数多たくさん)” の例文
旧字:數多
数多たくさん抱えているじょちゅう達は、それぞれ旦那衆だんなしゅうのおともをして屋根船に乗り込んで、隅田すみだの花見に往っているので家の中はひっそりしていた。
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
勘作は起きあがって笊の中をのぞいた。大きな二尺ばかりの鯉が四ひきと、他にふなはやなどが数多たくさん入っていた。勘作は驚いて眼をみはった。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
急に憂鬱ゆううつになった彼の目の前には、頭髪かみの毛の数多たくさんある頭を心持ち左へかしげる癖のあるわかい女の顔がちらとしたように思われた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
土地の大地主で、数多たくさんの借家を持ち、それで、住宅すまい向前むこうに酒や醤油の店を持っている広栄の家は、鮫洲さめず大尽だいじんとして通っていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
承応しょうおう巳年みどし八月十一日の黄昏ゆうぐれのことであった。与右衛門よえもん夫婦は畑から帰っていた。二人はその日朝からいていた豆を数多たくさん背負っていた。
累物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
直ぐ近くに檜があって、それが一丈ばかりの処から数多たくさんの枝が出て、その間に二三人の人が坐っても好いようになっているのを見つけた。
鍛冶の母 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
酒宴さかもり準備したくをして数多たくさんの料理を卓の上へ並べた室が見えた。元振はその室の入口へ立って中を窺いた。そこにも人影がなかった。
殺神記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、その一つの腹から数多たくさんの蕎麦切が出て来た。魚を割いていた漁師は、旅僧に喫わした蕎麦のことを思いだして厭な気がした。
鮭の祟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その電車も数多たくさんの人で、硝子ガラス窓が一処二処おりていた。その前の窓際に顔をななめにして乗っている女があった。私はいきなり隻手かたてを挙げて
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
石の冷たい河原で寝ることは好いとしてちょっと休んでいてさえ、数多たくさんの蚊がぶんぶんやって来る程だからとても寝ることはだめです。で
提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その夏照美さんは、子供たちのために、庭へ小さな池を掘って数多たくさん金魚を入れたが、池の周囲まわりが淋しいので、石を拾って来てその中へ置いた。
室の中を歩く石 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、何処からともなく又数多たくさんの鼠が出て、伊右衛門のふるっている刀にからみついた。其のひょうしに伊右衛門は刀をり落した。其処を与茂七が
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
柴田家は今の高知市本町四丁目の南側で、その邸跡に近年までその祠があったが、今は数多たくさんの人家が出来てその祠もどうなったのか消えてしまった。
猫の踊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
数多たくさんには無い餅であるが、一つやそこいらは分けてやってもかまわなかった。それに路を教えてくれる礼もあった。
白い花赤い茎 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
市場には数多たくさんの人が集まってきて交易をやっていた。道度は金のありそうな人を見かけるとその枕を出して見せた。
黄金の枕 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは己の経験に於いても判ることで、己にしてもそれに似たことは数多たくさんある、とにかく、神保町のろじの中の家へ往って、聞いてみようと思いだした。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
刀はその額にあたって、狼は大きな音をして下に落ちた。と、幹にとりついていた数多たくさんの狼がばらばらと下におりて四方に逃げながら物凄い声で吠えた。
鍛冶の母 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
んでもその社には錆びた二つ三つのはさみを置き、そのがんほどきに切ったらしい、女の黒髪の束にしたのを数多たくさんかねのに結びつけてあったのを憶えている。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「この寒いのに、そんなに蠅は数多たくさんおらんだろうが、堀川あたりへ捨てたものが、戻って来やしないだろう」
蠅供養 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
他へやるには数多たくさん金をつけてやらなくてはいけないから、だれか金の入らない者はないかと考えた結局あげく、時どきじぶんの家へ呼んで仕事をさしている伊右衛門が
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それはいつのことであったか判らないが、未だ利根川に数多たくさんの鮭が登って鮭漁の盛んなころのことであった。
鮭の祟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
怪しい女はその物音を聞いて蘆の葉陰からすかして見た。数多たくさんの人影が眼の前にあった。あしががさがさと鳴った。女は金を包んだ風呂敷を隻手かたてにしてちあがった。
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は待ちくたびれて女の往っている学校の傍を二時ごろから三時比にかけて暑いの中を歩いてみたが、その学校から数多たくさんの女が出て来てもあの女の姿は見えなかった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは夏のゆうべ一人の秀才が庭の縁台えんだいの上で寝ていると、数多たくさんの蛍が来てもものあたりへ集まっていた。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「私は、下の村で数多たくさん物をたべて来ましたから、まだ何もたべたくはありません」と云いました。
死人の手 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
帰りながら見るとその器は古い茶釜の蓋で、それにはじぶんの打ったらしい弾の痕が数多たくさん残っていた。
猫の踊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女は数多たくさんある髪の毛の乗った頭をかすかに動かして新吉を見あげた。女のうしろきいろな紙を貼った壁になっていたが、その紙が古くなってねずみ色のしみが一めんに出来ていた。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ドッと云うような微かではあるが数多たくさんな靴音が起って、それが兵営の方へ向って近づいて来た。
戦死者の凱旋 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「それは数多たくさんおります。老人としよりでも小供でも、お客さんの見たいと云う亡者になりますから……」
立山の亡者宿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「老媼茶話」には奇怪な話が数多たくさん載っている。この話もその一つであるが、奥州の其処あるところに甚六と云う百姓があった。著者はその人となりを放逸邪見類なき者也と云っている。
一緒に歩く亡霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女の顔は左に傾いて細かい数多たくさんある頭の毛が重そうに見えた。それは前橋の女の顔であった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
讓は何時いつの間にか土間どまへ立っていた。背の高い蝋細工ろうざいくの人形のような顔をした、黒い数多たくさんある髪を束髪そくはつにした凄いようにきれいな女が、障子しょうじ引手ひきてもたれるようにして立っていた。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
橋の上には数多たくさんの人が往来ゆききをしており、短い橋の左の橋詰はしづめの活動写真館からは騒ぞうしい物音が聞え、また右の橋詰の三階になった牛肉屋からも客の声が騒がしく聞えていたが
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこには三娘子という独身者の寡婦がいて、永い間旅人に食物を売る傍ら、数多たくさんの驢馬を飼って非常に安価で売るので、板橋店の三娘子といえば驢馬の店としても有名であった。
蕎麦餅 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
まだ数多たくさん起きてた家がありましたが、ここへ来ると、急に世界が変ったようになりました
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、電燈の明るいバーが眼にいた。彼は急いでその中へ入った。二条ふたすじ三条みすじかに寒水石かんすいせき食卓テーブルえた店には、数多たくさんの客が立て込んでいた。彼はその右側へ往って腰をかけた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小泉八雲の書いた怪談の中には、赤坂に出る目も鼻もないのっぺらぼうの川獺かわうそのことがあるが、築地の周囲まわりの運河の水にも数多たくさんの川獺がいて、そこにも川獺の怪異が伝わっていた。
築地の川獺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
どうもここから東北ひがしきたのように思われる、やっぱり海があって、海の中には数多たくさんの島があった、掠奪われた日は、暑い日の夕方だ、いそへ一人出て遊んでいると、珍らしい船が着いた
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
人魚を見たと云うわかい男は、それから二三日して夜遅く長者のやしきを逃げだしました。数多たくさんの仲間といっしょに寝ていた塩小屋をいだしてみると、庭には薄月がしておりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
幹にとりついていた数多たくさんの狼の背を踏みながら、一疋の大きな狼があがって来た。毛色の白く見える肥った狼で、それが大きな口を開けていた。飛脚は刀を揮りかぶって打ちおろした。
鍛冶の母 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「お坊さんも如何いかがでございます、団子だんご数多たくさんありますが」と、顔の※い男が云った。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二三本の炬火たいまつけて供をれた牛車が来た。元振は邪神が来たと思ったので室の中へ入って待っていた。入口に数多たくさんな跫音がして、を開けて紫の衣服きものを着た怪しい者が入ってきた。
殺神記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すると地炉は泥池になって水が溢れるようになるとともに、ふいふいと蓮の葉が浮きだして白とくれないの蓮の花が一時にぱっと咲き、数多たくさんの蛙が集まって来て声をそろえて喧しく鳴きだした。
怪しき旅僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その頃紀の国坂一帯には狢が数多たくさんんでいて、よく悪戯いたずらをしたと言われている。
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
数千匹もいるであろう数多たくさんの猿が、五六間さきの楢の木の根元に仕掛けた藤葛へすがりついてそれを引っ張っていた。大塚の姿が見えると猿どもは藤葛を捨ててそのあたりへ散らばった。
忘恩 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小柄な男はそのをはじめとしておりおりやって来た。そして勘作が漁がなくて困っていると、彼は勘作の網を持ってちょっとの間どこかへ漁に往ったが、何時いつでも数多たくさんの魚をって来た。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
其処は晋陽の大街おおどおりで金色の招牌かんばんを掲げた商店が両側に並んでいた。廷章はその大街を暫く往って右に折れ曲った。其処に南三復の家があって数多たくさんの人が朝陽を浴びてその前に集まっていた。
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
菊江は雑貨店あらものやのつぎの野菜店やおやへ入ろうとして、ふと見ると、その野菜店の正面になった左側のカフェーの下にも二階にも客が数多たくさんある容子ようすで、何か口ぐちに云うのにまじって女の声もしていた。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
往ってみると大きな座敷があって、其処には数多たくさん料理をかまえてあった。
村の怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
肥った女の口笛がむと、その草が一めんに動きだしてその中から小蛇こへび数多たくさん見えだした。それは青い色のもあれば黒い色のもあった。その蛇がにょろにょろといだして来て女の前へ集まって来た。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)