深窓しんそう)” の例文
ひんよしとよろこぶひとありけり十九といへど深窓しんそうそだちは室咲むろざきもおなじことかぜらねど松風まつ ぜひゞきはかよ瓜琴つまごとのしらべになが春日はるび
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
深窓しんそうな育ちでも、どこか女伊達だてめいた気風をもって、おそろしく仁義礼智の教えを守って——姿の薄化粧のように、魂も洗おうとした。
「良家の令嬢、深窓しんそう佳人かじんなら、そんな心配はない。そういうのを吟味ぎんみして、早く貰うんだよ。光子さんだって賛成するだろう」
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そして、深窓しんそう処女おとめには、あまりに強烈すぎるものへむかったように、まばゆげな眼をそらして、ひとにも分かるような吐息といきをついた。
ギイとくぐりをあけて、しきりにためつすかしつ、差しのぞいていたが、菊路ほどの深窓しんそう珠をあざむく匂やかな風情が物を言わないという筈はない。
あね小柄こがらの、うつくしいあいらしいからだかほ持主もちぬしであつた。みやびやかな落着おちついた態度たいど言語げんごが、地方ちはう物持ものもち深窓しんそうひととなつた処女しよぢよらしいかんじを、竹村たけむらあたへた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
彼女は実に一箇巾幗きんくわくの身を以て、深窓しんそう宮裡きゆうり花陰の夢にふけるべき人ながら、雄健の筆に堂々の議論を上下し、仏蘭西フランス全国の民を叱咤しつたする事、なほ猛虎の野にうそぶくが如くなりき。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
言葉にも物腰にも深窓しんそう育ちがうかがわれ、いまも躊躇ためらったような初心初心うぶうぶしい言いかたをする。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
が、それわば深窓しんそうかざ手活ていけはなみことのおくつろぎになられたおりかるいお相手あいてにはなりても、いざ生命懸いのちがけのそとのお仕事しごとにかかられるときには、きまりって橘姫たちばなひめにおこえがかかる。
ある時は葉子は慎み深い深窓しんそうの婦人らしく上品に、ある時は素養の深い若いディレッタントのように高尚こうしょうに、またある時は習俗から解放された adventuress とも思われる放胆を示した。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これは大いに不思議です。深窓しんそうに育った蠅だといってよろしい
(新字新仮名) / 海野十三(著)
深窓しんそうにたれこめている御守殿女ごしゅでんおんなの初心よりは、お綱のような女の初心が、時には、ばかばかしいほど男に血道をあげるものだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さればとて香爐峯かうろほうゆきみすをまくの才女さいぢよめきたるおこなひはいさゝかも深窓しんそうはるふかくこもりて針仕事はりしごと女性によしやう本分ほんぶんつく心懸こゝろがまこと殊勝しゆしようなりき、いへ孝順かうじゆんなるはいでかならず貞節ていせつなりとか
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もうこのごろは、水仕業みずしごとに馴れているとはいっても、月輪の前関白家さきのかんぱくけに生れて、まったく深窓しんそうにそだった彼女が——と思うと
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この家の深窓しんそう佳人かじんと玄徳とが、いつのまにか、春宵しゅんしょうの秘語を楽しむ仲になっているのを目撃して、関羽は、非常なおどろきと狼狽ろうばいをおぼえた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分が生れながら深窓しんそうの姫そだちや宮仕えの女でなく、幼い頃は深草の田舎で麦を踏みもみき、十か十一の頃には、かしらに籠を乗せて、野菜や果物を売りに
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
政子に宛てた文をたずさえて、彼はまもなく北条家の館を訪れていた。元より先は深窓しんそうの息女である。かに会えるわけもない。家臣の手を通じて返辞を待っていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清盛が、そこを辞して帰るころには、この姉姫も、どうしてどうして、そう、露おもたげな深窓しんそうの花の風情ふぜいだけではなかった。笑いもするし、はきはきと答えもする。
あろうことかあるまいことか。当家の深窓しんそうに養われている芙蓉娘ふようじょうとかいう麗人と、逢引きを
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は決して美人ではないが、さすがに深窓しんそういつくしまれた肌目きめではあった。それに初産の後のせいかとおるような白い顔と指の先をしている。その手をひどく几帳面きちょうめんに膝へかさねて
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そんな深窓しんそうのおむすめを、きょうは呂布のために」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)