岐阜ぎふ)” の例文
茂助吉晴は、いまでこそ、錚々そうそうたる羽柴麾下きかの一将だが、その青年期までは、岐阜ぎふの稲葉山つづきの山岳中に育った自然児である。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは中々の美人で、日本などへ来るには勿体もったいない位な容色きりょうだが、何処で買ったものか、岐阜ぎふ出来の絵日傘を得意に差していた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「叔父さん、ホラ、私がこの夏、岐阜ぎふの方へ行って、鵜飼うかいの絵葉書を差上げましたろう。あの時、下すった御返事は、大事に取っといてあります」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
美濃の都は岐阜ぎふであります。鵜飼うかいで有名な長良ながら川のほとりに在る町であります。この都の名にちなんだものでは、誰も岐阜提灯ぎふぢょうちんのことが想い浮ぶでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
されば南シナ海の低気圧は岐阜ぎふ愛知あいちに洪水を起こし、タスカローラの陥落は三陸に海嘯かいしょうを見舞い、師直もろなおはかなわぬ恋のやけ腹を「物の用にたたぬ能書てかき」に立つるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
岐阜ぎふではまだ蒼空あおぞらが見えたけれども、後は名にし負う北国空、米原まいばら長浜ながはま薄曇うすぐもりかすかに日がして、寒さが身に染みると思ったが、やなでは雨、汽車の窓が暗くなるに従うて
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝顔の花一ぱいにたまる露の朝涼ちょうりょう岐阜ぎふ提灯ちょうちんの火も消えがちの風の晩冷ばんれい、涼しさを声にした様なひぐらし朝涼あさすず夕涼ゆうすずらして、日間ひるまは草木も人もぐったりとしおるゝ程の暑さ、昼夜の懸隔けんかくする程
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
伊吹山 六九、二 岐阜ぎふ 四十、二
伊吹山の句について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
信長に身を寄せた漂泊の将軍家義昭よしあきは、その後、岐阜ぎふの城下西にしたなの立正寺を宿所と定められて、一行はそこにししていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはなか々の美人で、日本抔へるには勿体ない位な容色だが、何処どこで買つたものか、岐阜ぎふ出来でき絵日傘ゑひがさを得意にしてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
岐阜ぎふでは蒼空あをそらえたけれども、あとにし北国空ほくこくぞら米原まいばら長浜ながはま薄曇うすぐもりかすかして、さむさがみるとおもつたが、やなではあめ汽車きしやまどくらくなるにしたがふて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
明治九年から十二年まで、彼は特に選ばれて岐阜ぎふごん区長の職にあったが、その時ばかりは郷党子弟のためであるとして大いに努めることをいとわなかった。すべてこのたぐいだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
のみならず友松は、以前、武人として、岐阜ぎふの斎藤家に禄仕ろくししていたことがあるので、その頃から、内蔵助利三とは、よく知っていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岐阜ぎふ県××町、——里見稲子さとみいなこ、二十七、と宿帳に控えたが、あえてしるすまでもない、岐阜の病院の里見といえば、家族雇人やからうから一同神のごとくに崇拝する、かつて当家の主人あるじが、難病を治した名医
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
元来高山中教地は筑摩ちくま県の管轄区域であったが、たまたまそれが岐阜ぎふ県の管轄に改められる時を迎えて見ると、多くの神官は世襲で土着する僧侶とも違い、その境涯きょうがいに安穏な日も送れなかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
どうです粗菓そかだが一つ御撮おつまみなさい。岐阜ぎふ柿羊羹かきようかん
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
於松おまつ。……おとなしゅう待っておれよ。父はこれから都を経て、岐阜ぎふという国までお使いに行ってくる。よいか。わかったか」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
首尾しゆびよく岐阜ぎふしたのであつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一面、岐阜ぎふの方の動きを見ると、藤吉郎の献策が用いられた結果か、いわゆる隣交遠計の方針が、その外交に活溌にあらわれだしていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岐阜ぎふを得られて、今年は内政を整え、兵馬を養うて、さらに他日を待つ時であると——こう信長様にはお考え中のものと思われますゆえ」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
織田信忠、川尻与兵衛かわじりよへえ、毛利河内守かわちのかみ、水野監物けんもつ、滝川左近などの岐阜ぎふから岩村へ入った軍勢など、その行くところ敵なしという有様だった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さよう。あれ以来かもしれぬ。……あの折は、嫁君のお輿をお迎えのため、それがしが奉行して、岐阜ぎふまで参りましたから」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岐阜ぎふ清洲きよすなどとちがい、彼の地に、菜の花が咲き、桜も散る頃になって、ようやく、野や山が、斑々まだらまだら雪解ゆきげしてまいる」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この岐阜ぎふの御城下を歩いていたら、うす紅梅の被衣かずきをして、供の男に塗笠を預け、買物がてら歩いていた奥様がありました。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岐阜ぎふから陸路をいそぐ場合、いつも途中一向宗の僧徒や、各地の残敵にさまたげられて、意のごとくはかどれない恨みがある。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はそのために、九州やさかいへも何度か行った。そしていちはやく岐阜ぎふの里に鉄砲鍛冶かじを養成し、自分の居城には、ひそかに火薬も貯えたりしていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああ。あなた方は岐阜ぎふの御家中でございますな。援軍に……徳川勢の援軍に……これへ来ておいででございますか」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「兄上、兄上ッ。ゆう殿を召し連れ、ただ今久作、岐阜ぎふ表より立ち帰りました。君前へは、兄上よりよしなに!」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長は入洛じゅらくしていて、岐阜ぎふは留守だし、加うるにその以前、信長が長嶋門徒の剿滅そうめつにかかったとき、家康から援軍を送らなかったので、二国同盟の信義も
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず! 岐阜ぎふの信長どのには、すでに御出馬あって、三万余の大軍、陸続りくぞくと岡崎表よりこれへお進みあるぞッ。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことし天正三年のつい先月、五月の初めには、信長は岐阜ぎふを出て、徳川家康とともに、甲山の精鋭武田勝頼かつよりの大軍を長篠ながしのに破って、もう岐阜へ凱旋がいせんしていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蜂須賀七内をはじめ、岐阜ぎふに入り込んでいる乱波らっぱの衆が、いぬ下刻げこくに集まることになっている場所だった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一昨日おとといから昨夜にかけて、美濃方面は豪雨だったとみえ、大垣岐阜ぎふ間の合渡川ごうとがわも呂久川も氾濫はんらんしていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵の六万余も、その一部は、岐阜ぎふ方面の抑えにかねばならず、長島へも幾部隊かを当てるであろう。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、使番の復命を、森武蔵守がうけとったのは、すでに彼の隊が、狭隘きょうあいな山あいの湿地しっちをふんで、岐阜ぎふたけの上へ、陣場を求めようとして登りかけていた時だった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それというのも、かつては世間の女房なみに、ツノをたてたこともあって、長浜の城にいた頃、わざわざ手みやげなど持って、良人の主人である岐阜ぎふの信長の許へゆき
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この正月半ば、森蘭丸は、お使いに派遣されていたが、公務を果して、岐阜ぎふの城から帰って来た。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「え。この岐阜ぎふの御城下でも、生れ故郷でも、広い天下の何処へでも、行きたい所へ行ってみる事ができます。会いたいと思うおっ母さんでも、話しする事ができるんで」
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えたる国の自壊じかいが始まったのである。年を越えて、ことし弘治二年の四月、浅ましき父子の合戦は、岐阜ぎふの里、長良川ながらがわほとりを、業火ごうかの炎と、血みどろのちまたにして闘い合った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ほ。岐阜ぎふヶ嶽というか。——あれへ、取りついた人数は、森武蔵じゃの。さては、程なく勝入の軍勢も、どの山かに、備えるであろう。物見っ、物見の者。急いで見てこい」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、本丸の上段、毛皮のしとねに、どッかりかまえた修理亮勝家しゅりのすけかついえは、その年、五十三の老将である。こよいも、岐阜ぎふ侍従じじゅう信孝のぶたかからの飛状ひじょうを読みおわって、憤怒ふんぬおもてにみなぎらしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「彦十様。あなたこそ、どうしてそんな商売をして、この岐阜ぎふにいるんですか」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「家は、岐阜ぎふ大垣おおがきのあいだの、小野おのさとでございます。その小野を出て、稲葉山いなばやまの裏道で、連れの者と、待ちあわせる約束をしたのに、どうしたのか、その男がもどって来ませぬ……」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岐阜ぎふの里まで用事があって出向いたところ、すぐ木戸の役人に見咎みとがめられて
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岐阜ぎふの里いちめんが火の海になるかならぬか? また、鷺山城と稲葉山城との、大乱が起るか否かの——大きな分れ目と思えば、日吉の胸も、生れて初めての大きな昂奮を覚えずにいられなかった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「およろこび下さい。岐阜ぎふへ出向くことになりました」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)