心も暗かったのです。孤独な、そしてきゅうした心の底から一途いちずに「あの人に会おう。」という思いが湧いてきました。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
顎十郎も、さすがにきゅうして
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
きゅうしたりとはいえ、二日も三日も無策にうごいて、むなしく兵馬を疲らすような凡将の彼ではなかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また茫漠ぼうばくとして、たがやされていない野原のはらがあるかもしれない。それなのに、衣食住いしょくじゅうきゅうして、ななければならぬ人間にんげんがたくさんいる。それはどうしたことだろうか。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、運平老は、ちょっと説明にきゅうしたらしく、その大きな眼玉をぱちくりさしていたが
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
うにもうにも逃げようにも逃げられず、真裸体まっぱだかで座ってお辞儀も出来ず、進退きゅうして実に身の置処おきどころがない。奥さんも気の毒だと思われたのか、物をも云わず奥の方に引込ひきこん仕舞しまった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
糟谷かすやはとつおいつ、あいさつのしようにもきゅうして、いたりたったりしていた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
今の料簡りょうけんで考えて見ても、どうもほかの名はつけにくいようである。それなら僕がそれほど千代子に恋していたのだろうか。問題がそう推移すると、僕も返事にきゅうするよりほかに仕方がなくなる。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きゅうすれば、あわれみを乞い、勢いを得れば、暴魔の威をふるう、今日に至っては、仁慈もなにもない」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この人は幕府の末年に勝氏と意見をことにし、くまでも徳川の政府を維持いじせんとして力をつくし、政府の軍艦数艘すうそうひきいて箱館はこだて脱走だっそうし、西軍にこうして奮戦ふんせんしたれども、ついにきゅうして降参こうさんしたる者なり。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
宗助も御米も少し挨拶あいさつきゅうした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
信長は、彼のきゅうしきったすがたを見て、ほぼ彼の心のうちも、察してくれたらしい。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、問いつめて、時には無可先生をして殆ど、答えにきゅうさせてしまう。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
読む明りにきゅうしますので、啓之助殿が大切に持っておられます
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとうぜんないをうけて、咲耶子さくやこ返辞へんじきゅうした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)