狂気きちがい)” の例文
旧字:狂氣
また汽車に乗って、一つの車室はこに自分一人っきりのことも数回あったが、そんなときは、警報器が引きたくて狂気きちがいになりそうだった。
ピストルの蠱惑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
りっぱな人たちでありいい音楽家でありながら、皆多少狂気きちがいじみたところのあるクラフト家の一人を、彼女は彼のうちに認めていた。
お歌さんは狂気きちがいのようになって乃公の耳を引張った。富子さんは評判のお喋舌しゃべりだから、明日学校へ行って何と言うか知れないそうだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
はははは、内のお雪なんかの、あんな内気な、引込思案な女じゃったけれど、もう、それは、あんたの事と言うたら、まるで狂気きちがい
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
半蔵があんな放火を企てたのは全くの狂気きちがいざたと考えるかと二人に尋ね、和尚にはそうばかりとも思われないと言うのであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あまりの事に驚き悲しんで狂気きちがいのようになって王宮を駈け出ると直ぐ、そこに繋いでおいたこの国第一の名馬「またたき」というのに飛び乗って
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「鬼火の姥が狂気きちがいじみた、男好きの女なら、金地院範覚は狂気じみた、女好きの男なのさ! ……その範覚を迷わしたかえ?」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何うかした拍子に、追い詰められて狂気きちがいのように怒っている象の鼻に巻かれて、空中を振り廻され、続けさまに樹の幹へ叩きつけられたのだ。
ロウモン街の自殺ホテル (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
母に話すと母は大変気嫌きげんを悪くしますから、成るべく知らん顔して居たほうがいんですよ。御覧なさい全然まるで狂気きちがいでしょう。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この狂気きちがいじみた事の有ッた当坐は、昇が来ると、お勢はおくするでもなくはじらうでもなく只何となく落着が悪いようで有ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と云って風雅がって汽車の線路の傍をポクポク歩くなんぞという事は、ヒネクレ過ぎて狂気きちがいじみて居ますから、とても出来る事では有りません。
旅行の今昔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其処には児を抱いた若い女が児と同時いっしょに死んでいるのを、晋陽の府廨やくしょから来たやくにん検案けんあんしているところであった。廷章は狂気きちがいのようになって叫んだ。
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼はこの狂気きちがい染みた方法をまったく論理的に弁護した。彼の言うところによると、もし我々が何等かの手掛りを持つならばそれは最も悪い道にいるのである。
さて、この父親は恥かしい口惜くやしいで、まるで狂気きちがいみてえになっているのを、ようやく揚捲機あげまききで船まで引っぱりあげたが、ああ、さすがはコルシカの牛でがす。
鎧櫃には具足がはいっていたそうだがそれも何だか、よほど金目の物らしく、主人はあれから狂気きちがいのように飛び歩いていて、今も店にいないとの答え。はてな?
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なんぼ兄弟の中でもわし請人うけにんだから金を出せと云う争いから、狂気きちがい見たようにたけり立って、わしかたりだ悪党だと大声たいせいを発して悪口あっこうを言うので、門弟どもが聞入れ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
長く家へ留めておいた上方かみがたものの母子おやこ義太夫語ぎだゆうかたりのために、座敷に床をこしらえて、人を集めて語らせなどした時の父親の挙動ふるまいは、今思うとまるで狂気きちがいのようであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかし、誰もいないところで、大きく独語をいったあとは、却って、狂気きちがい染みた静けさだった。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「いや、あの廻転琴オルゴール時計を見るのさ。実は、妙な憑着ひょうちゃくが一つあってね。それが、僕を狂気きちがいみたいにしているのだよ」とキッパリ云い切って、他の二人を面喰めんくらわせてしまった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
夫は二人の関係を嗅ぎ付けて、殺すの生かすのと狂気きちがいのようになって騒ぐんです。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
すると荻原はぐっと胸をつかれたと見えて、殆んど狂気きちがいのように、その易者に
北国の人 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
打ち打擲ちょうちゃくはまだしもの事、ある時などは、白魚しらおの様な細指を引きさいて、赤い血が流れて痛いのでかないが泣くのを見て、カラカラと笑っていると云った様な実に狂気きちがいじみた冷酷の処置であった。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
「そうそう。わたくしのことを左様にお笑いあそばすが、老公にも、時折、お狂気きちがいじみた独り言をよく仰っしゃる癖があります。ひとつ二つ、おたずねしてもよろしゅうございましょうか」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遭難者の身にとってはたまったものではない。禿はげ頭にじ鉢巻で、血眼になって家財道具を運ぶ老爺おやじもあれば、尻もへそもあらわに着物をまくり上げ、濁流中で狂気きちがいのように立騒いでいる女も見える。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
おもんちゃんはかんの高い子だったので、みんなから狂気きちがいあつかいにされて、ある日大門通りの四ツ角で、いたずら子供たちにとりまかれ、肌ぬぎになって折れた鉄物かなものを振って悪童を追いかけていた。
「ああ、狂人きちがいだ、が、ほかの気違は出来ないことを云って狂うのに、この狂気きちがいは、出来る相談をして澄ましているばかりなんだよ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奥さんは狂気きちがいのようになって泣いた。子のようにしていた者を殺されたと言って、今にも狆の後を追って飛込もうとする。無分別な人だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これまでに狂気きちがいのなおるという薬はなんでも試みて、うの字峠の谷で打った岩烏いわがらす畢竟ひっきょう狂気きちがいの薬であったそうである。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
狂気きちがいわらいする。臙脂屋は聞けども聞かざるが如く、此勢に木沢は少しにじり退すさりつつ、益々毅然きぜんとして愈々いよいよ苦りきり
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鶴原子爵は狂気きちがいで死んだというがこの青年も何だか様子が変である。ことによるとやっぱり「あやかしの鼓」に呪われているのじゃないかと思った。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
狂気きちがいのように為吉はボイラから降りて音のした釜戸ドアの前に立った。外部からは把手ハンドル一つで訳なく開けることが出来た。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
と云って狂気きちがいのようになって叫んだが、来宮様はいっこうに起きない。火はもう傍へ来て、今にも華表に燃え移りそうになって来た。雉は気が気ではない。
火傷した神様 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すると殺人者はバネ仕掛の人形のように跳びあがって、あんぐりと口を開き、狂気きちがいじみた目附をして
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
とキャア/\狂気きちがいのようになって騒ぐゆえ、捨置かれんから、お店から多分の金子を出して長次の死骸を引き取り、葬式とむらいまで出して遣るような事でございますから
この少年の家は、田舎の町で大きな雑貨店を出していた。お庄は時々その狂気きちがいじみた調子に釣り込まれながら、妙な男が来たものだと思って綺麗きれいなその顔を眺めていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
土人乙女はその時まで私の側に立っていたが、部落の光景ありさまを眺めるや否や、やはり足を空へ上げて狂気きちがいのように踊り出した。そして私を引っ張りながら部落の方へ走り出した。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まる狂気きちがいだ。チョイと人が一言いえばすぐに腹をたってしまッて、手も附けられやアしない」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
勘次と彦兵衛が狂気きちがいのように急いで穴を埋めた。道六神の鬼火石が早速の墓を作った。
それほど彼は自分の小さな胸に満ち来る狂気きちがいじみた歓喜よろこびを隠せなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼の狂気きちがいのたよりは厚くそして毒矢の雨のように迅速に来始めました。
私はこの狂気きちがい染みた彼の言葉に、返事を忘れてしまった。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
下枝様がああいう扮装みなりのまま飛出したのなら、今頃は鎌倉中の評判になってるに違いありません。何をいおうと狂気きちがいにして引張ひっぱって参ります。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青眼は藍丸王のこのように荒々しい、狂気きちがいじみた姿を見たのはこれが初めてでした。又このように無慈悲な言葉で、嘲けられののしられた事も初めてでした。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
しかるに叔父さんもその希望のぞみが全くなくなったがために、ほとんど自棄やけを起こして酒も飲めば遊猟にもふける、どことなく自分までが狂気きちがいじみたふうになられた。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そこへ塩気しおけがつく、腥気なまぐさっけがつく、魚肉にく迸裂はぜて飛んで額際ひたいぎわにへばり着いているという始末、いやはや眼も当てられない可厭いやいじめようで、叔母のする事はまるで狂気きちがいだ。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お袋が死んでしまうと言って、素足のまま帯しろ裸で裏へ飛び出して行ったことや、狂気きちがいのように爺さんに武者むしゃぶりついて泣いたことなどを、女中は手真似をして話した。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
如何いかにも残念だから入水じゅすいしてお村を取殺とりころすなどと狂気きちがいじみたことを申し……それはまアしからぬこと、音に聞えたる大伴の先生故、町人を打ち打擲などをすることはないはず
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
だから、一般の市民パアジャアの眼には、博士は、りっぱな「狂気きちがいの老乞食」に相違なかった。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼奴あいつや、村の奴等のために、おれはもう少しで狂気きちがいにされるところだった……が、もう大丈夫だ……お前はおれと一緒になったときは、キャラコの襦袢じゅばん一枚しか持たないようなざまだったが
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
ところでその界隈へ毎朝何処かの書生がブル・ドッグをいて来る。それを見ると、アレキサンダーは狂気きちがいのようになる。怖いのだ。しかし書生は腹が立つと見えて、その都度ブルをしかける。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)