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泥溝
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どぶ
ふりがな文庫
“
泥溝
(
どぶ
)” の例文
井戸端の
水甕
(
みずがめ
)
に冷やしてあるラムネを取りに行って宵闇の板流しに足をすべらし
泥溝
(
どぶ
)
に片脚を踏込んだという
恥曝
(
はじさら
)
しの記憶がある。
海水浴
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
彼の云うところによると、清水谷から弁慶橋へ通じる
泥溝
(
どぶ
)
のような細い流の中に、春先になると無数の
蛙
(
かえる
)
が生れるのだそうである。
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ざぶざぶ小袖と
袴
(
はかま
)
を洗っている。市松が、
泥溝
(
どぶ
)
にでも転げ落ちたのかときくと、うむと、
頷
(
うなず
)
いて洗っている。違うともいわないのである。
新書太閤記:05 第五分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
長屋のそこ
此処
(
ここ
)
で煮炊きをする匂いや、
泥溝
(
どぶ
)
や、ごみ溜の
刺戟
(
しげき
)
的な匂いが漂っていて、平五は空腹を感じると同時に、胸がむかむかした。
末っ子
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
と、いった時、
泥溝
(
どぶ
)
板に音がして、一人の若い衆が、下駄を飛ばした、片足をあげて、ちんちんもがもがしながら、大きい声で
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
▼ もっと見る
二人は売場を離れて、仕方なしに線路ぞいの
柵
(
さく
)
について
泥溝
(
どぶ
)
くさい裏町をしばらく歩いた。ポプラの若葉が風に
戦
(
おのの
)
いて、雨雲が空に
懸
(
か
)
かっていた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
下には
泥溝
(
どぶ
)
板が敷いてあった。私の下駄はその泥溝板に触れる度にがたがたと音がしたが、女は空気
草履
(
ぞうり
)
でも
履
(
は
)
いているのか、なんの音もしなかった。
妖影
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
釜を
瓦斯
(
ガス
)
にかけ、
味噌汁
(
みそしる
)
をこしらえて、表に出た。唐人川の水が暗い空をうつし、
泥溝
(
どぶ
)
のように淀んで流れている。
糞尿譚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
お杉は参木があの夜限り帰らずに、自分を残して家を出ていってしまった日の、ひとりぼんやりと
泥溝
(
どぶ
)
の水面ばかり眺め暮していた侘しさを思い出した。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
混凝土の
泥溝
(
どぶ
)
をもった道路が、青い雑草の中に砂利の直線で碁盤縞に膨れあがった。碁盤目の中には、十字に
椹
(
さわら
)
の
籬
(
まがき
)
が組まれた。雑草は雨毎に
蔓延
(
はびこ
)
って行った。
都会地図の膨脹
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
與太郎とお
才
(
さい
)
は、なきながら
家
(
うち
)
の方へ歩きました。質屋の横町を曲ろうとすると、いきなり
真黒
(
まっくろ
)
いものにぶつかって、與太郎は
泥溝
(
どぶ
)
のわきへはね飛ばされました。
たどんの与太さん
(新字新仮名)
/
竹久夢二
(著)
植民地の風習というものは何故に、こうもいなせな職人の風俗を、
泥溝
(
どぶ
)
からあげた死鮒みたいに、すっかり威勢のないものにしてしまわなければ承知しないのか!
放浪の宿
(新字新仮名)
/
里村欣三
(著)
何時
(
いつ
)
うまれた。どこから來た。粘土の
音
(
ね
)
と金屬の色とのいづれのかなしき樣式にでも舟の如く泛ぶわたしの神聖な
泥溝
(
どぶ
)
のなかなる火の祈祷。盲目の翫賞家。自己禮拜。
聖三稜玻璃:02 聖三稜玻璃
(旧字旧仮名)
/
山村暮鳥
(著)
……「浅倉屋の露地」を出抜けたわたしはそのまま
泥溝
(
どぶ
)
にそって公園の外廓を真っすぐにあるいた。
浅草風土記
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
棒切れをもった子供の一隊が、着物の前をはだけて、
泥溝
(
どぶ
)
板をガタ/\させ、走り廻っていた。何時迄も
夕映
(
ゆうばえ
)
を残して、澄んでいる空に、その喚声がひゞきかえった。
工場細胞
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
と、
突然
(
いきなり
)
林の中で野獣でも吼える様に怒鳴りつける。対手がそれで
平伏
(
へこたま
)
れば可いが、さもなければ、盃を
擲
(
な
)
げて、
唐突
(
いきなり
)
両腕を攫んで
戸外
(
そと
)
へ引摺り出す。踏む、蹴る、下駄で敲く、
泥溝
(
どぶ
)
へ
突仆
(
つきのめ
)
す。
刑余の叔父
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
黒い土蔵見たいな感じの壁が、半ばはげ落ちて、そのすぐ前を、
蓋
(
ふた
)
のない
泥溝
(
どぶ
)
が、変な臭気を発散して流れている。そこへ汚い
洟垂
(
はなた
)
れ小僧が立並んで、看板を見上げている。まあそういった景色だ。
百面相役者
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
その伝染病舎の傍の
泥溝
(
どぶ
)
の水を
掬
(
すく
)
って飲んだものだそうだ。
葉
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
「そんなもの
泥溝
(
どぶ
)
へなと捨てて了へ。」
乳の匂ひ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
「殿さまがお呼びだ、すぐ来い。さむらいのくせにして、
泥溝
(
どぶ
)
になぞ落ちるやつがあるか。何のために毎日、兵法を習いに通っておるんだ」
新書太閤記:05 第五分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
幅三尺ばかりの、ほんの浅い
泥溝
(
どぶ
)
川であるが、
溜池
(
ためいけ
)
に続いているので、そっちから小さな魚や川蝦がのぼって来るのである。
桑の木物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
彼
(
かれ
)
の
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
によると、
清水谷
(
しみづだに
)
から
辨慶橋
(
べんけいばし
)
へ
通
(
つう
)
じる
泥溝
(
どぶ
)
の
樣
(
やう
)
な
細
(
ほそ
)
い
流
(
ながれ
)
の
中
(
なか
)
に、
春先
(
はるさき
)
になると
無數
(
むすう
)
の
蛙
(
かへる
)
が
生
(
うま
)
れるのださうである。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
せめて旅館まででも送ろうと云う主催者を無理から
謝絶
(
ことわ
)
り、町の中を流れた
泥溝
(
どぶ
)
の
蘆
(
あし
)
の青葉に夕陽の
顫
(
ふる
)
えているのを見ながら帰って来たところであった。
水郷異聞
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
彼女は数々の男の群れを今は忘れて逆上した。舞い疲れた猿廻しの猿は
泥溝
(
どぶ
)
の上のバナナの皮を眺めていた。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
寺坂は雪を
泥溝
(
どぶ
)
の中へ蹴落しながら、逃亡するのに、いい機を考えていた。一人が梯子を伝って、屋根へ上った。梯子には、次々に人が伝って登りかけていた。
寺坂吉右衛門の逃亡
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
が、そこをまた右に折れると大きな
泥溝
(
どぶ
)
……というよりは流れといったほうが似つかわしい……そうした感じの寂しい水がそれ/″\の家の影を浸してながれていた。
春泥
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
泥溝
(
どぶ
)
に落ちこんだ猫は、マンの自由にされながら、おとなしい。しかし、こまかい毛にしみこんだ青黒い泥土は、石鹸でこするのに、なかなか落ちない。ひどく臭い。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
昼のほとぼりで家の中にいたまらない長屋の人達は、夕飯が済むと、家を
開
(
あ
)
けッ放しにしたまゝ、表へ台を持ち出して涼んだ。小路は
泥溝
(
どぶ
)
の匂いで、プン/\している。
工場細胞
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
このあいだ近所の
泥溝
(
どぶ
)
に死んでいた哀れなのら
猫
(
ねこ
)
の子も引き合いに出て、同じ運命から拾い上げられて三毛に養われ豊かな家にもらわれて行ったあのちびがいちばんの幸運だというものもあれば
子猫
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
局長にでもがあるごとく、博士にでもがあるごとく、小説家にでもがあるのも御互様と申さねばならぬのであります。——また
泥溝
(
どぶ
)
の中へ落ちました。
文芸の哲学的基礎
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
いまじゃあ酔っぱらって
泥溝
(
どぶ
)
の中で寝るし、さもなきゃ番太の木戸へ縛りつけられてるわ、そしてこれもまんざら悪くはねえなんて、……あんた御亭主をもったの
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
通路には、林檎やバナナの皮、グジョグジョした
高丈
(
たかじょう
)
、
鞋
(
わらじ
)
、飯粒のこびりついている薄皮などが捨ててあった。流れの止った
泥溝
(
どぶ
)
だった。監督はじろりそれを見ながら、無遠慮に唾をはいた。
蟹工船
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
「いたちってけども何鼠の少し大きいぐれえのものだ。こん
畜生
(
ちきしょう
)
って気で追っかけてとうとう
泥溝
(
どぶ
)
の中へ追い込んだと思いねえ」「うまくやったね」と
喝采
(
かっさい
)
してやる。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「柄杓へ口をつけて飲む馬鹿があるか、そんなに飲みたかったら表へいって
泥溝
(
どぶ
)
の水でも飲むがいい、それが貴様には似合っているぞ」「そうしてもいいですよ」さすがに伝七郎もむっとした
恋の伝七郎
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
「い—た—ちつてけども何鼠の少し大きいぐれえのものだ。此畜生つて氣で追つかけてとう/\
泥溝
(
どぶ
)
の中へ追ひ込んだと思ひねえ」「うまく遣つたね」と喝采してやる。
吾輩ハ猫デアル
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
自分一人ちょっと島田の
家
(
うち
)
へ寄ろうとした時、偶然門前の
泥溝
(
どぶ
)
に掛けた小橋の上に立って往来を眺めていた御縫さんは、ちょっと微笑しながら
出合頭
(
であいがしら
)
の健三に会釈した。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
彼は新らしい
独楽
(
こま
)
を買ってもらって、時代を着けるために、それを
河岸際
(
かしぎわ
)
の
泥溝
(
どぶ
)
の中に浸けた。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
演説の足が
滑
(
すべ
)
って
泥溝
(
どぶ
)
の中へちょっと落ちたのです。すぐ
這
(
は
)
い
上
(
あが
)
って真直に進行します。
文芸の哲学的基礎
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ただ神を頼まぬだけが一層の無責任である。スターンは自分の責任を
免
(
のが
)
れると同時にこれを在天の神に
嫁
(
か
)
した。引き受けてくれる神を持たぬ余はついにこれを
泥溝
(
どぶ
)
の中に
棄
(
す
)
てた。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
医者の職分を忘れたものであります。医者ばかりではありません、学者でもそうであります。動物学者が御苦労にも
泥溝
(
どぶ
)
の中から一滴の水を取って来て、しきりに顕微鏡で眺めています。
創作家の態度
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
時
(
とき
)
たま
音便
(
たより
)
があつたつて、
蒙古
(
もうこ
)
といふ
所
(
ところ
)
は、
水
(
みづ
)
に
乏
(
とぼ
)
しい
所
(
ところ
)
で、
暑
(
あつ
)
い
時
(
とき
)
には
徃來
(
わうらい
)
へ
泥溝
(
どぶ
)
の
水
(
みづ
)
を
撒
(
ま
)
くとかね、
又
(
また
)
はその
泥溝
(
どぶ
)
の
水
(
みづ
)
が
無
(
な
)
くなると、
今度
(
こんど
)
は
馬
(
うま
)
の
小便
(
せうべん
)
を
撒
(
ま
)
くとか、
從
(
したが
)
つて
甚
(
はなは
)
だ
臭
(
くさ
)
いとか
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
綺麗好
(
きれいず
)
きな島田は、自分で
尻端折
(
しりはしお
)
りをして、絶えず
濡雑巾
(
ぬれぞうきん
)
を縁側や柱へ掛けた。それから
跣足
(
はだし
)
になって、南向の居間の
前栽
(
せんざい
)
へ出て、
草毟
(
くさむし
)
りをした。あるときは
鍬
(
くわ
)
を使って、
門口
(
かどぐち
)
の
泥溝
(
どぶ
)
も
浚
(
さら
)
った。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
すると運悪くその胴着に
蝨
(
しらみ
)
がたかりました。友達はちょうど
幸
(
さいわ
)
いとでも思ったのでしょう、評判の胴着をぐるぐると丸めて、散歩に出たついでに、
根津
(
ねづ
)
の大きな
泥溝
(
どぶ
)
の中へ
棄
(
す
)
ててしまいました。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
時たま
音便
(
たより
)
があったって、
蒙古
(
もうこ
)
という所は、水に乏しい所で、暑い時には往来へ
泥溝
(
どぶ
)
の水を
撒
(
ま
)
くとかね、またはその泥溝の水が無くなると、今度は馬の小便を撒くとか、したがってはなはだ臭いとか
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
泥
常用漢字
中学
部首:⽔
8画
溝
常用漢字
中学
部首:⽔
13画
“泥溝”で始まる語句
泥溝板
泥溝泥
泥溝鼠