くつ)” の例文
片岡君は朝から鎧を着たような重苦しい気分に圧迫されていたが、今やそれが取れて悉皆すっかりくつろいだ。元日が元日らしくなって来た。
一年の計 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こう云う気楽な考で、参禅している人もあると思うと、宗助も多少はくつろいだ。けれども三人が分れ分れに自分のへやに入る時、宜道が
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼等もつり込まれて思わず笑い、たばこの火をかりた人の方を見ると、その人々も笑っている。日曜日らしいくつろいだ情景でひろ子は愉快を感じた。
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
もし共に暮すなら、日に日に親しみは増すであろう。それらのものが傍にある時、真に家に在るくつろぎを覚えるであろう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
さて、わたしもくつろがう、明日あす明後日あさつて、早速大磯に移ることにして、それからみんなで真黒に丈夫になる競争をしよう。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
二人の口から吐く最初の煙のテンポが同じだったので、それがおかしかった。二人は笑った。くつろげられた気持ちに乗って夫人はこんなことを言った。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして翌日も同様な日がつづき、しとどにぬれた老松は、枯枝も葉を持つ古幹も、枝の組み合わせをくつろげて、生き生きと木末を上方にもたげていた。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
ほかに本堂前の段々にくつろいでいる、四人の人足の分、それを二人は、幾度にも/\、面白そうに運ぶのでした。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
過去の憂苦も行末の心配も吉野紙をへだてた絵ぐらいに思われて、ただ何となくくつろいだ心持になっている。
障子の落書 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
四葉塩竈などの黄や紅の花が、もうひたひたと雪渓のそばまで歩み寄って、尖った神経にくつろぎを与える。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「粗略ではござるがまずおくつろぎください」蓑賀殿は玉村使節を上座に請じて云った、「当市は治安経済民生すべて申し分がなく、民は鼓腹して泰平を謳歌おうかしております。 ...
母はと云えば、母はまた家事にかまけてばかりいる人であったから、なかやを相手にいつも忙しそうに立ち働いていた。くつろぎのときはと云えば、針仕事をしているときであった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
はだが冷えびえと夜涼やりょうを覚えるようになって、やれやれと打ちくつろいで居る心持。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
くつろぎなさい。もっと、楽な気もちにおなりなさい。あなたの歩いてきた道は、わたくしも通ってきた道だ。風波と戦うばかりが彼岸ひがんの旅ではありません。——しかし、よくそこまでやられた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くつろげかけまもり袋取出してお三婆に示せば是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
氣樂きらくかんがへで、參禪さんぜんしてゐるひともあるとおもふと、宗助そうすけ多少たせうくつろいだ。けれども三にんわかれ/\に自分じぶんへやはひとき宜道ぎだう
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「あゝ、驚いたよ。あの子供が此の間ぢゆう、あんなに攻勢に出て来たやつとは知らなかつたなあ。」彼は思ひ出して、「アハヽ」とくつろいで笑つた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「然うさ。それを突破すれば後は当分くつろげる。大丈夫だよ。今までは恐れていたからいけない」
一年の計 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これは、決して、虚飾きょしょくや、阿諛あゆからではなくて、如何いかなる場合にも他人に一縷いちるの逃げみちを与えてくつろがせるだけの余裕を、氏の善良性が氏から分泌ぶんぴつさせる自然の滋味じみほかならないのです。
お君の氣持にも充分のくつろぎがあつたのでせうが、たいした綺麗といふ程ではないにしても、念入りにこらした花嫁化粧は、半面血潮にまみれて、淺ましくゆがんで見えるのも哀愁あいしうをそゝります。
くつろいだ勘太夫がお笛を相手に、いいきげんで浅酌低唱をたのしんでいる、強いられて二三杯めたお笛も、眼蓋をほんのりと染め眸子ひとみをうるませて、たいそうなまめかしい姿をしていた。
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それ等のものが傍にある時、真に家に在るくつろぎを覚えるであらう。
雑器の美 (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)
そこにある団扇うちわをとりてくつろぎぬ
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
其所そこまで買物かひものたから、ついでつたんだとかつて、宗助そうすけすゝめるとほり、ちやんだり菓子くわしべたり、ゆつくりくつろいだはなしをしてかへつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「学校と云へば」と信徳が同じくつろいだ調子で喋つた。「この間電車で野田に逢つたぜ。野田の話だとあの森島ね、森島和作か。あれが今度高等部の講師になつたさうだね。お前、知つてるか」
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
安子さんは、まあ宜かったとくつろいだようなものゝ、何だか物足らない心持もした。序ながら報告あって然るべきところを、この奥さん、ナカ/\食えない人だ。弱味を見せないのは甚だ水臭い。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
伸ばしてくつろげる場所、そういうことだけでも満足なんだよ
初蕾 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
兄弟はくつろいでぜんについた。御米も遠慮なく食卓の一隅ひとすみりょうした。宗助も小六も猪口ちょくを二三杯ずつ干した。飯にかかる前に、宗助は笑いながら
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とお祖父さんは珍客をくつろがせた。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
兄弟きやうだいくつろいでぜんいた。御米およね遠慮ゑんりよなく食卓しよくたく一隅ひとすみりやうした。宗助そうすけ小六ころく猪口ちよくを二三ばいづゝした。めしゝるまへに、宗助そうすけわらひながら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこまで買物に出たから、ついでに寄ったんだとか云って、宗助のすすめる通り、茶を飲んだり菓子を食べたり、ゆっくりくつろいだ話をして帰った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幕が引かれてから、始めてうちくつろいだ様子を示した細君は、ようやくお延に口を利き出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助は烟草たばこへ火をけて、吸口をくわえたまま、椅子のに頭を持たせて、くつろいだ様に
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時分は今に比べると、存外ぞんがい世の中がくつろいでいましたから、内職の口はあなたが考えるほど払底ふっていでもなかったのです。私はKがそれで充分やって行けるだろうと考えました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
事件が起ってからそれまで泣く事を忘れていた私は、その時ようやく悲しい気分に誘われる事ができたのです。私の胸はその悲しさのために、どのくらいくつろいだか知れません。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助は烟草たばこけて、吸口すひくちくわへた儘、椅子のあたまたせて、くつろいだ様に
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)