すこやか)” の例文
相「孝助殿誠にく、いつもおすこやかに御奉公、今日はナ無礼講で、殿様の側で御酒、イヤなに酒は呑めないから御膳を一寸ちょっと上げたい」
夏は蘭軒がすこやかに過したことだけが知れてゐる。「夏日過両国橋。涼歩其如熱閙何。満川強半妓船多。関東第一絃歌海。吾亦昔年漫踏過。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
商人はふところにありてあたゝまりのさめざる焼飯の大なるを二ツ食し、雪にのどうるほして精心せいしんすこやかになり前にすゝんで雪をこぎけり。
枕をも得挙えあげざりし病人の今かくすこやかに起きて、常に来ては親く慰められし人のかたくなにも強かりしを、むなし燼余じんよの断骨に相見あひみて、弔ふことばだにあらざらんとは
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それに筋骨のたくましさ、腕力のすぐれていること、まあ野獣と格闘たたかいをするにもえると言いたい位で、容貌かおつきは醜いと言いましても、強いすこやかな農夫とは見えるのでした。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今日に至てはすこやかにして、且つ本年は初めて牧塲の越年たるを以て、如何なる事あらんかと一同配慮するも、寒さにも耐えて、氷結の初めより暁夕毎ぎょうせきごと堅氷けんぴょうを砕き
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
かの肥えたる男は、杖を翁が前に横へて、これを跳り超えて行け、さらずは廓の門の閉ぢらるゝ迄えこそは通すまじけれ、我等は汝が足のすこやかさを見んと呼びたり。
今日こんにち上野博物館の構内に残っている松は寛永寺かんえいじあさひまつまたは稚児ちごまつとも称せられたものとやら。首尾の松は既に跡なけれど根岸にはなお御行の松のすこやかなるあり。
おもうに、身を恥じていずくにか立去りたまいしならむ。かの時の、そのより、ただちに小親に養われて、かくすこやかに丈のびたる、われは、狂言、舞、謡など教えられつ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すこやかなる心をもてよくこの事を思ひみよ、わが筆し易く、彼等の望みあだならじ 三四—三六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
烏こそはまことに鳥族の農夫である。彼らはその強いくちばしすきをもって終日耕してむことをしらない。それゆえ彼らの衣は美しい紺黒に光り、すこやかな唄の声は野に山にひびきわたる。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
弟はすこやかに眠り、よく勉強した。彼はもう數學を一と通り濟ました後、難問題集を何處からか見つけて來てやつてゐた。彼の片つ端からそれを征服して行く樣子は、傍から見てゐてもてきぱきしてゐた。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
そうして民衆の品物たることにはいかにすこやかさが多いかを。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「私貴方がすきですワ、だから若し貴方がすこやかでいらっしゃる時に私が死ぬ様だったら呼んであげましょう、貴方の死ぬ時も行ってあげましょう。でもいざとなった時貴方は御ふるえになるでしょうネエ、キット」
千世子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
蘭軒の家では、文化紀元八月十六日の晩に茶山がおとづれた時、蘭軒の父隆升軒信階りゆうしようけんのぶしななほすこやかであつたから、定て客と語を交へたことであらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
商人はふところにありてあたゝまりのさめざる焼飯の大なるを二ツ食し、雪にのどうるほして精心せいしんすこやかになり前にすゝんで雪をこぎけり。
娘も美しいと言いたいが、さて強いと言った方が至当で、すこやか活々いきいきとした容貌おもざしのものが多い。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
禪師ぜんじられたるくび我手わがて張子はりこめんごとさゝげて、チヨンと、わけもなしにうなじのよきところせて、大手おほでひろげ、ぐる數十すうじふぞくうてすこやかなることわしごとし。ついきずえてせずとふ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わが身常にすこやかならず。寒暑共に苦しみ多し。
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
当時道瑛令図だうえいれいとが猶すこやかであつた。抽斎の祖父本皓ほんかうの実子で、甲寅には七十二歳になつてゐた。令図の嫡子道秀富穀だうしうふこくは四十八歳、富穀の子道悦は十九歳であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
其年九月のはじめ安産あんざんしてしかも男子なりければ、掌中てのうちたまたる心地こゝちにて家内かないよろこびいさみ、産婦さんふすこやか肥立ひだち乳汁ちゝも一子にあまるほどなれば小児せうに肥太こえふと可賀名めでたきなをつけて千歳ちとせ寿ことぶきけり。
緒に結んださまに、小菊まじりに、俗に坊さん花というのを挿して供えたのが——あやめ草あしに結ばむ——「奥の細道」の趣があって、すこやかなる神の、草鞋を飾る花たばと見ゆるまで、日に輝きつつも
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一老夫いちらうふこゝに来り主人を拱手てをさげて礼をなし後園うらのかたへ行んとせしを、あるじよびとめらう夫をゆびさしていふやう、此叟父おやぢ壮年時わかきとき熊に助られたる人也、あやふいのちをたすかり今年八十二まですこやか長生ながいきするは可賀めでたき老人也
清水につくと、魑魅すだまが枝を下り、茂りの中からあらわれたように見えたが、早く尾根づたいして、八十路やそじに近い、脊の低い柔和なおばあさんが、片手に幣結しでゆえるさかきを持ち、つえはついたが、すこやかに来合わせて
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし何より、おすこやかで……
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)