恰度ちやうど)” の例文
相應の賑ひを見せて居る眞砂町の大逵おほどほりとは、恰度ちやうど背中合せになつた埋立地の、兩側空地あきちの多い街路を僅か一町半許りで社に行かれる。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
今しも汽車が同じ列車に人々及び彼を乗せて石狩の野を突過してゆくことは、恰度ちやうど彼の一生のそれと同じやうに思はれたのである。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
銀行家だからといつて、まさか金塊を懐中ポケツトに入れてゐる訳でもありますまいから、一億円の金塊は恰度ちやうど三尺立方のかさがあります。
恰度ちやうど部屋の真中へ天窓から強烈な光線が落ちてゐる。その中へ遠野ととみ子とは白い両手を握り合つてふら/\と立ち上つた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
空家の前から左へ少し行くと路地の行止りで、其處に隣の大瀧清左衞門の浪宅の裏口——恰度ちやうど妹娘のお勢の部屋から出る木戸があるのです。
恰度ちやうどその時患者もゐなく、夕飯前の時刻を、ボンヤリしてゐたのであつてみれば、上つて話せといふその言葉も、可なり自然なものであつた。
亡弟 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
日本野球界は勿論、学生界に取つて最大不祥事件の一なる、早慶両大学野球戦中止の事あつてから、恰度ちやうど満六年になる。
恰度ちやうど、あちらからその組合規定が送つて来たのですが、その表題は『有限責任狩太共済農団信用購買販売利用組合定欵』
私有農場から共産農団へ (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
ところが恰度ちやうど一座が多人数を要したので、彼も川上の眼をのがれ、人々に紛れてうまく採用されて了つたが、入つて了つてから、川上はすぐに彼に気が附いた。
(新字旧仮名) / 久米正雄(著)
恰度ちやうど立去たちさるべきときました、いけにはそろ/\其中そのなかんだ澤山たくさんとり動物どうぶつ群集ぐんじゆうしてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
おしづさんが安倍能成君の紹介で、阿母おつかさんに連れられて私の許へ來たのは、今から恰度ちやうど六年前の春の末だつたらうと記憶してゐます。何でも其當座は毎日のやうに遣つて來ました。
「青白き夢」序 (旧字旧仮名) / 森田草平(著)
恰度ちやうど春挙しゆんきよさんの海浜に童子の居る絵の出たころです。そのころは、それで普通のやうにおもつてゐたのでした。今日のは、何だか、そのころからみるとずつと絵がごつくなつてゐるとおもひます。
旧い記憶を辿つて (新字旧仮名) / 上村松園(著)
低声で話をしてゐます、恰度ちやうど暗夜に人々がさうするやうに。
三月一日は恰度ちやうど日曜日。快く目をさました時は、空が美しく晴れ渡つて、東向の窓に射す日が、塵に曇つた硝子を薄温かに染めて居た。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
シェードにおほはれた光線が恰度ちやうどそのひたひのところまで這ひ上り、そこの黄色を吸ひとつて石のやうに白く光らせてゐる。道助はそれを見てゐた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
すると、夜になつて家中うちぢゆうの鼠がこそ/\這ひ出して来て、鱈腹たらふくそれを食べるが、籾二斗で恰度ちやうど一年分の餌に足りるさうだ。
れいなるかなこの石、てんあめふらんとするや、白雲はくうん油然ゆぜんとして孔々こう/\より湧出わきいたにみねする其おもむきは、恰度ちやうどまどつてはるかに自然しぜん大景たいけいながむるとすこしことならないのである。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そこあいちやんは恰度ちやうど稽古けいこときのやうに前掛まへかけうへ兩手りやうてんで、それを復習ふくしうはじめました、が其聲そのこゑ咳嗄しわがれてへんきこえ、其一語々々そのいちご/\平常いつもおなじではありませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
こんな考へを永い間胸の中で上下しながら来るうちに、いつの間にか家の前まで来てゐた。ふと気がついて顔を上げると、反対の方向から恰度ちやうど父が帰つて来て、門を這入はいる所であつた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
恰度ちやうど立札ほどの高さに
唯一度私が小さい桶を擔いで、新家の裏の井戸に水汲に行くと、恰度ちやうど其處の裏門の柱に藤野さんが倚懸よりかゝつてゐて、一人潸々さめ/″\と泣いてゐた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
女優は自分の耳を疑ふやうに、戸をけてずつと入つて来た。も一度言つて置くが、その時は恰度ちやうど六月であつた。小僧はへんもない顔をして言つた。
かゝる時、はからず目に入つた光景は深く脳底にり込まれて多年これを忘れないものである。余が今しも車窓より眺むる処の雲の去来ゆきゝや、かばの林や恰度ちやうどそれであつた。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
彼が小走りにその曲り角へ来た時、彼女は恰度ちやうど三四間向うの左手の格子戸のはまつた家へ這入はいるところだつた、這入りながら彼女はふいと背後を振り返つた。道助は少し狼狽うろたへた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
そしてポケットから恰度ちやうど其日用があつて入れて置いた巻尺を取り出して入れた。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
あいちやんは不器用ぶきようつきで赤子あかごりました、それはめう格好かくかうをしたちひさな動物どうぶつで、れがいてるまゝに其腕そのうであしみんそとすと、『恰度ちやうど海盤車ひとでのやうだ』とあいちやんはおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
私が釧路の新聞へ行つたのは、恰度ちやうど一月下旬の事、寒さの一番きびしい時で、華氏寒暖計が毎朝零下二十度から三十度までの間を昇降して居た。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
恰度ちやうど日盛ひざかり太陽燦然ぎら/\かゞやき、あつさあつし、そのなかしんとしてしづまりかへつてる。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
少し暗い所へ來て、ホッと息を吐いた時は、腕車が恰度ちやうど本郷四丁目から左に曲つて、菊坂町に入つた所であつた。お定は一寸振返つてお八重を見た。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
恰度ちやうど予も同じ決心をしてゐた時だから、成るべくは函館で待合して、相携へて津軽海峡を渡らうと約束して別れた。
眼をねぶつた様な積りで生活といふものゝ中へ深入りして行く気持は、時として恰度ちやうどかゆ腫物しゆもつを自分でメスを執つて切開する様な快感を伴ふ事もあつた。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と此處まで歌つたときは、恰度ちやうど職員室の入口に了輔の右の足が踏み込んだ處である。歌は止んだ。此數分の間に室内に起つた光景は、自分は少しも知らなんだ。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
私の今日迄歩いて来た路は、恰度ちやうど手に持つてゐる蝋燭の蝋の見る/\減つて行くやうに、生活といふものゝ威力の為に自分の「青春」の日一日に滅されて来た路筋である。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
恰度ちやうど鶴飼橋へ差掛つた時、円い十四日の月がユラ/\と姫神山の上に昇つた。空は雲一片ひとつなく穏かに晴渡つて、紫深くくろずんだ岩手山が、歴然くつきり夕照せきせうの名残の中に浮んでゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
恰度ちやうど十時半です。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
恰度ちやうど橋の下である。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)