むご)” の例文
旧字:
これは輿論が喧しくて罰しきれませんでしたが、一方では無能力者であり、不幸になった時だけ能力者になっている。むごい話です。
婦人の創造力 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
手術をすれば、たぶんなおるであろうが、青木の親たちは、手術はむごいから忍びないと言って、成行にまかすことにしたのであった。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
なんというむごたらしい報いであろうと、お君は、どうしてもそのお嬢様のために心から同情しないわけにはゆきませんでした。
着物が肩から背へかけて切裂かれて、疵口が、むごたらしく、赤黒い口を開けていた。肉が、左右へ縮んでしまって、肩の骨が白く見えていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
わけても晩は、電燈のあかりの中にさらされた身体が、芸人でありながらも余りにあざやかで、あまりにむごいものの美しさをき立てていた。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そのむごたらしい死相しにがおを、ユラユラと動くランタンの光越しに覗いていると、何だか嬉しそうに笑っているかのように見えた。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
君太郎に勧められるまでもなくそうでもしなければ、今の私にも到底このままでは、このむごたらしい記憶に幕が降ろせそうもないのであった。
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
暑いのか彼女は足を布団の上にあげ、病的にむっちりと白い腕も袖がまくれてあらわに布団の上に投げていた。むごたらしくも情慾的な姿だった。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
それ程つらい思を女がするだらうと思つてるのに、そのつらさうな顔を見に行くのは、私はあまりむご為打しうちであると思つた。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
眼にこそ見えませんが、この世間には男性に弄ばれた女性の生きたむごたらしい死骸が、幾つ転がつてゐるかも分りません。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
この唐の僧は最後に、賊にとらえられ、賊の手によって首を斬られたのだった。この世に於てさえ、こんなむごたらしい災害を避けることが出来ない。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
はっきりわかります。私達わたくしたちらい、むご人間にんげん大嫌だいきらいでございます。そんな人間にんげんだと私達わたくしたちけっして姿すがたせませぬ。
「誰があんなむごたらしいことをしたかわかりませんが、どうか、かたきを討って下さい。お願いでございます、親分」
「商家の手代風てだいふうの者でございますが、この肩さきから斜めに——いやもう、ふた目と見られませぬむごい傷で……」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そうじゃありません。その方の怪我人は片づけましたが、私の発見したそのお客の屍体はむごたらしく咽喉笛を
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
青山小町とまでうたわれた娘を、こんなむごい目にわしやがった奴を、おめおめ生かしておくもんじゃねえ。
水の手の水番小屋をのぞいてみると、城内の女たちや幼い者たちが刺しちがえて、嵐のあとの花野のようにむごたらしくもみなけなげに、朱のなかに俯伏うつぶしていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれが飛んだことになりました。「ふむ、死にましたろう。だから言わないことか、あんなにむごいことをなさるなと。とうとう責殺したね。非道ひどいことをしなすった。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とツこに取つて出てゆけとまではむごう御座んす、家の為をおもへばこそ気に入らぬ事を言ひもする
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その時の弟子の恰好かつかうは、まるで酒甕を転がしたやうだとでも申しませうか。何しろ手も足もむごたらしく折り曲げられて居りますから、動くのは唯首ばかりでございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
町「なゝゝゝなゝなんと仰しゃいます、この熊をお撃ちなさると、そりゃアまアむごたらしい」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
内部の情景を一目見せられた私は、想わずあっとおどろきの叫びを立てましたが、にわかに体中がふるえ出し、奥歯のかちかち触れ合うのが止みません……何というむごたらしい出来ごとでしょう。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
方様はさておき、罪なき奥様の跡にてのお歎きいかなりけむ。思へばむごき事なりしを、心狂はしきまで方様を恨みし我は。奥様をも和子をも、かつは我が身の上までも、忘れ果てしぞ浅ましき。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
そしてこのむごたらしい習俗はアイヌのウフイが残存したものである。アイヌでは難産で死ぬと墓地において、老婆が鎌を以て妊婦の腹を切開して葬ることが、アイヌの足跡と云う書に詳記してある。
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
どんなむごいことが、この全然人気のない原っぱの中で行われたか……ただ、彼女の真白い足の裏が、靄に溶け込んだ蒼白い月の光りの中に、まるで海底の海盤車ひとでのようにいぎたなく突き出されて見え
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
しかし血はむごたらしい程に噴いていても、傷は皆浅い。
眼にこそ見えませんが、この世間には男性に弄ばれた女性の生きたむごたらしい死骸しがいが、幾つ転がっているかも分りません。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
むごたらしい殺され方を見た時、その遺書かきおきを繰返して見た時、不貞の女の当然の報いを眼前に見せられても、なおその女が憎いとは兵馬には思えないで
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
で、わたくしどもにむかって身上噺みのうえばなしをせいとッしゃるのは、わばかろうじてなおりかけたこころ古疵ふるきずふたたえぐすような、随分ずいぶんむごたらしい仕打しうちなのでございます。
わたくしがおくしながら、先夜の女中の箱屋がかの女にむごたらしくした顛末てんまつつい遠廻とおまわしにたずねかけると
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あの煙にむせんで仰向あふむけた顔の白さ、焔をはらつてふり乱れた髪の長さ、それから又見る間に火と変つて行く、桜の唐衣からぎぬの美しさ、——何と云ふむごたらしい景色でございましたらう。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
むごたらしゅう殺したる、くちなわの鎌首ばかり、飛失せたらむ心地しつ立っても居ても落着かねば、いざうれ後を追懸けて、草を分けて探し出し、引摺ひきずって帰らんとお録に後を頼み置き
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この手紙を読み終って、あたしは悲歎ひたんに暮れた。なんという非道ひどいことをする悪漢だろう。銀行の金を盗み、番人を殺した上に、松永の美しい顔面をむごたらしく破壊して逃げるとは!
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それらはその苦しさにおいても、ときめきにおいても、恐ろしい忍耐でさえもすべてはポーランドの土と結ばれているものである。そのポーランドにむごたらしい破壊が加えられている。
キュリー夫人 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
このむごたらしい光景を、詳しくお話するのは私の主旨ではありません。
「ウーム! あやまって、とんだむごいことをいたした……」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「誰が何の恨みでしたのか、わたくしはすこしも存じませんが、江戸に近い巣鴨の庚申塚こうしんづかというところで、むごたらしく殺されてしまったそうでございます」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうした場合ばあい人間にんげんというものはさてさてむごいことをするものじゃと、わしはどんなになげいたことであろう……。
例えそれが畸形児であろうとも、妾が母たることに違いはないのだ。血肉を分けた可愛い自分の子に違いないのだ。流産して殺すなんてそんなむごたらしいことがどうして出来ようか。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
およそ世の中に、家の為に、女のを親勝手に縁附けるほどむごたらしい事はねえ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうかしましたか」それは決してむごいとか冷淡とかいう声の響ではなかった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「どうしたのです、これはまあ、むごたらしいねえ、どうして早く取片づけてあげないの」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
屍体の咽喉部は、真紅な血糊ちのりでもって一面にむごたらしくいろどられていたが、そのとき頸部けいぶの左側に、突然パックリと一寸ばかりの傷口が開いた。それは何できずつけたものか、ひどく肉が裂けていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あれほどの大手柄をたてた艦に、なんとむご御褒美ごほうびでしょう。
太平洋雷撃戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「なんというむごいこと……」