うわさ)” の例文
やろうと思っていらっしゃるわけじゃないが、なにぶん世間のうわさがうるさい。早く捕まえて正体を見せるようにと——こういうお話だ
こちらの姫君に心をおかれすることになって、今ではもう世間のうわさにも上っているだろうと思われるまでになっているのですから
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この大地震も、入水なさった幼い主上始め平家一門の怨霊おんりょうのたたりではあるまいかと、人々はうわさをして一層恐れおののくのであった。
しかし近頃では人のうわさにものぼるようになったし、数日まえには彼の父親に呼ばれて、忠告をして呉れるようにと頼まれたのである。
落ち梅記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それに、彼は昨年のなか頃からぱったり筆をとらなくなって、どこへ引越してしまったか、住所さえ分らないと云ううわさを聞いていた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ぽん太はそのころ天下の名妓めいぎとして名が高く、それから鹿島屋清兵衛さんに引かされるということでしきりにうわさに上った頃の話である。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
三年経ってからたポツポツと美妙の名が低級な雑誌に見え出して、そういう雑誌の発行者や編輯者の口からうわさを聞く事があったが
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
当人の小半は代地は場所がらとて便利なだけ定めし近隣のうわさもうるさかるべく少し場所はわるけれど赤坂のほう望ましきやうもうしをり候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
天明よあけに及び、四方にうわさ立ち皆いわく、果して相師の言のごとく、妙光女死すといえども、余骸なお五百人に通じ、五百金銭を獲たと。
たまにそれとなく入っていって柳沢の留守に老婢ばあさんと茶の間の火鉢ばちのところで、聞かれるままにお前のうわさばなしなどをしたりして
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
たった一人、ウイスキーに酔った一人の青年が、言葉の響を娘にこすりつけるようにして、南洋特産とうわさのある媚薬びやくの話をしかけた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「あのときは廷丁に挨拶あいさつしたのですよ。あなたが被告だということは、私たちは知っていました。こんなうわさはすぐ広まりますからね」
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
その男はこの間参考品として美術協会に出た若冲じゃくちゅう御物ぎょぶつを大変にうれしがって、その評論をどこかの雑誌に載せるとかいううわさであった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ずいぶんと悪いうわさもあるが、またなかなかの苦労人と思われるところもあり(前身はなんでもバクチ打ちの経歴まであるということ)
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼の悪いうわさを聞いても、彼らはそのためにかえって好意をいだいた。彼と同じく彼らもまた、この小都市の雰囲気ふんいきに圧迫されていた。
が、授業の模様、旧生徒のうわさ、留学、竜動ロンドン、「たいむす」、はッばァと、すぺんさあー——相変らぬはなしで、おもしろくも何ともない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
貞之助は附合いの関係でいろいろの機会に花柳界へ足をみ入れることがあるので、よくそう云う方面から奥畑のうわさを聞いて来る。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
世間の一部では武太郎は借金に苦しんで偽狂人を装っているとかいううわさがないでもないが、祖先から伝わった家屋敷も人手に渡り
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
それからは、ハムーチャのうわさがぱっと四方しほうに広がりました。ハムーチャの行く先々で、もうその地方の人々が待ちかまえていました。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そんなことから、後に紅葉の傑作「金色夜叉こんじきやしゃ」が出ると、お宮はお須磨さんがモデルで、貫一は巌谷小波いわやさざなみ氏だといううわさなども高かった。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
部落ではそんなうわさをしていた。いくらかそんな気持ちもあるにはあったが、伝平夫婦には、馬が伜の耕平に見えて仕方がないのだった。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
人の一人でも通って来られるような所にはすべて五名ずつの兵隊に道を守らしむる事になったといううわさ、だんだん聞いて見ると事実で
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
十年振りで帰国した鈴木の兄のうわさ、台湾の方の長兄の噂などにしばらく時を送った後、義雄は用事ありげに弟のもとを辞し去る支度した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかるに少し気の小さな人が、自分のことをうわさされ、あるいは新聞雑誌に悪く掲げらるれば、再びあたわざる窮地におちいるごとくなげく。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そう言って帰りかけたが、父は額に濡手拭ぬれてぬぐいを当てそべっており、母はくどくどと近所のうわさをしはじめ、またしばらく腰を卸していた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
モンフェルメイュで子供を捨てていったようにうわさされている間に、その母親はどうなったか、どこにいたか、また何をしていたか。
新聞社の人たちからきいた話では、政界の大物が追放解除になっても、松本治一郎氏だけ解除にならないだろうといううわさがあるそうだね。
チッポケな斧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
女は通例自分たちの事をうわさせられるのを、知らずに過ぎるということはないものですが、奇妙に俳諧だけは冷淡視していました。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのうわさを聞き伝へ、近隣諸国の人々貧富貴賤きせんかちなく南蛮寺に群集し、つは説教を聴聞ちょうもんし、且つは投薬の恵みにあづかる。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
もし株主の側から出たうわさならだが、営業者間の評判だとすると、父は自分の役目に対して無能力者だと裏書きされているのと同様になる。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
たとえば、村の人々の間にはこんなうわさがされ出していた。この頃、この村へ地震のために気ちがいになった一人の女が流れ込んできている。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
僕はこの三、四年の間は誰からも先生のうわさを聞かない。あの面長の山田先生は或はもう列仙伝中の人々と一しょに遊んでいるのであろう。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
やがて、彼に関する色々なうわさが伝わって来た。彼がある種の運動の一味に加わって活躍しているという噂を一しきり私は聞いた。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
熊本中ただそのうわさばかりである。誰はなんと言って死んだ、誰の死にようが誰よりも見事であったという話のほかには、なんの話もない。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何か、叔父さんに就いて悪いうわさでもあるのかね? それあ、いろいろ人は言うだろう。なんにしても、こんどは少し、まずかったからね。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
恐ろしい人のように言われ、恐ろしい本のように言われていた大杉栄の本を、俺は恐ろしいといううわさにひかれて読んだのである。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「いくらか妙に思われますのは、数ヵ月から並びの借家が、いっせいに店立たなだちしましたことで、なぜだろうと私たちはうわさをしております」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのうわさを聞き伝えた奴国の宮の娘を持った母親たちは、おのれの娘にはなやかなよそおいをこらさせ、髪を飾らせて戸の外に立たせ始めた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
こんどこそ家屋敷が人手にわたるといううわさも、卒業のさしせまった富士子の動きをきめられなくしているのだろうと思うと、コトエと同様
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「何ですぜ、だんな、——何でもこの企ては、判官どの直き直きのお指図だそうでしたね、もっぱらそういううわさがたかかったが、なあ?」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
それは実にその伝播のはやさといっては恐ろしい位のもの、一種の群衆心理と申すか、世間はこのうわさで持ち切り、人心恟々きょうきょうの体でありました。
現に自分はこの屋敷に生まれて二十八年の月日を送っているが、自分は勿論もちろんのこと、誰からもそんなうわさすら聞いたことがない。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こんなうわさを聞こうものなら、何べん同じ噂を聞いても、人の前にいられなくなって、なんとか言って寝てしまうのが常である。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
『ほかでもないが、藩邸の中で、近頃しきりにうわさにのぼるらしいが——何か、うわさの火元は、其許そこもと自身の口からだと人は申すが』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そなたが、江戸に下られたうわさは、瓦版かわらばんでも読んでいた。いやもう、大変な評判で、うれしく思う。さあこれへ進まれるがよい」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
昼は昼で、君のうわさをし、君の仕事のことを話題にし、君をわれわれの誇りとし、君の名をおそつつしんで口にのぼせていたものだ。
よく芸者などが客や朋輩ほうばいうわさをしていました。夜は仕事をしまった男たちが寄って来て、歌うやら騒ぐやら、夜更よふけまでにぎやかなことでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それが今日掘切の中でこごえて死んでいたという。清三は湯につかりながら、村の人々のさまざまにうわさし合うのを聞いていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
見得をかまはず豆なり栗なり気に入つたを喰べて見せておくれ、いつでも父様ととさんうわさすること、出世は出世に相違なく、人の見る目も立派なほど
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
仲間の小野は東京へ出奔しゅっぽんしたし、いま一人の津田は福岡のゴロ新聞社にころがりこんで、ちかごろははかまをはいて歩いているといううわさであった。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)