御影みかげ)” の例文
打出ヶ浜から御影みかげへかけての大事な一戦の日に——理由なく後陣ごじんへさげられ、そのまま不面目な帰洛を余儀なくされていたのだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御影みかげに住んでゐる男が、国元に相応かなり田畑でんばたを持つてゐるので、小作米の揚つたのを汽車で送らせて、御影の家でたくはへてゐるのがある。
銅の雨樋から落ちた水が、御影みかげで畳んだ見事な暗渠あんきょの中にチョロチョロと落ちて行くのを見て、平次は思わず歓声を挙げたのです。
いよいよ神戸出発の日が来て見ると、二十年振りで御影みかげの方から岸本を見に来た二人の婦人もあった。その一人は夫という人に伴われて来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
くゞりから這入ると玄関迄の距離は存外短かい。長方形の御影みかげ石が々々とびに敷いてある。玄関は細い奇麗な格子でて切つてある。電鈴ベルを押す。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それは御影みかげ手水鉢ちょうずばちの上に枝を延ばしている木蓮もくれんが、時々白い花を落すのでさえ、あきらかに聞き取れるような静かさだった。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今日では矢張り高野村の中に加茂御影みかげ社といふものがありまして、崇道神社の南側になつて居りますが、それがさうであつたといふ風に考へられて居ります。
近畿地方に於ける神社 (旧字旧仮名) / 内藤湖南(著)
阪急御影みかげの桑山邸にレオ・シロタ氏を聴く小さな集りがあって、それに三人が招待されていると云う訳で、雪子は外の会ならば喜んで棄権するのだけれども
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
五日の夕暮に源氏は昆陽野こやのを立ち、ようやく生田の森へ近づいた。すずめの松原、御影みかげの松、昆陽野の方を見渡すと、それぞれ陣を張る源氏勢は遠火をたいている。
ほらは三縦列に成つて歩く事の出来る広さで、上は普通の家の天井よりも高く、其れが一面御影みかげ質の巌石がんせきおほはれて居るのを見ると巴里パリイの地盤の堅牢な事が想はれる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
朝ごとの御影みかげが、花のごとく空をいろどる水平線の外にあって、最初は生死の別もなく、人の魂の自由に行き通う島地であったのが、次第にこちらの人の居処が移って
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
表の方へ廻りますと、冠木門かぶきもんまで御影みかげの敷石です。左の方はいろいろの立木があっても、まだ広々していました。後には、ここらが寂しいからと、貸家を二軒立てました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
昨日きのふは荷物を部屋に運び終ると、直ぐに御影みかげに住む友達、田原の家によばれて行つた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
またちか淡海あふみ御上みかみはふりがもちいつくあめ御影みかげの神が女、息長おきなが水依みづより比賣に娶ひて、生みませる子、丹波たには比古多多須美知能宇斯ひこたたすみちのうしの王、次に水穗みづほ眞若まわかの王、次に神大根かむおほねの王
「さ、露月どの、わしの信仰する神様のあらたかな御影みかげを拝まして進ぜるわ」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その院宣はついに、西の宮、御影みかげの再起戦でも負け、完膚かんぷなきまで、官軍にたたかれたさいごの日まで、彼の手には入らなかった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私が丸い墓石はかいしだの細長い御影みかげだのを指して、しきりにかれこれいいたがるのを、始めのうちは黙って聞いていたが
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
六七人力を併せると、四枚の御影みかげを畳んだ井桁は何んの苦もなく取り払われて、石畳の上に陥穽おとしあなのように、空井戸は真黒な口をポカリとあきました。
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その内に御影みかげ狛犬こまいぬが向い合っている所まで来ると、やっと泰さんが顔を挙げて、「ここが一番安全だって云うから、雨やみ旁々かたがたこの中で休んで行こう。」
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あの地方では取締役なるものができ、村民は七名ずつ交替で御影みかげの陣屋をまもり、強賊や乱暴者の横行を防ぐために各自自衛の道を講ずるというほどの騒ぎだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
多分四時半ぐらいと思われる頃(貞之助の腕時計も破れてしまっていた)御影みかげ町の玉置家の親戚しんせきから、女史と少年の安否を気遣って男衆おとこしゅを見舞いに寄越したので、それをしおに
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
御影みかげの田原の家はひつそりして、あるじの悄氣しよげてゐるのに引込まれ、子供達迄つまらない姿をしてゐるだらうと想像してゐたのにひきかへ、方々の酒藏の間をぬけて海邊に出ると
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
薩摩さつまには石神氏という士族の家が方々にありますが、いずれも山田という村の石神神社を、家の氏神として拝んでおりました。そのお社の御神体も、白い色をした大きな御影みかげ石の様な石でありました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
塵居ちりゐ御影みかげ古渡こわたりの御經みきやう文字もじめてしれて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
「義貞はここの旗本、細屋、大井田、烏山からすやま、羽川、一の井、籠守沢こもりざわなどの手勢すべてをひきつれて、一せいに生田いくた御影みかげあたりまで陣を退く」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家並いえなみの立て込んだ裏通りだから、山の手と違って無論屋敷を広く取る余地はなかったが、それでも門から玄関まで二間ほど御影みかげの上を渡らなければ
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兵庫県の御影みかげ中学校だと名乗った。私のレコード講演を何かで読んで、顔を見たいと思ったのが、光一と長一と、一字違いで混線してしまったのである。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
お敏は薄暗がりにつくばっている御影みかげ狛犬こまいぬへ眼をやると、ほっと安心したような吐息をついて、その下をだらだらと川の方へ下りて行くと、根府川石ねぶかわいしが何本も
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
阪神の御影みかげ町にある外科の病院なのであったが、そこの院長の蒲原博士は、阪大の学生時代から船場の店や上本町の宅に出入りして、蒔岡家の姉妹たちとは娘の頃からの馴染なじみなのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
みみらくの我日本わがひのもとの島ならばけふも御影みかげにあはましものを
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
塵居ちりゐ御影みかげ古渡こわたりの御經みきやうの文字やめでしれて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
書写山のかこみを破って、十七日、師直、師泰の兵を先手せんてに、兵庫へ出、さらに御影みかげ街道へと、いかりの奔流を見せていた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
味方の砲弾たまでやられなければ、勝負のつかないようなはげしいいくさ苛過つらすぎると思いながら、天辺てっぺんまでのぼった。そこには道標どうひょうに似た御影みかげ角柱かくちゅうが立っていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
初子は身をななめにして、すかすように格子の外を見た。格子の外には、一間に足らない御影みかげの敷石があって、そのまた敷石のすぐ外には、好い加減古びたくぐり門があった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのうちの幾つかはひさしの下にハミ出して、それが、お安の頭を打つたのでせう、わけても、澤庵たくあんの重しほどの三四貫もあらうと思はれる御影みかげの三角石は、蘇芳すはうを塗つたやうにあけに染んで
「次は御影みかげ、次は御影でございます。………」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
うき身夜な夜な御影みかげ
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
生田の浜脇はまわきから神社の森へかけて展開していた新田義貞の陣も、いまはあとかたなく、敗北の総なだれを、はるか御影みかげの彼方へ没してしまい、あとには
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三人は入口の五、六間手前でとまった。右手にかなり大きな御影みかげの柱が二本立っている。とびらは鉄である。三四郎がこれだと言う。なるほど貸家札がついている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御影みかげ狛犬こまいぬが並んでいる河岸の空からふわりと来て、青光りのする翅と翅とがもつれ合ったと思う間もなく、蝶は二羽とも風になぐれて、まだ薄明りの残っている電柱の根元で消えたそうです。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
土藏の入口の御影みかげの土臺石に頭を打つて死んでしまひましたよ
御影みかげにいつく比丘尼びくに
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
(この頃はなんでも、兵庫ひょうご御影みかげあたりで、誰やらの下屋敷にごろついているそうな)そういう噂は聞えたが
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六畳の座敷は東向で、松葉を敷き詰めた狭い庭に、大き過ぎるほど立派な御影みかげ石燈籠いしどうろうが据えてあった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
委細を使いの者から聞くと、取る物も取りあえず、御影みかげを立って、途中大坂の傾城町けいせいまちで旅支度や酒をととのえ、夜をおかして、駈けつけてまいったのですぞ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひのきとびらに銀のようなかわらせた門を這入はいると、御影みかげの敷石に水を打って、ななめに十歩ばかりあゆませる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
石に不自由せぬ国と見えて、下は御影みかげで敷き詰めた、真中を四尺ばかりの深さに掘り抜いて、豆腐屋とうふやほどな湯槽ゆぶねえる。ふねとは云うもののやはり石で畳んである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「方丈があいさつに出るところじゃが、つい昨日摂津せっつ御影みかげまで参ってな、まだ両三日せねば帰らぬそうじゃ。——で、わしが代ってごあいさつ申す仕儀でござる」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
繁氏しげうじ(細川)。山の手の助けに行け。三河ノ三郎(吉良)。なぎさづたいに御影みかげうしづめに駈けろ」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沙翁シェクスピアは女を評してもろきは汝が名なりと云った。脆きが中に我を通すあがれる恋は、かしぎたる飯の柔らかきに御影みかげの砂を振り敷いて、心を許す奥歯をがりがりと寒からしむ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)