魑魅魍魎ちみもうりょう)” の例文
金色こんじきに光る般若のひとみは、あらゆる魑魅魍魎ちみもうりょうをにらみすえて、青い星光と冷ややかな風とのなかを、静かに、道を拾って行きます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
未来の絵姿はそのように透明生気充満したものであるとしても、現在私たちの日常は実に女らしさの魑魅魍魎ちみもうりょうにとりまかれていると思う。
魑魅魍魎ちみもうりょう隊をなして、前途にふさがるとも覚しきに、よくにも一歩を移し得で、あわれ立竦たちすくみになりける時、二点の蛍光此方こなたを見向き、一喝して
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は党を脱退するにつき、気勢を挙げねばいかんと思い、紺屋こうやに頼んで旗を作り、魑魅魍魎ちみもうりょうが火に焼かれて逃げて行く絵を書いてもらった。
未明の辻に行迷っている魑魅魍魎ちみもうりょうは、夜明けの光とともに消えなければならぬ。この国を蔽っている闇は、もうすぐ大きな朝を迎えるんだ。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
魑魅魍魎ちみもうりょう猛獣毒蛇、剽盗ひょうとうの巣食っている富士の裾野を、どうしてこんなちっぽけな子が、無事に旅して来られたのだろう?
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
西洋蝋燭の光は、朦朧と室内を照して、さま/″\の器物や置物の黒い影が、魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこするような姿を、四方の壁へ長く大きく映して居る。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
長い竹藪の間々あいだあいだには、ありとあらゆる魑魅魍魎ちみもうりょうが、ほのかな隠し電燈の光を受けて、或はよこたわり、或はたたずみ、或はうずくまり、或は空からぶら下っていた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
是を以て九天邪を斬るの使を設け、十地悪を罰するの司を列ね、魑魅魍魎ちみもうりょうをして以てその奸を容るる無く、夜叉やしゃ羅刹らせつをして、その暴をほしいままにするを得ざらしむ。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
玻璃ガラス張りの天蓋まるてんじょうを透して降りそそぐ煦々くくたる二月の春光を浴びながら、歓談笑発して午餐に耽る凡百の面々を眺め渡せば、これはさながら魑魅魍魎ちみもうりょうの大懇親会。
そのわんわんという声が暗い店の空間を占領して、四隅ではいつも魑魅魍魎ちみもうりょうが会議をひらいていた。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
丁度南方の土人の生活など今でもそうだろうと思うけれど、夜になると、あらゆる魑魅魍魎ちみもうりょうが一杯になった一種別の世界に入るような気がして、非常に恐ろしかった。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
これ、物蔭にうごめいているのは、何者じゃ? 姿を見せい! この界隈に、魑魅魍魎ちみもうりょうを住まわせぬことにしている、このじじいに、貴さまの、異形いぎょうをあらわすがよい。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
魑魅魍魎ちみもうりょうでないことの証拠には、お喋りこそするけれども、このお喋りには条理、いや、時とすると条理以上の何物かがあるように聞える——そこで、おぞけを振いながら
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
柳原土手は朝の光の中に浄化されて、其処にはもう、辻斬も惣嫁も、魑魅魍魎ちみもうりょうも影を潜め、買出しの商人や、朝詣の老人などが、健康な声を掛け合って、江戸の眠りを覚まして居ります。
美濃の岩滝の山中に入り一日半掌の米を食として幻覚の魑魅魍魎ちみもうりょうと闘ったり、心理的に幾つも超越の心階を踏み経たことは大悟小悟その数を知らずと後に自身の述懐に就て言っているくらいである。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
家ののきも三寸さがるといって、夜は、魑魅魍魎ちみもうりょうの世界だという。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
天翔あまかけることも地を潜ることも、魑魅魍魎ちみもうりょうを使うことも、呪縛じゅばくでお前さんを縛ることも、どんな事だって出来るのだよ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あたかも何よ、それ畜生道ちくしょうどうの地獄の絵を、月夜に映したような怪しの姿が板戸一枚、魑魅魍魎ちみもうりょうというのであろうか、ざわざわと木の葉がそよ気色けしきだった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
或は又、不気味にも、森全体がめしいたる魑魅魍魎ちみもうりょうち満ちているがごとくにも、思われないではなかった。
火星の運河 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
魑魅魍魎ちみもうりょうの巣のようにひびく上に、なおさら怪しげなのは、そこの小火鉢にゆったりとしている人間の風体ふうてい
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれらの跋扈跳梁ばっこちょうりょうはあたかも黄金境の観を呈し、幽霊もののけ妖怪変化、死霊いきりょう魑魅魍魎ちみもうりょう狐狸こり草木のたぐいまでが人を脅し世を騒がしては溜飲りゅういんをさげていた。
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
手前らには、この大東京の、この大都会の大気の中に、さながら空気中のアルゴンの如くに、無慮無数の魑魅魍魎ちみもうりょうがほしいままに跳梁跋扈ばっこしているかに感じられてならぬのでござります。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これもっ九天邪きゅうてんじゃるの使つかいもうけ、十悪を罰するのつらね、魑魅魍魎ちみもうりょうをして以て其奸そのかんるる無く、夜叉羅刹やしゃらせつをして其暴そのぼうほしいままにするを得ざらしむ。いわんや清平せいへいの世坦蕩たんとうのときにおいてをや。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
だが、今晩は魑魅魍魎ちみもうりょうが出ないで、あたりまえの人が来ました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ましてや他国へ出ましたならば、魑魅魍魎ちみもうりょうにも劣るような、悪漢どもが居りまして、よくないことをいたしましょう。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一体、悪魔を払う趣意だと云うが、どうやら夜陰のこの業体ぎょうていは、魑魅魍魎ちみもうりょうの類を、呼出し招き寄せるに髣髴ほうふつとして、実は、希有けぶに、怪しく不気味なものである。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
単に家宝を得ただけでなく、銘刀は魑魅魍魎ちみもうりょうも払うという。そんな心づよさも抱いたのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古い西洋館の隅々に悪鬼の怨念おんねんが潜んでいるかと疑われ、殊にあの三階の円塔は、魑魅魍魎ちみもうりょうみかのようにさえ思われて、誰もその付近へ近よるものもない有様であった。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
富士の裾野に巣食うところの魑魅魍魎ちみもうりょうの一人なのであったが、それは順を追って説くとして、さてある日の事である。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あわれあの時あの婦人おんなが、蟇にまつわられたのも、猿に抱かれたのも、蝙蝠に吸われたのも、夜中に魑魅魍魎ちみもうりょうおそわれたのも、思い出して、わしはひしひしと胸に当った。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ゆうして、そこを下れば、地底の闇に、魑魅魍魎ちみもうりょううごめく地獄巡り、水族館。不気味さに、岐道えだみちを取ってけわしい坂を山越しすれば、その山の頂上から、魂も消しとぶ逆落さかおとしの下り道。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その騎士は原則として、魑魅魍魎ちみもうりょう盗賊毒蛇、これらのものの横行する道路険難の諸国へ出て行き、良民のために粉骨砕身、その害物を除かねばならぬ。
罷違まかりちごうて旧道を皆歩行あるいてもしゅうはあるまい、こういう時候じゃ、おおかみしゅんでもなく、魑魅魍魎ちみもうりょうしおさきでもない、ままよ、と思うて、見送るとや深切な百姓の姿も見えぬ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
魑魅魍魎ちみもうりょうの目の様に、怪しく、鈍く、光っているのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうかと思うと騶従すうじゅうしりぞけ、単騎独行山谷を跋渉ばっしょうし、魑魅魍魎ちみもうりょうを平らげたというから、その行動は縄墨をもっては、断じて計ることが出来なかったらしい。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とお丹の下知げじに、おおかみころもまとい、きつねくらい、たぬきは飲み、ふくろう謡えば、烏は躍り、百足むかでくちなわ、畳を這い、いたち鼯鼠むささび廊下を走り、縦横交馳こうち、乱暴狼藉ろうぜき、あわれ六六館の楼上は魑魅魍魎ちみもうりょう横奪おうだつされて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
魑魅魍魎ちみもうりょう
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、一歩この境地から出ると、魑魅魍魎ちみもうりょうが横行濶歩し、危険この上もない蛮地であった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
で、世間の連中が、化け物屋敷だと吹聴ふいちょうする。——といった方が本当かもしれない。事実が顛倒てんとうして語られるところに、魑魅魍魎ちみもうりょうや化け物屋敷の、存在が許されるというものである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「その好意もよりきりじゃ」——千斎はいとも苦々しく「悪虫妖狐魑魅魍魎ちみもうりょうに、何んの親切が感じられようぞ。寸前尺魔、危険千万、愚老は是でお暇申す。貴殿もご注意なさるがよい」
高島異誌 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
万里小路までのこうじ中納言藤房ふじふさ卿が、数年前に建てた館で、山屋敷の一つであったが、この裏山が魑魅魍魎ちみもうりょう——流浪人や猟師や山賊や乞食、そういうものの巣窟となって美しい風景をけがし出して以来
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
幾百幾千となく集まっていた怪々奇々たる魑魅魍魎ちみもうりょうが恐怖の情を顔に現わし木を潜り草を蹴開き雲を霞と逃げるさまは真に不思議にも悽愴せいそうたるもので、岩上に立った才蔵さえ呆気あっけにとられたほどである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)