トップ
>
杳
>
よう
ふりがな文庫
“
杳
(
よう
)” の例文
豊橋も後になり、
鷲津
(
わしづ
)
より
舞坂
(
まいさか
)
にかゝる頃よりは道ようやく海岸に近づきて
浜名
(
はまな
)
の湖窓外に青く、右には
遠州洋
(
えんしゅうなだ
)
杳
(
よう
)
として天に連なる。
東上記
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
うわさには、
花隈
(
はなくま
)
から兵庫の浜へ出て、船をひろい、
備後
(
びんご
)
の
尾道
(
おのみち
)
へ落ちて行ったとあるが——
杳
(
よう
)
としてしばらく所在が知れなかった。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
池谷邸に入ったまま、姿を消して
杳
(
よう
)
として行方が知れなくなったこの麗人の身の上を、帆村はすくなからず憂慮しているのだった。
蠅男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
その間、決して探偵の手をゆるめた訳ではないのだが、不思議な賊は
杳
(
よう
)
として消息を断ったまま、どの方面にも影さえささぬのだ。
魔術師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
が、その甲斐もなくついに迷宮に入ったまま、今もって犯人の目星はもちろん、
奪
(
と
)
られた
頸
(
くび
)
飾り、
腕環
(
うでわ
)
の行方も、
杳
(
よう
)
として判明せぬのである。
グリュックスブルグ王室異聞
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
▼ もっと見る
では諸君は遺書だけが発見されて、偉大なる風博士自体は
杳
(
よう
)
として紛失したことも御存知ないであろうか? ない。
嗟乎
(
ああ
)
。
風博士
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
その権威は厳として宇宙に
磅礴
(
ほうはく
)
し、その光輝は
燦
(
さん
)
として天地を照破し、その美徳は
杳
(
よう
)
として万生を薫化しております。
鼻の表現
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
かの微妙な旋律に共鳴した私の情調、かの蒼く顫える星に
翔
(
かけ
)
り行く私の詩興、これらすべては
杳
(
よう
)
として空に帰すのであろうか。そればかりではない。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
どうしたことか
杳
(
よう
)
としてその行くえがわからなかったものでしたから、とうとう弥三郎をのみにしてしまいました。
右門捕物帖:12 毒色のくちびる
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
それ以来、一年にもなるが依然三上の行方は、
杳
(
よう
)
として謎のように分らない、という、ロイスの話を一通り聴きおわると、折竹がやさしく上目使いをして
人外魔境:05 水棲人
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
君も知ってる、
生命
(
いのち
)
は、あの人も助かったんだが、その
後
(
のち
)
影を隠してしまって、いまだに
杳
(
よう
)
として消息がない。
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
垢
(
あか
)
つきの希望者もうようよ出たそうだが、本人
杳
(
よう
)
として行方知れず、そのうちふと、この院内に、それらしい女の隠れ姿を見たと言い触らした奴があったが
大菩薩峠:40 山科の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
巡礼
(
ピルゲル
)
の
歌
(
コール
)
は
杳
(
よう
)
として絶えて、今、アルピの雪を仰ぐ行人の、耳にひびくのは、ベルニナ鉄道の汽笛である。
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
そこで憲法発布のあと問もなく東京を去ったまま、
杳
(
よう
)
として今日までゆくえをくらましている名人だった。
寄席
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
頭目モーナルーダオはその後
杳
(
よう
)
として行方がわからなかったが、事件が終ったのち、ようやく三年目、その屍体はミイラになって付近の山林のなかに見出された。
霧の蕃社
(新字新仮名)
/
中村地平
(著)
斯
(
こ
)
うして、中学を終えると直ぐに東京へ出て了った私は、其の後、
杳
(
よう
)
として彼の消息を聞かないのだ。
虎狩
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
その後、
杳
(
よう
)
として消息を絶ち、誰に聞いても知っている者がなかったのである。夫婦は、寝物語に、いく度、「新公はどうしたかなあ」と、話しあったか知れない。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
なお二箇月の暇を
貪
(
むさぼ
)
ることにとりきめて貰ったのが
原
(
もと
)
で、とうとうその二箇月が過去った十月にも筆を
執
(
と
)
らず、十一十二もつい紙上へは
杳
(
よう
)
たる有様で暮してしまった。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
三司郡県将校
(
さんしぐんけんしょうこう
)
等
(
ら
)
、皆
寇
(
あだ
)
を失うを以て
誅
(
ちゅう
)
せられぬ。賽児は
如何
(
いかが
)
しけん其後
踪跡
(
そうせき
)
杳
(
よう
)
として知るべからず。
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
毎夜のように首尾の松の下に立って、河へ石を三つなげて泰軒に会ってはくるが、お艶の行方も乾雲丸の
所在
(
ありか
)
も、せわしない都にのまれ去って
杳
(
よう
)
として知れなかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
記録にあるワイカト号の漂流の跡を忠実に辿って行ったのだが、軈て果してセント・ポウル島には着いたものの、矢張り、ワラタ号に関する手がかりは
杳
(
よう
)
として挙がらなかった。
沈黙の水平線
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
小網町
(
こあみちょう
)
の
船宿
(
ふなやど
)
でわかれたきり、その後、三日になるが
杳
(
よう
)
として顎十郎の消息が知れない。
顎十郎捕物帳:12 咸臨丸受取
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
左近
(
さこん
)
を打たせた三人の侍は、それからかれこれ二年間、
敵
(
かたき
)
兵衛
(
ひょうえ
)
の
行
(
ゆ
)
く
方
(
え
)
を探って、
五畿内
(
ごきない
)
から東海道をほとんど
隈
(
くま
)
なく遍歴した。が、兵衛の消息は、
杳
(
よう
)
として再び聞えなかった。
或敵打の話
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
だがもう外は暗い夜で二人の影はどこへ行ったのやら、既に
杳
(
よう
)
として消え失せていた。
天馬
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
その後博士よりは今日まで
杳
(
よう
)
として一片の消息だになく、あるいは飛行船の不完全のため中途その目的を達せずして、研究のためその一命を捧げしには非ずやと伝うものさえありて
月世界競争探検
(新字新仮名)
/
押川春浪
(著)
稲富喜三郎兄妹の行方は、それっきり
杳
(
よう
)
として判りませんが、井上半十郎の方だけは、父祖の墳墓の地、江州国友村に隠れて五年間、井上流砲術の完成に若い命を打込んだのでした。
江戸の火術
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
導かれし天国の
杳
(
よう
)
として
原
(
たづ
)
ぬべからざるを、いとど
可懐
(
なつか
)
しの殿の胸は破れぬべく、ほとほと知覚の半をも失ひて、世と絶つの念
益
(
ますま
)
す深く、今は無尽の富も世襲の貴きも何にかはせんと
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
杳
(
よう
)
として消息を絶していたのが、いつの間にか、鉄心庵主としておさまっている。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
河野氏に
懇々
(
こんこん
)
訓
(
さと
)
されたぐらいでは
折角
(
せっかく
)
の思い付を止める
筈
(
はず
)
がない。其夜彼等は脱獄し海上三里を泳ぎ渡り羽田から
陸
(
おか
)
へ上がったが
其儘
(
そのまま
)
何処へ行ったものか
杳
(
よう
)
として知ることが出来なかった。
国事犯の行方:―破獄の志士赤井景韶―
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
かくてそれっきり今日まで、ついに一本の手紙も一枚の写真も送らずに過して来てしまったのである。先生の側からいえば、僕は去ったが最後、
杳
(
よう
)
として
音沙汰
(
おとさた
)
なしというところであろう。
惜別
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
その後、
杳
(
よう
)
として婚家へも何処へも音信がない。もう此世に居るのか、居らぬのか解らないと人々は思つて居たさうだ。すると二十二三年経て雲坪先生ぶらりと乞食になつて戻つて来られた。
小川芋銭先生と私
(新字旧仮名)
/
野口雨情
(著)
曲曲回顧スレバ
花幔
(
かまん
)
地ヲ
蔽
(
おお
)
ヒ恍トシテ路ナキカト疑フ。
排
(
おしひら
)
イテ進メバ
則
(
すなわち
)
白雲ノ
坌湧
(
ふんよう
)
スルガ如ク、
杳
(
よう
)
トシテ際涯ヲ見ズ。低回スルコト
頃
(
しばら
)
クニシテ肌骨皆香シク、人ヲシテ蒼仙ニ化セシメントス。
向嶋
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
が、天才とまで激賞された吉野君は、その後「文学世界」の投書をよしてから、もう何年になるかも知れないが、
杳
(
よう
)
として文壇に名を現す所がない。文学志望を廃したのかといえば、そうでもない。
無名作家の日記
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
ただ、その間、あの殺人の事件は、早くも看護婦の間にも拡まったらしく、
盛
(
さかん
)
に噂は聞くのだけれど、
可怪
(
おか
)
しなことには、その殺された美少女の身元は勿論、名前さえも、
杳
(
よう
)
として不明であったのだ。
鱗粉
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
警察へも捜索願を出したが、
杳
(
よう
)
として消息がないのだった。
支倉事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
平田の方はどうなつたのか
杳
(
よう
)
として聞えない。
私
(新字旧仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
杳
(
よう
)
として影を絶ったまま今日に及んでいる。
叛骨・中野正剛:――主観的な覚え書き
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
即時、家人を八方へ派して、心当りを尋ねるやら、密々、
検非違使
(
けびいし
)
の手まで借りて捜査したが、男女の行方は、
杳
(
よう
)
として分らない。
私本太平記:03 みなかみ帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
唯一人、ヘリコプターに乗った波立二のみは、その後、
杳
(
よう
)
として消息がわからなかったが、首領を失ったかれに何ができよう。
少年探偵長
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
それから半月程の間、ルパン一味の行衛は
杳
(
よう
)
として知れなかった。随って怪盗を慕って家出した大鳥不二子嬢の所在も、依然謎のままである。
黄金仮面
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
杳
(
よう
)
としてその便りが無いのは、心配といえば心配だが、あの先生のことだから、途中、何か遊意
勃々
(
ぼつぼつ
)
として湧くものがあって道をかえたのか、そうでなければ
大菩薩峠:32 弁信の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
杳
(
よう
)
として消息を絶っていた者……と申しましたら、その他の細かい履歴は申上げずとも
宜
(
よろ
)
しいでしょう。
キチガイ地獄
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
フィラ奥地方面の現地へ赴いたことは、既報したごとくであったが、同探検隊の精密なる現地探検の
甲斐
(
かい
)
もなく、同博士一行の足跡は
杳
(
よう
)
として何らの手懸りもなく
令嬢エミーラの日記
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
程
(
ほど
)
が
谷
(
や
)
近くなれば近き頃の横浜の大火乗客の
話柄
(
わへい
)
を賑わす。これより急行となりたれば神奈川鶴見などは止らず。夕陽海に沈んで煙波
杳
(
よう
)
たる品川の湾に七砲台
朧
(
おぼろ
)
なり。
東上記
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
ところで、末尾にある註を見ると、これにもラハマン教授が不審を述べているのだが、その
隠れ衣
(
タルンカッペ
)
は一度
氷島
(
イスランド
)
で使われたきり、その後は
杳
(
よう
)
として姿を消してしまったのだ。
潜航艇「鷹の城」
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
総監は白皙な面を真名古の方へ振り向けて、真名古の言葉を待っているのだが、真名古はマクラだけふって置いて、以来
杳
(
よう
)
として音沙汰がないので、総監は少々焦れ気味になり
魔都
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
十年間語学の教師をして、世間には
杳
(
よう
)
として聞えない凡材の
癖
(
くせ
)
に、大学で本邦人の外国文学講師を
入
(
い
)
れると聞くや否や、急に
狐鼠々々
(
こそこそ
)
運動を始めて、自分の評判記を学生間に流布した。
三四郎
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
そうしてその中に、自分の読本が貴公のような軽薄児に読まれるのは、一生の恥辱だという文句を入れた。その後
杳
(
よう
)
として消息を聞かないが、彼はまだ今まで、読本の稿を起しているだろうか。
戯作三昧
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
八州屋では
親戚
(
しんせき
)
知人
(
しるべ
)
は元より商売筋へまで八方へ手分けして探したが
杳
(
よう
)
として消息の知れないところから、合点長屋の釘抜親分へ探索方を持ち込んだのだったが、ここに藤吉として面白くないことは
釘抜藤吉捕物覚書:03 三つの足跡
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
爾来
(
じらい
)
今日まで
杳
(
よう
)
として三人の行衛は知れないのである。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
杳
漢検1級
部首:⽊
8画
“杳”を含む語句
杳然
杳々
杳冥
杳渺
杳窕
一結杳然
杳樹
杳眇
杳茫
杳遠