崩折くずお)” の例文
お君は八五郎のといには答えず、廊下にヘタヘタと崩折くずおれてしまいました。内から応じたうめき声も、ついには絶えてしまった様子。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
お蔦 (消ゆるがごとく崩折くずおれる)ええ、それじゃ、貴方の心でなく、別れろ、とおっしゃるのは、真砂町の先生の。(と茫然ぼうぜんとす。)
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて持っていた刀をそこへ投げ出すとひとしく、道標の下へ崩折くずおれるように倒れて、横になって落葉の上へ寝てしまいました。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
グッタリとうなだれて、石の床の上に崩折くずおれ座りつつ、白い患者服のそでを顔に当てたと思うと、ワッと声を立てながら、寝台の上に泣き伏してしまった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一人の女の子を残して急病で夭死わかじにし、彼女の身辺に何か寂しい影が差し、生きる気持が崩折くずおれがちであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
高氏は、人をおそれた。世間がはばかられた。だが、とどろな波音の夜こそ、倖せだった。過ぎし年の、覚えをまざとよみがえらせるその黒髪を掻い抱いたまま、共に濡れ縁へ崩折くずおれた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その内に猪首の若者は、とうとう大岩にせなされて、崩折くずおれるように砂へ膝をついた。その拍子ひょうしに彼の口からは、叫ぶともうめくとも形容出来ない、苦しそうな声が一声ひとこえあふれて来た。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それでも気丈な祖母は崩折くずおれず、養子が優しい性質で励ましてもくれますので、孫の出生をひたすら待ったのでした。そうして生れた孫が私たちの長兄鴎外で、母はその時十七歳でした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
監房へ入るとすぐに寝台の端に手をささえて崩折くずおれたほどであったが、無口な若者はそれ以来ますます無口になり、力のないしかしきびしい目つきでいつまでもじっと人の顔を見つめるようになり
(新字新仮名) / 島木健作(著)
その子もやがて柱のかげに崩折くずおれる。
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
たぬき真物ほんものになって、ツイ、うとうととした平次、ガバと飛起きて行って見ると、お静は流し元に崩折くずおれて、顳顬こめかみを押えております。
死せるがごとき時彦の顔をみまもりしが、俄然がぜん崩折くずおれて、ぶるぶると身震いして、飛着くごとく良人にすがりて、血を吐く一声夜陰を貫き
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……それを私から払いけられたために、床の上へ崩折くずおれて、はらわたを絞るほど歎き悲しんでいる……
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お君の振舞ふるまいはいつもとは違って、物狂わしいほどに動いてみえました。それでも入って来たところの障子は締め切って、そして能登守の膝元へ崩折くずおれるようにひざまずいて
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
銀子の心はにわかに崩折くずおれ、とぼとぼと元の道を歩いたのが、栗栖の門の前まで来ると、薄暗いところに茶の角袖かくそで外套がいとうに、鳥打をかぶった親爺の磯貝いそがいが立っているのに出逢であい、はっとしたが
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
どっと崩折くずおれて
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
串戯じょうだんらしく言いながら、果敢はかないお蔦の姿につけ、なさけにもろく崩折くずおれつつ、お妙を中におもてを背けて、紛らす煙草の煙も無かった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次はお勝手を覗くと、薄暗い行灯あんどんの下、上がりかまちに近く崩折くずおれたまま泣いているのは、花束を叩き付けたような、痛々しい姿の若い娘。
私は大卓子テーブルの上に崩折くずおれ伏した。声を立てまいとしても押え切れない声が両手の下からむせび出た。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
不知火しらぬいの海、その名は歌のようにわたくしの魂の糸をかき鳴らしますけれども、現在そのところに至れば、わたくしの魂はずたずたに裂かれて、泣き崩折くずおるるよりほかはなかろうと思われます。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一室はことごとく目を注いだ、が、淑女は崩折くずおれもせず、やわらかつまはずれの、いろある横縦の微線さえ、ただ美しく玉に刻まれたもののようである。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お国は気が遠くなったようにそこへ崩折くずおれると、何に驚いたか寝付いたばかりの新太郎は、火の付くように泣き出しました。
長刀なぎなた朽縁くちえんに倒れた。その刃のひらに、雪のたなそこを置くばかり、たよたよと崩折くずおれて、顔に片袖をおおうて泣いた。身の果と言う……身の果か。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
入って来たのは乳母ばあやのお霜でした。平次の顔を見ると、いきなり畳へ崩折くずおれて、赤ん坊のようにシクシク泣き始めたのです。
母親のお楽は、自分の腕の中に、一とかたまり襤褸切ぼろきれのように崩折くずおれるお菊を揺すぶりながら、全身に血潮を浴びて、半狂乱に叫び立てるのでした。
寝衣ねまきにぐるぐると扱帯しごきを巻いて、しものような跣足はだし、そのまま向うむきに、舞台の上へ、崩折くずおれたように、ト膝を曲げる。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不安そうに四方あたりを見廻しながら、崩折くずおれるように腰をおろしました。少し遠い電灯は、青白くその顔を照し出します。
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
夫人 (獅子頭とともにハタと崩折くずおる)獅子が両眼を傷つけられました。この精霊しょうりょうで活きましたものは、一人も見えなくなりました。図書様、……どこに。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
離屋はなれの一と間で、誰とも知れぬ者の手で、胸を一とえぐり、声も立てずに死んだのでしょう。縁側に崩折くずおれたまま、血汐の中に息が絶えておりました。
酔ってる処へ激しく動いたので、がっくり膝が抜けて崩折くずおれようとして、わずかにこらへ、掻挘かいむしるように壁に手をすがって、顔を隠してほっという息をいた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ドンと一つ突飛ばして、大輪の牡丹の如く崩折くずおるる妹を尻目に、火縄はサッと動いて、大筒の口火に点じました。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
海の方をそびらにして安からぬさまに附添った、廉平の足許に、見得もなく腰を落し、もすそを投げて崩折くずおれつつ、両袖におもておおうて、ひたと打泣くのは夫人であった。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お徳は後ろから頸筋くびすじを深々と切られて、半分開けたドブ板に手を掛けたまま、碧血へきけつの中に崩折くずおれていたのです。
激昂げっこうの反動はいたく渠をして落胆せしめて、お通ははりもなく崩折くずおれつつ、といきをつきて、悲しげに
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木原伝之助は虚勢を失って、畳の上に崩折くずおれると、次の瞬間、一刀を引抜いて、ガバと腹に突っ立てたのです。
首垂うなだれたり、溜息ためいきをしたり、しわぶいたり、堅炭かたずみけた大火鉢に崩折くずおれてもたれたり、そうかと思うと欠伸あくびをする、老若の患者、薬取がひしと詰懸けている玄関を、へい、御免ねえ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
権堂と呼ばれた乞食体こじきていの男は、橋の上へ、ヘタヘタと坐ると、その上へ美しい娘の土岐子は、崩折くずおれた芙蓉ふようの花のように、気をうしなって倒れてしまいました。
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
うろ覚えに実の母親は知っていたけれども、年紀としも分らねば所も知らず、泣けば舌のさきじられるから、ほろほろ、涙を流しては、といった、蝶吉はその時、崩折くずおれて涙を払った。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄桃色に上気した美女の肉体が、黄金の山の上へ崩折くずおれると、胸から赤い血潮が、滝の如く吹き出すのでした。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
お雪は声を呑んで袂に食着いていたのであるが、優しくされて気もゆるんで、わっと嗚咽おえつして崩折くずおれたのを、慰められ、すかされてか、節も砕けるほど身に染みて、夢中ににじり寄る男のそば
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
フと気が付いた時は、とある屏風びょうぶ岩の下に崩折くずおれて、無気味な浪人者にマジマジと見おろされて居たのでした。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
と、つくづく腕を組んであどけない、罪のないことを真心から言って崩折くずおれた。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お仲は自分の位置の恐ろしさを判然はっきり覚ったものか、急に泣き出しながら、ヘタヘタと大地に崩折くずおれました。
やがて桐火桶の前に坐して、亡き人の蒲団をけつつ、そのそば崩折くずおれぬ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お高さんは床の上へ崩折くずおれました。引伸写真を覗いていたのですが、夫が断末魔の苦しみのうちに、自分を殺した相手の名を書いたのを見て気をうしなったのです。
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
お雪は台のむこうへしどけなく、崩折くずおれてたおれていたのでありまする。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孫三郎は父親の命を取止めようと骨を折りましたが、その時はもう力が尽きたものか、生命の最後の痙攣けいれんが走ると、倅の腕の中にがっくりと崩折くずおれてしまったのです。
と投げたように、片身を畳に、つまも乱れて崩折くずおれた。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて愛子の全体重を委ねられたカーテンは、その重さに堪え兼ねて、大きい鳥の翼のようにバサリと、落ちて、床の上に崩折くずおれた愛子の身体からだを包んでしまいました。
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
旦那はそのまま崩折くずおれて、男泣きに泣いたわね。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)