あや)” の例文
「父を討ったのは来馬らしく、その上、人をあやめて立退いたが、いろ/\相談もありすぐ来てくれ。又来馬立廻った節には召捕えて」
新訂雲母阪 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
しかしこれは人をあやめるものではなく、仏さまの守護神まもりがみであることを爺は知つてゐますので、ちつともこはいとは思ひませんでした。
天童 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
例によって、この酒盛は乱闘に終り、ソリウイチェゴーズスクの連中はウスチスイソーリスクの連中をさんざんにあやめてしまった。
「ほウ、では拙者をあやめようとして、常々この身を尾けまわしていたと言うのか。……うム読めた、貴様は、日本左衛門の手下の者だな」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで過って伯父の小鍛冶こかじ宗遠むねとおあやめ、仇敵と狙われることになったのをいいことに、敵討興行の看板を揚げて勝負をしようとしたところが
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
同じ日の同じ刻に江戸と長崎で姉娘と妹娘が唐人あちゃめらの手にかかってあやめられるなンて、そぎゃんことが、この世にあり得ることでッしょうか
けれどもそれを感じた瞬間、童貞女のみが知る気高い神霊的な歓喜を、養父をあやめる苦悩の中でしみじみ味わされました——と云うのですよ。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「そちがあんまり美しい故に、わがご主君には毎夜のように藪原あたりまでお通いなさる。殿の夜遊やゆうどめたさにそちが命をあやめるのじゃ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
実は一人の女をあやめて駈落したれど露顕して追手おってがかゝり、片足くのごとく怪我をした故逃げおおせず、遂々とう/\お縄にかゝって、永い間牢に居て
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「長吉、手前てめえだろう、お春坊をあやめたのは。お慈悲を願ってやるから、お役人が見える前に、みんな申上げてしまいな」
が、兄が女と逢っている、のっ引きならぬ現場を抑えたならば、兄が母をあやめたということも、明白になりましょう。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
轟博士は、あの兇器で、誰かをあやめたのではなかろうか? 絶海の孤島上の殺人の動機は? それとも、それは僕のあまりに過ぎたる思い過ぎであろうか。
地球を狙う者 (新字新仮名) / 海野十三(著)
本人にいわせると、悪酔いしてもどしたからだと、いっていますがいくら僧侶でも一人、かも知人をあやめたのでは、常態ではいられなかったと思います。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
と兵馬はいいかけて、また打悄うちしおれてしまいます。実際、今の兵馬の場合は金の問題で、怨みもない人をあやめようと決心を起したのも、せんじつめればそれです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その男はアルカージイ・イリイーチをあやめた報いで四十三の鞭を受けましたが、とうとう堪えとおして——生きていたので、焼印をおされて懲役にやられましたよ。
「それならばそうと、はっきり申せい。手数のかかるやつらじゃ。あやめられたのはいつごろか!」
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
悪場所で酔狂の口論、それが原因で朋輩をあやめるなどは重々の不埒とあって、屋敷でもすぐに神崎のゆくえを探索させたが、五日十日を過ぎても何の手がかりもなかった。
半七捕物帳:04 湯屋の二階 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
只もう可愛い情夫おとこ、それは彼女の肉と精神こころのすべてを捧げた恋人であったのだ。彼は、逆上した瞬間に人をあやめた。しかしその恐ろしい負目おいめは、もう払ってしまったではないか。
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
彼らは、ひとあやめるために来たのではないから、おとなしくしていてくれさえすれば、家のものに危害は加えない、その代り軍用金をせと云って、父に迫った。父はないと断った。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なづけて籠釣瓶かごつるべの鞘を払ひ、八つ橋、栄之丞をはじめ、数多の人をあやめます。
吉原百人斬り (新字旧仮名) / 正岡容(著)
いわんや数頭をあやめ、わずかに一頭のうえすくうべきものにおいてをや。その餓るやその勢必ずあいくらうに至らん。あに上世の虎は目今もっこんの猫のごとく、太古の熊は今日の犬のごとしというべけんや。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
嫁女の事より人をあやめ、長崎に到りて狼藉の限りをつくされしが、過ぐる晩春の頃ほひ、丸山初花楼の太夫、初花の刑場を荒らし、天地のかん、身を置くに所無く、今日こんにち此処このところに迷ひ来られし人とおぼし。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
伊勢の国鈴鹿の山や近江の高島に本拠を構えて、あまたの国々におしわたり、また都にも押し寄せて、人をあやめ、美女をさらい、家を焼き、財宝をうばった。即ち今に悪名高い袴垂はかまだれの保輔であった。
紫大納言 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ある時はヴィヨンの如くあやめ盜み寂しく立ちて風に吹かれなむ
和歌でない歌 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
安らかに笑みて受くべしあやめたる罰受くる日の何日いつに来るとも
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
あやめしが如くまだ生々なま/\しきあぶらういて見ゆればさすがに吉兵衞は愕然ぎよつとして扨ても山賊の住家なりかゝる所へ泊りしこそ不覺ふかくなれと後悔こうくわいすれど今は網裡まうりの魚函中かんちうけものまた詮方せんかたなかりければ如何はせんと再びまくらつきながらも次の間の動靜やうす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
生み、あやめ、疼き、によ
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「だが、そもじの罪障は消えたとて、二人をあやめた下郎のごう永劫えいごうじゃ、私は、今日これから、そなたの前で、そやつをただし上げてみせますぞ」
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
よくにつりこまれて、草芝くさしばの上へあらたまり、おとといの真夜中まよなか呂宋兵衛るそんべえ手策てだてをつくして従僧じゅうそうふたりをあやめ、ひとりの主僧しゅそうをいけどってきて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……江戸と長崎で二人があやめられた以上、どッち道、利七も助かる筈はないと、ッくに覚悟を決めておりました。……これが利七でございますか。
それが鶴見の夜泊りで獄口ごくぐちを蹴って軍鶏籠抜とうまるぬけという早業を見せ、宿役人の三人もあやめた後、どうやらまたぞろお膝下へ舞い戻ったらしいとの噂とりどり。
ぐずぐずしているうちに、相手が見切りを付けて、六人の花嫁をまとめてあやめるとか——そんな事はないまでも——、遠国にでも持出されたら手の付けようがねえ。
野武士時代にはあばれもしたろうが、恩顧を蒙った目上の者を、殺したことはないのだからな。そうして俺に至っては、人をあやめたことはない。で多少は許されるだろう。
首頂戴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「だ、だんなさまそれでは、ご、ご隠居さまをわたくしどもが、おあやめもうしますので?」
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その強奪ごうだつの仕方があまりに大胆で大袈裟おおげさで、しかもさえぎる人があっても人命をあやめるようなことはなく、衣類や小道具などには眼もくれず、まとまった金だけを引浚ひっさらって悠々として出て行く。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
此の鎌は女房のお累が自害をし、わっちが人をあやめた草苅鎌だが、廻り廻ってわっちの手へ来たのは此の鎌で死ねという神仏かみほとけこらしめでございまするから、其のいましめを背かないで自害致しまする
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あるいは女人をあやめむと致し、又は女人の新墓にいはか鋤鍬すきくわを当つるなぞ、安からぬ事のみ致し、人々これを止むる時は、その人をも撃ち殺し、傷つけ候のみならず、吾身も或は舌を噛み、又はくびれて死するなぞ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
母よりと手紙ふみのをはりに記されてあやめし罪の重きをりぬ
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
生み、あやめ、疼き、によ
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
そこには、いろいろなわけがあるが、主なる理由は、天鬼様をあやめた下手人がないことだ。これにはわしも弱ってしもうた
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぐずぐずしているうちに、相手が見切りを付けて、六人の花嫁をまとめてあやめるとか——そんな事はないまでも——、遠国にでも持出されたら手の付けようがねえ。
「死に花とか申したな、皮膚はだに根をおろして人をあやめる花、あの件はどうなった? やはり刺客の業か」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ところが、そうして小六をあやめた人物は、あの時奈落の中で、それは素晴らしい離業ケレンを行なったのだ。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それにしても、お種だけならいざ知らず、とがもゆかりもないお鳥まであやめてしまうとは、何たる非道か奴でござりまッしょうか。鬼というてもこうまで残忍むごかことはいたしますまい
間違って人一匹あやめたことぐらいは物の数ではないのだ、と兵馬は強いて自分の心を落着けようとしたけれど、世の中にこのくらいばかばかしい人殺しはないものと思われてなりません。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
貴方あんたの兄さんには、女ができている……そしてお母さんを、あやめている……。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
……隠すにもあたらぬなのってやろう、浪速なにわの浪人飛田林覚兵衛とんだばやしかくべえ! ……さてその時拙者は申した、貴殿の命をあやめても、淀屋の独楽を拙者が取ると! ……その期が今こそめぐって来たのじゃ!
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この手もて人をあやめし死囚われ同じ両手に今は花活く
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
「因縁といえば、建武の年、直義さまが大塔ノ宮をあやめさせたのも、所はこの鎌倉だった。ここでお果てなされるとは」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それこそ、木沓を脱いだら、壁に手を支えぬと、私は歩けませぬのじゃ。のうフローラ、なぜに私は、かけ換えのない二人の兄弟——横蔵と慈悲太郎をあやめたのであろう。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)