振翳ふりかざ)” の例文
敵は髪を長く垂れた十五六の少年で、手にはきらめく洋刃ないふのようなものを振翳ふりかざしていた。薄闇で其形そのかたちくも見えぬが、人に似て人らしく無い。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
宇治の里では驚きましたが、安田一角は二人の助けを頼みとして袴の股立ちを取って、長いのを引抜き振翳ふりかざしたから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とにかく一人の男が泥絵具と金紙で作ったはりぼての蛸を頭からかぶるのだ、その相棒の男は、大刀を振翳ふりかざしつつ
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
現にかれなどはそれを真向まつかう振翳ふりかざしてこれまでの人生を渡つて来た。智慧ちゑを戦はして勝たんことを欲した。自己の欲するまゝにあらゆるものを得んことを欲した。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
やがて、種牛の眉間みけんを目懸けて、一人の屠手がをの(一方に長さ四五寸のくだがあつて、致命傷を与へるのはこの管である)を振翳ふりかざしたかと思ふと、もう其が是畜生の最後。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
だけど、そんな知識を振翳ふりかざしたって何になるでしょう。そんな学問はただの装飾です。いくらくれないあや単襲ひとえがさねをきらびやかに着込んだって、たましいの無い人間は空蝉うつせみ抜殻ぬけがらです。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
うけて見よと眞向まつかう振翳ふりかざして切てかゝる此時吾助は身に寸鐵すんてつおびざれども惡漢しれものなればすこしも恐れずそばに落たる松の枯枝かれえだおつ取て右にうけひだりに流ししばし戰ひ居たりしが吾助は元來もとより劔術けんじゆつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
武裝ぶさうせる幾多いくた海賊かいぞくどもに/\劔戟けんげき振翳ふりかざしつゝ、彼方かなた甲板かんぱんから此方こなた乘移のりうつり、たがひ血汐ちしほながして勝敗しようはいあらそふのであるから、海賊かいぞくてば其後そのゝち悲慘ひさんなる光景くわうけいまでもないが
見物席からイキナリ駈上かけあがって来たらしく頬を真赤にしてセイセイ息を切らしていたが、吾輩が振翳ふりかざしている死骸なんかには眼もくれずに、ハンドバッグの中から分厚い札束を掴み出すと
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やはらかにつもりつたが、はんして荒々あら/\しくこぶしをもかためて頭上かしらのうへ振翳ふりかざした。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
何をと、八蔵は隠し持ったる鉄棒を振翳ふりかざして飛懸とびかかれば、非力の得衛仰天して、あおくなって押隔つれど、腰はわなわな気はあぷあぷ、こうじ果てたるその処へ女房をさきに銀平が一室ひとまを出でてけ来りぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸口のところに陳東海が朱房の附きたる匕首を振翳ふりかざして立ちはだかり居るなれば、余りの理不尽に手前も嚇怒かくど致し、何をすると叫びながら組付行くに、そのあおりにて蝋燭の火は吹消え、真の闇となり
伊勢の国鈴鹿峠すずかとうげの坂の下からこっちへ二里半、有名な関の地蔵が六大無碍ろくだいむげ錫杖しゃくじょう振翳ふりかざし給うところを西へ五町ほど、東海道の往還おうかんよりは少し引込んだところの、参宮の抜け道へは近い粗末な茶店に
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
秩序と云う事を真向まっこう振翳ふりかざさなければできない話である。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
振翳ふりかざす腕の先から何んか逃げ
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
𤢖め、近寄って来たなと、市郎はただちに用意の燐寸まっちった。はたして一人いちにんの敵は刃物を振翳ふりかざして我が眼前めさきに立っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
遊蕩文学の議論には別に意義といふほどの意義もないが、深く入りもせずに、また考へもせずに、若い心と言つたやうなもので、上段から振翳ふりかざした形が馬鹿々々しい。
脱却の工夫 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
と梶棒を放して車夫くるまやが前へのめったから、急に車の中から出られません、車夫は逃げようとして足を梶棒に引掛ひっかけ、建部のみぞの中へ転がり落ちる。庄三郎は短刀を振翳ふりかざ
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こと面倒めんだうおもはゞ、昔話むかしばなし海賊船かいぞくせん戰術せんじゆつ其儘そのまゝに、するど船首せんしゆ眞一文字まいちもんじ此方こなた突進とつしんきたつて、に/\劍戟けんげき振翳ふりかざせる異形ゐげう海賊かいぞくども亂雲らんうんごと甲板かんぱん飛込とびこんでるかもれぬ。
やわらかにつもりであったが、はんして荒々あらあらしくこぶしをもかためて頭上かしらのうえ振翳ふりかざした。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
巡査が松明を振翳ふりかざす途端に、遠い足下あしもとの岩蔭に何かは知らず、金色こんじきの光を放つ物が晃乎きらりと見えた。が、松明の火のうごくにしたがって、又たちまちに消えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)