)” の例文
主人の花紋のある長い上衣の褄が、砂の上を曳いてゐる。そして手には長い杖を衝いてゐて、折々その握りの処を歯でむ癖がある。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
いとけなき保の廊下に遊嬉いうきするを見る毎に、戯に其臂を執つてこれをむ勢をなした。保は遠く柏軒の来るを望んで逃げかくれたさうである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
原来彼の黄金丸は、われのみならずかしこくも、大王までを仇敵かたきねらふて、かれ足痍あしのきずいえなば、この山に討入うちいりて、大王をたおさんと計る由。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
血みどろな、敗れてもなおはじき立つ情念、老いてもまだ衰えぬ生存慾、力尽きて海中にみ落された弱者、老大獣の必死の争奪戦。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
千悔、万悔、ほぞんでいる胸元を貫くような午砲ごほうひびき。それと同時に「御膳ごぜんで御座いますよ」。けれど、ほいきたと云ッて降りられもしない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
また天宝中巴人はじん太白廟前の大松を伐る、老人ありて止むれど聴かず、老人山に登り斑子はんしと呼ぶと群虎出で巴人をんだ、また嘉陵江側に婦人あり
母親は、主婦あるじみつくように言われて、切なげに子供を負って馬車から降りると、二度も三度も店頭みせさきを往来して、そのあげくにやっと入って行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
倒崖のたふれかゝらんとする時、猛虎の躍りまんとする時、巨鱷きよがくの来り呑まんとする時、泰然として神色自若たるを得るは、即ちこの境にあるの人なり。
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
この時我は我胸をむ卑怯のうじの兩斷せらるゝを覺えしが、そは一瞬の間の事にて、蛆はたちまちよみがへりたり。われはたいかなる決斷をもなすこと能はざりき。
「それはいわゆる『報寃蛇ほうえんだ』です。人がそれに手出しをすれば、百里の遠くまでも追って来て、かならず其の人のむねみます。その蛇は今夜きっと来るでしょう」
十兵衞いよ/\五重塔の工事しごとするに定まつてより寐ても起きても其事それ三昧ざんまい、朝の飯喫ふにも心の中では塔をみ、夜の夢結ぶにも魂魄たましひは九輪の頂を繞るほどなれば
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
人をんだ犬を晒者さらしものにする刑罰があるかと思えば、ローマの十二表法には、四足獣が傷害をなしたときは、その所有者は賠償をなすかまたは行害獣を被害者に引渡して
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
一本腕は何一つ分けてやろうともせずに、口の中の物をゆっくり丁寧にんでいる。
橋の下 (新字新仮名) / フレデリック・ブウテ(著)
折角の深い交際がおろそかになったり、恩義ある人に悪感を抱かせたり、又は大切の得意を失策しくじったりして、後悔ほぞむ共及ばぬような大事件が出来しゅったいするその最初の一刹那なのである。
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今にして文字への盲目的崇拝もうもくてきすうはいを改めずんば、後にほぞむともおよばぬであろう云々うんぬん
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
舌は半ばみ切りありたり。上腹部に大いなる挫傷あり。恐くは膝頭にて圧したるものならん。本人の断定に依れば、レスパネエ家の娘は未詳の数人の絞殺するところとなりしならんと云ふ。
あれは宋の秦檜しんかいさ、忠良を害し、君を欺き、国を滅したから、こんな重罪を受けておる、他の者も皆国を誤ったもので、この者どもは、国の命があらたまるたびに、引出して、毒蛇に肉をまし
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ところをハイエナの牙めく牙にひどくまれて、11650
少佐夫人は生憎あいにく口に一ぱい物を頬張つてんでゐる。
祭日 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
淘去淘来海噬山(り去り淘りきたり海、山をむ)
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この話を聞きて今更にほぞむ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その角張った顔が何やらに似ている。西洋人が胡桃くるみみ割らせる、恐ろしい口をした人形がある。あれを優しく女らしくしたようである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
とんでかかれば黄金丸も、稜威ものものしやと振りはらって、またみ付くをちょう蹴返けかえし、その咽喉のどぶえかまんとすれば、彼方あなたも去る者身を沈めて、黄金丸のももを噬む。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ああ、初て部屋へ来た時、何故私は物を言わなかったろうと、千悔万悔せんかいばんかい、それこそほぞむけれど、追付おッつかない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
岸をむ水は、石に觸れて倒立し、鹹沫しぶきは飛んで二人の面をてり。ポツジヨの興は風浪の高きに從ひて高く、掌をちて哄笑し、海に對して快哉くわいさいを連呼せり。
十兵衛いよいよ五重塔の工事しごとするに定まってより寝ても起きてもそれ三昧ざんまい、朝の飯うにも心の中では塔をみ、夜の夢結ぶにも魂魄たましいは九輪の頂をめぐるほどなれば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あしたに平氏あり、ゆふべに源氏あり、飄忽へうこつとして去り、飄忽としてきたる、一潮いつてう山をんで一世紀没し、一潮退き尽きて他世紀来る、歴史の載するところ一潮毎に葉数を減じ
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ブラウン夫婦とジユリエツトと僕とは、小さい卓を囲んで据わつて、トルコの菓子や阿月渾子あるごんすみながら、ぼんやりして水のささやきと木の葉のそよぎとを聞いてゐた。
不可説 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
その眼はいなずまのごとく、そのきばはつるぎの如くで、そこを通る象の一類はみな呑まれたりまれたりします。その難に遭うもの幾百、もはや逃げ隠れるすべもありません。
一夜、鶏が誤って夜半に鳴き、みこと、周章舟を出したがを置き忘れ、よんどころなく手で水を掻いて帰る内、わにに手をまれた。因って命と姫をまつれる出雲の美保姫社辺で鶏を飼わず。
たまたま不平を以って鳴けば、にわかに多言のとがめを獲、悔、ほぞむも及ぶなし。尾をうごかして憐を乞うを恥ず。今其罪名を責むるを蒙り、其状をせまらる。伏して竜鱗をち竜頷を探る。に敢て生を求めんや。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
このしわいお料理をんでいるから、知っています。
某これより諸国をぐり、あまねく強き犬とみ合ふて、まづわが牙を鍛へ。かたわら仇敵の挙動ふるまいに心をつけ、機会おりもあらば名乗りかけて、父のあだかえしてん。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
嗚呼あゝ墳墓、汝の冷々たる舌、汝の常に餓ゑたる口、何者をかまざらん、何物をか呑まざらん、而して墳墓よ、汝も亦た遂に空々漠々たり、水流滔々として洋海におもむけど
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
宋帝の後胤こういん趙生てふ貧民が、木を伐りに行って大きな白蛇己をまんとするを見、逃げ帰って妻に語ると、妻白鼠や白蛇は宝物の変化へんげだといって夫とともに往き、蛇に随って巌穴に入り
下女が欠をみ殺す。そういう風で大分の間過ぎたのだそうだ。そのうちある晩風雪ふぶきになって、雨戸の外では風の音がひゅうひゅうとして、庭に植えてある竹がおりおりほうきで掃くように戸をる。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
我は彼等にむかひて立ち、手に持ちたる刑法の卷を開きてさし示し、見よ、分をえたる衣服のおごりは國法の許さゞるところなるぞ、我が告發せん折にほぞむ悔あらんとかつしたり。工人は拍手せり。
どんなにかあの鳩が蛇のようにむでしょう。
たけ三尺、頭尾均等、而して尾尖らず、槌の柄なきものに似る、故に俗に呼びて野槌と名づく、和州吉野山中、菜摘川、清明の滝辺に往々これを見る、その口大にして人脚をむ、坂より走り下り
丈夫な白い歯でうまそうにんだ。
牛鍋 (新字新仮名) / 森鴎外(著)