庭前ていぜん)” の例文
うよりはや天狗てんぐさんは電光いなづまのように道場どうじょうからしたとおももなく、たちまちするすると庭前ていぜんそびえている、一ぽんすぎ大木たいぼくあがりました。
の一日前にちまへ暮方くれがたに、千助せんすけは、團右衞門方だんゑもんかた切戸口きりどぐちから、庭前ていぜん𢌞まはつた。座敷ざしき御新姐ごしんぞことを、あらかじつてのうへ
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夏の間は水浴を一日も欠かすことができないので、この数年来、夏が来るとひそかにこの別院に隠れて、冷たい清水の庭前ていぜんの池に水浴するのであった。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ちょうどなつあつに、庭前ていぜんみづをまけばにわかにすゞしさがかんぜられるのとおなじりくつです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
しかも澄ましたものだ。いかなるこれぶつと問われて、庭前ていぜん柏樹子はくじゅしと答えた僧があるよしだが、もし同様の問に接した場合には、余は一も二もなく、月下げっか覇王樹はおうじゅこたえるであろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
○そも/\我里わがさとの元日は野も山も田圃たはたさと平一面ひらいちめんの雪にうづまり、春を知るべき庭前ていぜんの梅柳のるゐも、去年雪のふらざる秋の末に雪をいとひて丸太など立て縄縛なはからげあひたるまゝ雪の中にありて元日の春をしらず。
河中へ投込候ものと相見え今以て行方相知れ不申候もうさずそろ又土蔵へ忍入りしやわたくし所持の衣類金銀ともことごとく盗取り逃去り候跡へ我等参合まいりあわせきよと申す下婢かひに相尋ね候処驚怖の余りおのれの部屋に匿れ潜みおり候えば賊の申候言葉ならびいずれへ逃去候しか不相分あいわからず申出候もうしいでそろしかるに一応家内取調申候処庭前ていぜん所々しょ/\に鮮血の点滴有之これあり殊に駒の緋絹縮ひぎぬちゞみ下〆帯したじめおびりゅうの単物ひとえもの血に染み居候まゝ打棄うちすて有之候間此段御訴申上候
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かの長生殿裡ちやうせいでんり日月じつげつのおそきところ、ともに𢌞風くわいふうきよくしやうするにあたりてや、庭前ていぜんさつかぜおこり、はなひら/\とひるがへること、あたか霏々ひゝとしてゆきるがごとくなりしとぞ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、云ってちながら、そのまま傍へ寄って小さなこぶしを右の肩端かたさきへ持って往った。と、そのときかすかな物の気配がした。義竜が不思議に思って顔をあげた時、庭前ていぜんにちらちらと人影が動いた。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
○そも/\我里わがさとの元日は野も山も田圃たはたさと平一面ひらいちめんの雪にうづまり、春を知るべき庭前ていぜんの梅柳のるゐも、去年雪のふらざる秋の末に雪をいとひて丸太など立て縄縛なはからげあひたるまゝ雪の中にありて元日の春をしらず。
垢染あかじみた布団ふとんひややかに敷いて、五分刈ごぶがりが七分ほどに延びた頭を薄ぎたない枕の上によこたえていた高柳君はふと眼をげて庭前ていぜん梧桐ごとうを見た。高柳君は述作をして眼がつかれると必ずこの梧桐を見る。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たれにか棄てられけむ、一頭いつとう流浪るらうの犬の、予が入塾の初より、数々しば/\庭前ていぜん入来いりきたり、そこはかと𩛰あさるあり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それと同時に室の中に銀色の眼をきろきろと光らした一ぴきの大きながまが見えて、それがぴょんぴょんと飛んで縁側から飛びおり、暗い庭前ていぜんの池の中へどぼんと云う重い音をさして飛び込んだ。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これはさすがに、井戸端ゐどばたで、のりけるわけにはかない、さりとて用人ようにん若御新造わかごしんぞ、さして深窓しんさうのとふではないから、隨分ずゐぶん臺所だいどころに、庭前ていぜんではあさに、ゆふに、したがひのつまなまめかしいのさへ
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)