狭間はざま)” の例文
旧字:狹間
こんな民土のうたおこったのも、正に明智領になってからである。こよいもほりをこえ、狭間はざまをこえて、城下のうたが本丸まで聞えていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲斐はそうみこして、虚空蔵(山)の南麓へ向かい、山つきを迂回うかいして、砦山の西から白石川へぬける狭間はざま道で、待つことにした。
櫓の部屋は広く頑丈で、正方形に出来ているらしく、床も天井も組細工で、壁には窓や狭間はざまがあって、格子がはまっているらしかった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ミイはこの船で明日の朝アメリカへ帰るんだが、こんな狭間はざまでユウに逢おうなんて、こんなシャフト(目)が出ようたあミイも思っていなかったよ。
復活祭 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
自分の狭間はざまの所になおひじをついていたアンジョーラは、街路の先端から目を離さずに、頭を動かしてうなずいた。
高いかべが市のまわりをとりまいていました。ちょうど、小さなかきが畑のまわりをとりまいているように。どの通りのはしにも、とう狭間はざまのある壁が見えました。
岩と岩との狭間はざまに打ち寄する波のあまりが、追いつ追われつしているところを描いたものです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それがなんとなく楽玻璃グラス・ハーモニカのようでもあるが、とにかく、その狭間はざまを通過する音は、恐らく弱音器でもかけられたように柔げられるであろうから、鐘鳴器カリリヨン特有の残響や、また
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あおい炎の息を吹いても、素奴しゃつ色の白いはないか、袖のあかいはないか、と胴の狭間はざま、帆柱の根、錨綱いかりづなの下までも、あなぐり探いたものなれども、孫子まごこけ、僧都においては
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鋭く刻んだのみのあとは、精巧な彫刻をほどこしたアーチの狭間はざま飾りからすでに消え去っている。薔薇ばらの模様がかなめ石を飾っていたが、その美しく茂った姿はなくなってしまっている。
君死せりとふしらせを我は山深く狭間はざまに居りて聞けるさびしさ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
奥山の山の狭間はざまにふる雪のほのぼのつもり夜明けぬるかも
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
松をすかしてチラチラ見えるいくつものは、たち高楼こうろうであり武者長屋むしゃながやであり矢倉やぐら狭間はざまであり、長安歓楽ながやすかんらく奥殿おくでんのかがやきである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな無意味な感情の狭間はざまの中で当惑していなければならない自分の境遇をばからしくてたまらなくなってきた。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
岩の狭間はざまに眠っていた、若い野猪が眼をさまし、木精こだまを起こして吠えたのが、嵐の最後の名残りであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その間、アンジョーラは自分の狭間はざまの所にあって、耳を澄ましながら様子をうかがっていた。
下から投げ上げたにしたところで、五尺とない塔の狭間はざまのどこかに打衝ぶつかってしまうぜ。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
たったいま、かがんだときには、そこには、たしかに海がキラキラと、なめらかにかがやいていました。それが、いまは、狭間はざまとうのある壁で、かくされてしまっているではありませんか。
二人はふもとから坂を一ツ、曲ってもう一ツ、それからここの天神の宮を、こずえあおぐ、石段を三段、次第に上って来て、これから隧道トンネルのように薄暗い、山の狭間はざまの森の中なる、額堂がくどうを抜けて
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しづかなる川原かはらをもちてながれたる狭間はざまかはをたまゆらに見し
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
海ちかき真闇まやみ狭間はざま
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして、返事は如何に? と見ていると、城の狭間はざまや土塀のうえややぐらのあたりに、忽ち無数の首が集まって、藤吉郎の方をながめていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孫六は手早く甲胄かっちゅうをつけ、二十四差したる胡籙えびらを負い、重籐しげどうの弓を小脇に抱き、門の上なるやぐらへのぼり、中差なかざしとって打ちつがえ、狭間はざまの板八文字に押しひらき
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
不意をくらって、四人の役人は船頭もろとも、もろに川なかへ投げだされ、御用船のほうは上り下りの荷足にたり狭間はざまへはさまって退くも引くもならなくなってしまった……
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
アンジョーラが二連発のカラビン銃を取って、自分の場所としてる一種の狭間はざまに身を置くや、人々は口をつぐんでしまった。多くの小さな鋭い音が舗石しきいしの壁に沿ってごったに起こった。
奥の正面、及び右なる廻廊の半ばより厚き壁にて、広き矢狭間やざま狭間はざまを設く。外面は山岳の遠見とおみ、秋の雲。壁に出入りの扉あり。鼓の緒の欄干そと、左の一方、棟甍むながわら、並びに樹立こだちこずえを見す。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この狭間はざまを強き水たぎち流れけむ石むらがりてよこたふ見れば
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「思うに、こうべ狭間はざまの勝入の手勢が、曲者くせものじゃの。あの二千が、どう動くか、それによっては、このふじヶ根も、よい地の理とは申されぬ」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、櫓の狭間はざまから、二百人あまりの射手の射る矢が、拳下がりの狙いうちに、しののように射出いいだされた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雪の橋は拱の頂点で三尺ほどの厚さしかなく、要石かなめいしにあたるあたりの氷がひずんで脆くなっている。亀裂の縁は踏むはしから欠け、金属的な音をたてて、底も見えぬ暗い氷の狭間はざまへ落ちて行く。
白雪姫 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
狭間はざまに漏るる青海原あおうなばら、沖にしずかかもめの波。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとりつぶやいて、坐り直した。そして短檠たんけいの灯をふき消すと、四角な狭間はざまから蒼い月の光がして彼の膝近くまでとどいた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狭間はざま作りの鉄砲がき! 密貿易の親船だ! 麝香じゃこう、樟脳、剛玉、緑柱石、煙硝、かも、香木、没薬もつやく、更紗、毛革、毒草、劇薬、珊瑚、土耳古トルコ玉、由縁ある宝冠、貿易の品々が積んである! さあ
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
光春は矢倉にのぼって、残り少ない左右の者に、なお下知げちしていた。そして自身も、鉄砲を構えて、狭間はざまから筒先下がりに敵兵を狙撃していた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
約四千は、そこを離れて、こおろぎ狭間はざまの低地を北方へ出て行った。そして、じりとよぶ高地の東南面に、陣をとった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二の丸から見ても、本丸の無数な狭間はざまに、一点のあかりも洩れていないのが、さっきから、不審に思われていたのである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらの者がみな水漬みずついた城壁の破れ目や、屋根の上や、狭間はざまや小高い所などから、声こそ揚げないが手をあわせ、眼をぬぐいつつ、見送っていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が櫓の狭間はざまに顔をだした時、誰からともなく伝えられたとみえ、広間を出て来た藩士たちが、四五人ずつかたまって、城下の方を凝視ぎょうししていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たそがれ頃まで、南の狭間はざまで小銃の音がかなり烈しく聞えていた。時折、格天井ごうてんじょうもゆすれるような大鉄砲の音がじる。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沈黙の巨人のように、岡崎城の物見櫓ものみやぐらが、木枯しの中に、突っ立っている。狭間はざま狭間にも、こよいは、灯影が見えない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城の唐橋を駈渡りながら、狭間はざま狭間に案じている留守の将士に、ひとり残らず聞えわたるような大声をあげて行った。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が、門櫓に立ち、狭間はざまをひらいて、弓をしぼり始めた頃は、すでに敵は潮先しおさきみたいにひたひたと近づき寄って
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、城の狭間はざまから、髪の白い一人の老武士が顔をだした。見ると、物の具をすっかり解いて、麻裃あさがみしもに平服を着ているのである、白扇を振って答えながら
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とせき立てたかれは、むりにかれの手をとって、築山つきやまから、城の土塀どべいによじのぼり、狭間はざまや、わずかな足がかりを力に、二じょうあまりの石垣いしがきを、すべり落ちた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狭間はざまの壁に、太い柱に。なお、屋根のしゃちひさしの瓦などが吹飛んでいるのは砲弾の炸裂さくれつによるものであろう。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の眼には、その要害のなかにやすんじている曲輪くるわ曲輪のしょく狭間はざまの灯が、はかないものとすら見えたのである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、城内は相かわらずで、深更まで狭間はざま明々あかあか燈火ともしびが望まれ、どうかすると濠水ほりみずに、悠長な能管のうかんの音や小鼓こつづみの鳴りひびいていたりすることもありますが」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ朝霧が深く、河ひとつへだてた城の石垣も狭間はざまも白くぼかされて、十分に視野がひらけないからである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
云い終ると、蒲団包みや、むしろぐるみの荷物を、細曳ほそびきにからげて、狭間はざまから下へするする降ろして来た。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして勝入は、のこる二千人をようして、予備隊のふくみを持ち、そのまま、こうべ狭間はざまに、陣どった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)