喧伝けんでん)” の例文
芳町よしちょうやっこ嬌名きょうめい高かった妓は、川上音次郎かわかみおとじろうの妻となって、新女優の始祖マダム貞奴さだやっことして、我国でよりも欧米各国にその名を喧伝けんでんされた。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかもこの両者を圧倒する若手の売出し役者はかの福助で、それが花のなかの花とうたわれて、新駒屋の艶名が東京市中に喧伝けんでんされていた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
象牙ぞうげで無際限の変化——物象を真実に描写したものから、最も架空的な、そして伝統的なものに至る迄のすべて——が、喧伝けんでんされている。
武蔵と巌流の試合が喧伝けんでんされてから後のもので、その以前は、船島ふなしまとよばれていたし、その船島という名も、附近の俚俗りぞくの呼び慣わしで
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、この語が、かかる状態で世に喧伝けんでんせられているにかかわらず、それが何を指しているかは、実は明かに示されていないといってもよい。
日本精神について (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
弓を執らざる弓の名人は彼等のほこりとなった。紀昌が弓にれなければ触れないほど、彼の無敵の評判はいよいよ喧伝けんでんされた。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
既に社会の裏面に普及しつつあるかは時々じゝ喧伝けんでんせらるゝ学生、農民、労働者の騒擾さうぜうに依りて、乞ふ其一端を観取せられよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
リストもビューローも続いてドヴォルシャークを紹介し、その名が喧伝けんでんすると共に、プラハの音楽院はさっそく作曲法の教授として彼を迎えた。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
この話は、たちまち幾百里の山河さんがを隔てた、京畿けいきの地まで喧伝けんでんされた。それから山城やましろの貉がける。近江おうみの貉が化ける。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
既にして君の文名は朋友の間に喧伝けんでんせり。君は先づ深邃しんすゐなる批評家として著れ、更に無韻の詩人として著れ、更に理想的の劇曲家として著れんとせり。
北村透谷君 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
懸賞金百円の沙汰さた即日四方に喧伝けんでんして、土地の男女老若を問わず、我先にこのたからんと競いち、手に手に鎌を取りて、へいげん門外の雑草を刈り始めぬ。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一時世間に喧伝けんでんせられたのでありますが、世間には私同様、もっとも通俗的な千代の句によって初めて俳句というものに接した人も少なくなかろうと思います。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
この淡島堂のお堂守時代が椿岳本来の面目を思う存分に発揮したので、奇名が忽ち都下に喧伝けんでんした。
老朽おいくちて行くその身とは反対に、年と共にかえって若く華やかになり行くその名声をば、さしもに広い大江戸は愚か三ヶさんがの隅々にまで喧伝けんでんせしめた一代の名著も
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
西蝦夷地のイシカリ港と喧伝けんでんされたこともあったのだが——その頃の目をもってすれば、後の従五位下の開拓判官松浦竹四郎にしても、その名著『西蝦夷日誌』に於て
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
事件の後、世間には人獣混血の説が喧伝けんでんされた。恩田は生るべからざるに生れた地獄の子であったというのだ。彼らの論拠ろんきょは、恩田の父親がなぜあれほど豹を愛したか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
といわれるほど天衣無縫の棋力を喧伝けんでんされていた坂田も、現在の棋界の標準では、六段か七段ぐらいの棋力しかなく、天才的棋師として後世に記憶される人とも思えない。
可能性の文学 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
小説を書いて、たとえばそれが傑作として世に喧伝けんでんされ、有頂天の歓喜を得たとしても、それは一瞬のよろこびである。おのれの作品に対する傑作の自覚などあり得ない。
猿面冠者 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こんどは逆にひどくそれが誇張したうわさとなって喧伝けんでんされた、かれはほとんど英雄にさえなった。
青竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
御茶の水殺人事件とて当時の東京に喧伝けんでんしたる、特にこの事件のために新聞の雑報小説に残酷なる傾向を促したりとまで称へらるる事件の被害者「この」の屍骸しがいよこたはりたるは
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
一時喧伝けんでんされた奥州佐久間の孝女お竹なる者が生仏として霊験をあらわすというはなしを前篇四冊後篇三冊に編んだもので、三馬としては当て込みを狙ったちょっと得意の作であった。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
実は当時のゴシップ好きの連中が尾鰭おひれをつけていろいろ面白そうに喧伝けんでんしたのが因であって、本人はむしろ無口な、非社交的な非論理的な、一途いちずな性格で押し通していたらしかった。
智恵子の半生 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
ヘクザ館から発見された宝石や古代金貨のうわさは、たちまち全世界に喧伝けんでんされた。それはいまの金に換算かんさんすると、れいという字を、いくつつけてよいかわからぬほど、莫大ばくだいなものになろうという。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その評判は欧州はもちろん、全世界の新聞に喧伝けんでんされているから、記憶している読者もあろう。秘密裁判だった。密偵部第二号の選択によって、しらせていいことだけ公表されているにすぎない。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
その少数の自由思想家という人たちもいわゆる「新しい女」の名に由って喧伝けんでんせられ、その言論は比較的世人の注意を引いているようですけれど、思想としては最も太切な個人的自発の力に乏しく
婦人改造と高等教育 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
ヨーロッパ人の中に生まれた自由の理も喧伝けんでんせられ、民約論のたぐいまで紹介せられて、福沢諭吉ふくざわゆきち板垣退助いたがきたいすけ、植木枝盛えもり、馬場辰猪たつい、中江篤介とくすけらの人たちが思い思いに、あるいは文明の急務を説き
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
往年さきのとし鬼怒川きぬがわ水電水源地工事の折、世に喧伝けんでんされた状況ありさまを幾層倍にして、今は大正の聖代に、ここ北海道は北見きたみの一角×××川の上流に水力電気の土木工事場とは表向おもてむき、監獄部屋の通称とおりなが数倍判りいい
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
あれほどの名刀がそんなにも嫌忌けんきされたか、この話の中心ともなるべきものでございますから、簡単にその理由を説明しておきますが、いくつか説のあるうちで、今に最もよく喧伝けんでんされているものは
あゆはまだまだ喧伝けんでんさせてよいであろう。
若鮎の塩焼き (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
遊女の艶話つやばなしは一般に喧伝けんでんされ易く、学者の功績はとかく忘却され易いのも、世の習いであろう。それはいわゆる甘藷かんしょ先生の青木昆陽あおきこんようの墓である。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すべてがそうであるというのでないことは勿論である。が、世に喧伝けんでんせられる考説のうちに却ってこういうものが少なくないように見うけるのである。
渦巻の模様の中心となった流行はやり俳優やくしゃ——ニコポン宰相の名を呼ばれ、空前とせられた日露戦争中の大立物おおだてもの——お鯉の名はいやが上に喧伝けんでんされた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
数年前に、京都の一乗寺で、その武蔵が、吉岡一門の何十名を相手にして打ち勝った——というようなことは一時喧伝けんでんされたが、すぐその反対説が出て
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の豪壮(?)な邸宅の噂は、やがてカヌーに乗って、遠くフィジー、トンガ諸島あたり迄喧伝けんでんされた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
今世紀の初頭から第一次欧州大戦前まで、最も大胆にして革命的な音楽家として喧伝けんでんされた。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
実は当時のゴシツプ好きの連中が尾鰭をひれをつけていろいろ面白さうに喧伝けんでんしたのが因であつて、本人はむしろ無口な、非社交的な非論理的な、一途いちずな性格で押し通してゐたらしかつた。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
続いて金港堂から美妙斎を主筆とした『都之花みやこのはな』とが発行されて、純文芸雑誌としてのエポックを作ったので、美妙斎の名は忽ち喧伝けんでんされて、トントン拍子に一方の旗頭はたがしら成済なりすましてしまった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
テイラー博士「ウラニウム爆弾が使用されねばならぬと盛んに喧伝けんでんされていますが、余の意見としては、わが国ユー・エス・エーにはウラニウムの手持がすくなく、到底とうていこのたびの戦争の間に合いかねると考えます」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
粗忽者といってもどの程度に粗忽なのかはよく分らない、いちどそういう評判をとってしまうとつまらぬ失策まで真らしく喧伝けんでんされるもので、ときには他人の分まで背負わされることも珍しくはない。
粗忽評判記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一度この弟子の代りをした中童子ちゅうどうじが、くさめをした拍子に手がふるえて、鼻をかゆの中へ落した話は、当時京都まで喧伝けんでんされた。——けれどもこれは内供にとって、決して鼻を苦に病んだおもな理由ではない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は、救い難き、ごろつきとして故郷に喧伝けんでんされるに違いない。
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
両家のもつれを知る者は、これは只事の試合でないと、噂はいやが上に立って、在府の大名旗本の間、後には市中の町人にまで未曾有なことに喧伝けんでんされた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我来也の名は都鄙とひ喧伝けんでんして、賊を捉えるとはいわず、我来也を捉えるというようになった。
ワルツの王という別名の方が喧伝けんでんされているくらいだ。美しいウィーン風のワルツをたくさん作曲し、その一つ一つが珠玉のように美しい。通俗音楽の王と言っても差しつかえはあるまい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
文人墨客の間を縫うて、彼女の名は喧伝けんでんされたのであった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
伝えられる五路の作戦による魏の大侵略の相貌は、次のようなものだと一般のあいだにも喧伝けんでんされた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここに大きい劇場が新しく建てられるというので、その噂が好劇家の間に喧伝けんでんされたが、座名がまだはっきりとわからないので、あるいは歌舞伎座といい、あるいは歌舞座とも伝えられた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そうして、櫓下やぐらしたのお半殺しが、江戸の町に喧伝けんでんされて、まだ噂も消えない四日目の黄昏たそがれ頃である。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくては自分の名声とやらは喧伝けんでんされるにきまっているが、彼は今、決してそんなものを求めていなかった。むしろ、もっと独りの沈潜ちんせんと、独りの黙思もくしとを必要としている。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その憂いが、果たせる哉、佐久間追放の罪状のひとつとして、世上に喧伝けんでんされたので
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)