鼓舞こぶ)” の例文
その頃は金も少しは彼のために融通してやったおぼえがある。自分は勇気を鼓舞こぶするために、わざとその当時の記憶を呼起してかかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
連盟の危機ききをうれい、富士男を鼓舞こぶするゴルドンの言々句々げんげんくくは、せつせつとして胸にせまる、富士男は感激かんげきにぬれた眼をあげた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
これはローマ政府の迫害下にさらされた信者たちを慰藉いしゃ鼓舞こぶする実際上の必要から、急いで書かれた実際的なイエス伝であると思われます。
ただ、こんな事で、周君が学校がいやになったりなどすると困るから、その点は、君からよろしく周君をなぐさめ、鼓舞こぶしてやるのですね。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「しめたぞッ」と、何濤は一同を鼓舞こぶした。「——両岸はもう浮巣の島だ。この水路にはきっと、どん詰りがある。いまの二人を追いつめろ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう点で、この物語がいくらかでも年少読者の精神を鼓舞こぶするの資たるを得ば、作者のさいわいこれに過ぎぬものである。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
帆村が疲れ切った身体を自ら鼓舞こぶして、再び車で宝塚へ引返そうと決心したのも、直接の動機はこの可憐かれんなる糸子の安危をたしかめたいことにあった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
捕物帳という、かりそめの仕事をするに当って、この初一念が、私を鼓舞こぶしたことも考えられないではない。
銭形平次打明け話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
このウォレン卿の辞職演説はひじょうに刺戟しげきとなって管内の全警察官を鼓舞こぶした。ロンドンじゅうの警官が新しい力を感じてこのテロリスト・ジャックの捜査に勇躍した。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
何万となくいずれもあるいはつかれあるいは負傷して消ゆることなき地獄の青い火の中に、燃えもせず焼けもせず、苦しみながら横たわれるさまを見て、サタンは再び士気を鼓舞こぶして
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
我邦の政治家は明治の初年から国民に殖産興業をすすめて富を作れ作れと奨励した者だ。ことに日清戦争後は戦勝の余熱に乗じて中央銀行すら開放主義をった位、さかんに興業熱を鼓舞こぶした。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もしそれこの書が復古的革命の気運を鼓舞こぶしたるのみならず、復古的革命家自身に向って刺激を与えたるに到りては、殆んど仏国革命のルーソーが『民約論』におけるが如きものあらん。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
同時どうじわかいものの勇気ゆうき鼓舞こぶしなければならぬ役目やくめをもっていました。かれは、かぜたたかい、山野さんや見下みおろしてんだけれど、ややもするとつばさにぶって、わかいものにされそうになるのでした。
がん (新字新仮名) / 小川未明(著)
あなたのお話をうかゞつても、私に話しかけたり、私の心にうごくものは何にもないんですもの。燃える光も——活々いき/\した生命も——忠告の叫びも、鼓舞こぶの聲も——何一つ私には感じられないんです。
あらん限りの感覚を鼓舞こぶして、これを心外に物色したところで、方円の形、紅緑こうろくの色は無論、濃淡の陰、洪繊こうせんすじを見出しかねる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それには当然、朝廷でもなみならぬ期待のもとに、ずいぶん、古式にのっとってその鼓舞こぶをさかんならしめたものらしい。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帆村探偵はソロソロみずからの仮定が不安になってきたが、今に見ろと元気を鼓舞こぶして、最後の切り札をなげだした。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
旅の疲れも拔け切らない平次は、事件の相貌さうばうの重大さに鼓舞こぶされて、もう獵犬のやうに張り切つて居ります。
しょうの知れぬ者がこの闇の世からちょっと顔を出しはせまいかという掛念けねんが猛烈に神経を鼓舞こぶするのみである。今出るか、今出るかと考えている。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして青年を鼓舞こぶする事が急で、余りに煽動に走り、青年におもねるかの口吻こうふんが強すぎるために、かえって青年は、みな彼の配所の垣へ寄るのを嫌った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう言いながらも、事件が思いの外の重大性を持っていそうなのが平次の岡っ引本能を鼓舞こぶします。
彼もまたその異景に圧倒されまいと一生けんめいに自分の精神を鼓舞こぶしているわけだった。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一益や与十郎の、こういう鼓舞こぶも、いまは実際感に欠けてきた。——だがなお——城兵を力づけるために、一益はおい滝川長兵衛たきがわちょうべえという剛胆者ごうたんものをよびつけ
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
熱心は成効の度に応じて鼓舞こぶせられるものであるから、吾が髯の前途有望なりと見てとって主人は朝な夕な、手がすいておれば必ずひげに向って鞭撻べんたつを加える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さう言ひ乍らも、事件が思ひの外の重大性を持つて居さうなのが平次の岡つ引本能を鼓舞こぶします。
こう激越なげきは、東海道をはせのぼるみちのくの健児らへも、軍楽ぐんがくのような鼓舞こぶを盛り上がらせていたのだ。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
髷物まげもの小説を特色づける夢とが、私を鼓舞こぶしてこの驚くべき生産を遂げさしたことだろうと思う。
余も三十年の間それを仕通しとおして、飽々あきあきした。き飽きした上に芝居や小説で同じ刺激を繰り返しては大変だ。余が欲する詩はそんな世間的の人情を鼓舞こぶするようなものではない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、つとめて、伊那丸の勇気ゆうき鼓舞こぶするため、ふたりが快活かいかつに話していると、あなたの林をへだてたやみにあたって、ドボーン! とすさまじい水音がたった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其上そのうへ參禪さんぜん鼓舞こぶするためか、古來こらいからこのみちくるしんだひと閲歴譚えつれきだんなどぜて一段いちだん精彩せいさいけるのがれいであつた。此日このひそのとほりであつたが或所あるところると、突然とつぜん語調ごてうあらためて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いつもは無口で、年よりは若々しい、邪念のない笑顏の外には、愛想もないお靜ですが、フトきり出した幼な馴染の、お仙の身の上話になると、妙に鼓舞こぶされる氣持になるらしい樣子です。
これは老先生の激励げきれいであろう。いまが大事なときであるぞと、凡夫ぼんぷのわれわれを鼓舞こぶしてくださる垂訓すいくんなのであろう。すなわち、予言のうらにふくむ真意しんいをくめば
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大變たいへんどくになりますから、御止およしになつたはういでせう。もしいてなに御讀およみになりたければ、禪關策進ぜんくわんさくしんといふやうな、ひと勇氣ゆうき鼓舞こぶしたり激勵げきれいしたりするものがよろしう御座ございませう。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
喜三郎の勝利感は天井知らずに鼓舞こぶされます。
馬上、それを鼓舞こぶしてゆく森武蔵守は——その姿は、すでに死を期していたかのようなものに見えた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大変毒になりますから、御止しになった方がよいでしょう。もしいて何か御読みになりたければ、禅関策進ぜんかんさくしんというような、人の勇気を鼓舞こぶしたり激励したりするものがよろしゅうございましょう。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
尊氏は、軍鼓ぐんこの武士をこう励ました。かねつづみ、ささらの如き打棒だぼう、あらゆる鼓舞こぶ殺陣楽さつじんがくが、彼のお座船ばかりでなく、定禅じょうぜんやほかの船上でも狂気のようにとどろき鳴る。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上参禅の士を鼓舞こぶするためか、古来からこの道に苦しんだ人の閲歴譚えつれきだんなどをぜて、一段の精彩を着けるのが例であった。この日もその通りであったが、或所へ来ると、突然語調を改めて
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「古より、虎穴に入らずんば虎児を得ずといわれている。身を捨ててこそ、手柄も高名もあがる。息ついてはならぬ。者ども進めッ」と、みずから真ッ先に立って鼓舞こぶした。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらに新たな努力を鼓舞こぶしてかかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
捨身の将士と私情の領民との一結し難いものを、苦もなく一縄いちじょうに率いてこれを鼓舞こぶしている。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いよいよ鼓舞こぶし、激励するために、その後、宮本村に起った事件やら、本位田家の立場から、また、自分と権叔父とが、ために出郷することになり、お通と武蔵たけぞうとを討つべく
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南朝ではそのかん、直冬を“総追捕使そうついぶし”にして、尊氏討伐の宣下せんげまで与えて鼓舞こぶしていたが、直冬はもろくも京都をすてて山陰の石見いわみへ逃げ落ち、そこでまた諸国の直義党を糾合きゅうごう
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから、士気の鼓舞こぶ、戦機の一掴いっかくも、時により信長の風に似、信玄の智略に似、秀吉と共通する点はあっても、かれの胸算は、いつも合法的な計数にもとづき、決してケタははずしていない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
べつにかれらの士気を鼓舞こぶしていたのである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)