余韻よいん)” の例文
旧字:餘韻
受けたものはコロコロと、太い管の中を転落して、タンクの中に入るから牛馬先生は、遥かに余韻よいん嫋々じょうじょうたる風韻ふういんを耳にするであろう。
発明小僧 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
うど——ん、という声を続けるところで急に咽喉のどふさがってしまったらしいから、せっかくの余韻よいん圧殺おしころされたような具合であります。
茶の席入りにつかうあの銅鑼どら、あれは非常に余韻よいんを尊ぶ。客は、主の一打、一打に、身を澄まして、心でその音を聴くからである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとりごちながら、いたずらの様に、白い鍵盤けんばんをポンと叩いて見た。すると、ギーンという様な、少しも余韻よいんのない、変てこな音が聞えた。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
最後さいご吉彦よしひこさんがじぶんで、おおきくおおきく撞木しゅもくって、がオオんん、とついた。わんわんわん、となが余韻よいんがつづいた。すると吉彦よしひこさんが
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
物語から取った名前には何うしてもロマンチックな余韻よいんがありますわ。殊に月小夜姫といえば何んな鈍感なものでも透き通るような美しい人を
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そういう時の夜などに、ヘルンの書斎から法螺貝の音が聞えて来ると、それが広い家中に響き渡って、ボオボオと余韻よいんなみをうって伝って来る。
六々三十六りんを丁寧に描きたるりゅうの、滑稽こっけいに落つるが事実ならば、赤裸々せきららの肉を浄洒々じょうしゃしゃに眺めぬうちに神往の余韻よいんはある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
コンと云う金属性の美しい余韻よいんを曳くようにするにはある人為じんい的な手段をもって養成するそれは藪鶯のひな
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
余韻よいんは長く、北洋の空に響いたが、それは、白人の密猟者に挑戦する、進軍ラッパのようだった。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
いっそう凄惨な余韻よいんめて、いかさま人の死にそうな晩だ、この濃い黒闇々あんあんの底にどれだけ多くのたましいがさ迷っていることか——あらぬことまで思わせるのだった。
次郎は、すぐ大河に代わって板木を打ちだしたが、その打ちかたは、一つ一つの音が余韻よいんをひくいとまのないほど急調子で、いかにもごうをにやしているような乱暴さだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
炎々えんえんと燃えあがった塔上とうじょうの聖火に、おなじく塔上の聖火に立った七人の喇叭手らっぱしゅが、おごそかに吹奏すいそうする嚠喨りゅうりょうたる喇叭の音、その余韻よいんも未だ消えない中、荘重そうちょうに聖歌を合唱し始めた
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そしてその余韻よいんをきいてみた。するときゅうに大きく「ばかッ‼」と怒鳴どなりたくなった。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
その音は、明らかにただ最初の瞬間においてだけは言葉の明瞭さを保たせておくのだが、その余韻よいんをすっかり破壊してしまって、正しく聞き取ったかどうかわからないようにするほどだった。
変身 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
一時雅楽ががくは平安朝の宗教全盛期と共に大いに起ったけれども、僅かに三、四曲の大阪の天王寺辺にその余韻よいんを止むるばかりで、その他は全くほろび了り、淫猥なる三味線がもっぱら温柔郷裡に跋扈ばっこ
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
お婆さんの言葉には、悲壮、というような余韻よいんがあった。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
谷のような地形では、木の実の落ちる音さえ高く聞こえるのに、四方、山ばかりに囲まれた盆地の鐘、なんともいえない余韻よいんです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その声が、ガランとした部屋の中に、物凄くこだまして、余韻よいんも消えやらぬ内に、妙子は已に、長い廊下を玄関へと走っていた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
言葉が余韻よいんを引いて、姿が隠れてしまいました。水門の蔭に没したようでもあり、水の底に沈んでしまったようでもあります。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「僕も大いに同感だ。十日も旅行をして何一つ持物をなくなさないようじゃあんまり実務的で人間としての余韻よいんがない」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
同じ谷渡りや高音にも節廻ふしまわしの上手下手じょうずへた余韻よいんの長短等さまざまであるから良き鶯をることは容易にあらず獲れば授業料のもうけがあるので価の高いのは当然である。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして二人ふたりみみをすましてきいていたが、余韻よいんがわあんわあんとなみのようにくりかえしながらえていったばかりで、ぜんそくちのたんのようなおとはぜんぜんしなかった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
端粛とは人間の活力の動かんとして、未だ動かざる姿と思う。動けばどう変化するか、風雲ふううん雷霆らいていか、見わけのつかぬところに余韻よいん縹緲ひょうびょうと存するから含蓄がんちくおもむき百世ひゃくせいのちに伝うるのであろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四十六歳の忠相は、もう一度、あくびをした。あくびの余韻よいんを口の中でころがしているうちに、それが、謡曲とも詩吟ともつかないうなり声になって、忠相は、いつまでもそれをつづけているのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
頭のいただきから、山嵐さんらんをゆする三井寺みいでら大梵鐘だいぼんしょうが、ゴウーン……と余韻よいんを長くひいて湖水のはてへうなりこんでいった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北川さんの笑い声の余韻よいんのように、どこからか、ハハハハ……という声が、かすかに、聞こえてきたではありませんか。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
浄瑠璃じょうるりでもない。相生町の屋敷でよく聞いた琵琶の歌に似て、悲壮にして、なお哀哀たる余韻よいんの残るものがある。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
刻をしらせる拍子木の音が、遠く余韻よいんをひいて城内に渡っていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すると、その時、まるで彼女の笑い声の余韻よいんででもあるように、ソーッとドアをあけてはいってきた白いものがあった。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
打出ヶ浜の波音にまじって、鐘の余韻よいんが遠くうすれて行くと、弦之丞はフイと立って、向うの瓦小屋から歩みだした。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいんや——うたがぽつりと消えたのが心外じゃ、あれだけに意気込んで唄っていたのだから——向うへ下るにしても余韻よいんというものが残らなければならない」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
偽装ぎそうのためではない。なぜか自然に、そういう気持になった。口笛の余韻よいんが、月にかすむように、空へ消えて行った。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一同、弾奏を終って、礼をすましたあとも、余韻よいんはなお、盲人たちの明日への希望をどこかにただよいめぐらせていた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その余韻よいんが次第次第に下へおりて来た時分に、前の潜り戸のところへ姿を現わした盲法師の手には、前と同じような青銅からかねの釣燈籠が大事に抱えられていましたけれど、持って来た時とは違って
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そう音色ねいろ悲愁ひしゅうな叫び、または嘈々そうそうとしてさわやかに転変する笙の余韻よいんが、志賀しがのさざ波へたえによれていった——
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鏡の像に声はなくとも、彼女は恐しい悲鳴を発したことでありましょう。私は甲斐かいなくも、堅い鏡の表から、その悲鳴の余韻よいんをでも聞き出そうとする様に、じっとそこを見つめていました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
むしろ一時代前の東山趣味ともいえる、くすんだ墨と、粗描の線と、多くの余白との中に甚だしく余韻よいんを尊んでいた。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、その微妙な余韻よいんが、風の様に部屋部屋を吹き過ぎたかと思うと、その途端、軽やかな、半ば押殺した様な一つの笑い声が、消えて行く時鐘の音を追い駈けるものの如く、陰欝に聞えて来た。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
血戦のちまたに聞く貝はいんいんと悽愴せいそう余韻よいんをひいて何ともいえぬ凄味のあるものだが、かかる朝の貝の音はいかにもおおどかな悠々とくつろいだ気もちのするものであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
井原氏は、話の余韻よいんでもあじわう様にしばらく黙っていた。
二癈人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一切衆生ハ無生ノ中ニオイテ、ミダリニ生滅ヲ見テワクス——語の余韻よいんがお胸の底に重たく沈む。
かんとか天彦あまひことかいう名笛めいてきのようだ。なんともいえない諧調かいちょう余韻よいんがある。ことに、笛の音は、きりのない月明げつめいの夜ほどがとおるものだ。ちょうど今夜もそんなばん——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
らんと、眼をあげて、余韻よいんを聞いている大和守のひとみに、篝の火が、煮えていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人情の余韻よいんを残すというものだ。すでに赤壁においてすらあの大捷たいしょうを博した我軍のまえに、南郡の城のごときは鎧袖がいしゅうしょく、あんなものを取るのは手をかえすよりやさしいことじゃないか
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余韻よいん津々しんしんたるものがある。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)