険呑けんのん)” の例文
自分はさすがにそれほど大胆ではなかったので、どうも険呑けんのんに思われて断行し得なかった。で、依然旧翻訳法でやっていたが、……
余が翻訳の標準 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そこでコンナ処に居ては険呑けんのんだと気が付いたから、出来るだけ深く水の底を潜って、慶北丸の左舷の艙口ハッチから機関室に潜り込んだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「よろしい。わかいました。つまり浪が病気が険呑けんのんじゃから、引き取ってくれと、おっしゃるのじゃな。よろしい。わかいました」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
さア隠すなら何所どこへ隠す、着物の衣嚢かくしとか其他先ず自分の身のうちには違い無いが其鋭利するどいものを身の中へ隠すのは極めて険呑けんのん
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
おもちゃに持たしておくと険呑けんのんだから、実は、今夜にも宿で聞いて、私ンとこまで取戻しにこうと思っていた処だったッて、そういいます。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
知ってたって何も驚くにゃあたらないでしょう、何すこぶる別嬪べっぴんだって?——倫敦にゃだいぶ別嬪がいますよ、少し気をつけないと険呑けんのんですぜ
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この懸念される容体で寒い露国へ行くのは険呑けんのんだから一応は健康診断を受けて見たらと口まで出掛ったが、幸いに何にも故障がなければだが
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
仕方がない、せめて髪の毛でも切って持っていってやりたいが、のそのそ出ていったら、まだちっと険呑けんのんじゃ。ともかく黒谷くろだにの巣へ引きあげよう
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
軍人のああした話に、盲目的もうもくてきに引きずられるのも険呑けんのんだが、感情的に反発はんぱつするのも険呑だ。時代はそんな反発でますます悪くなって行くだろう。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「そう無気むきになったッてしようがない、わ、ね。おッ母さんだッて、抜かりはないが、向うがまだ険呑けんのんがっていりゃア、考えるのも当り前だア、ね」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
俊助しゅんすけ生酔なまよい大井おおいを連れてこの四つ辻を向うへ突切るには、そう云う周囲の雑沓ざっとうと、険呑けんのんな相手の足元とへ、同時に気を配らなければならなかった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
足場を組んで、少しでも屋根の出張りの外へ頭を出せば、忽ち上からピストルのお見舞だ。どんな仕事師だって、そんな険呑けんのんな仕事を引受ける者はない。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
実際博士の疳癪玉は、眼医者にしては惜しい持物で、あれを競馬馬にでも持たせる事が出来たら、騎手のりて険呑けんのんな代りに屹度素晴しい勝を得る事が出来る。
空模様が険呑けんのんであったのに、道具を肩にして出かけると、はたして御成おなり街道から五軒町の裏を妻恋坂つまこいざかにのぼりかけた時分に、夕立の空からポツリポツリ。
さてそれ等の男に口を利かれて、伊太利イタリイ険呑けんのんなのはこれだと思つたから、僕は答もせずにずんずんと附近の宏荘な商品陳列じよ※ツトリオ・エマヌエルの中へはひつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
漁『上手な釣師も険呑けんのんだね、僕等では、其様な談判を持ち込まるる心配も無いが。アハハ……。』
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
“そいつは険呑けんのんな話だ。危なくメノコの下の口に丸呑みにされるところだったわい”
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
いろいろ穿鑿せんさくをしてみましたけれどもどうしてもネパールの首府からチベットの首府へ遠廻りをせずに行く間道はいずれも険呑けんのんです。必ずひと所か二所は関所を通らなければならぬ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「いやその安価やすいのが私ゃ気にわんのだが、先ず御互の議論が通ってあの予算で行くのだから、そうやすっぽいてすりの倒れるような険呑けんのんなものは出来上らんと思うがね」と言って気を
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「なにね、この家には女ばかりきりいないんです。大勢の若い娘さんたちですよ。私と顔を合わすのが険呑けんのんだと見えましてね、鈴で知らしてやるんですよ。私が行くと、皆逃げていきます。」
しかも吾人の想像に絶する巨大なる力を有するものだとか“性情すこぶ険呑けんのんなるもの”などと相当深い観察までが伝えられている。おまけに今後の調査団の強化までが決定されているじゃないか。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
鎮守ちんじゅ八幡でも、乞食の火が険呑けんのんと云うので、つい去年拝殿に厳重な戸締りを設けて了うた。安さんの為に寝所しんじょが一つ無くなったのである。それかあらぬか、近頃一向安さんの影を見かけなくなった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これは険呑けんのん至極と思いましたが、前にも申す如く、奥の婦人たちに向ってって口を入れて我意を張り通すことも、とにかく、元、私が医師を世話した関係上、私としては言い兼ねもしたので、まず
そが険呑けんのんな尾で以てすがれた岸を打つてゐた。
険呑けんのんな仕事なら、自慢じゃないが、慣れっこになっている吾輩だ。尤も吾輩が乗ったからシャフトが折れたのかも知れないがね、ハッハッ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
余はようやく安心して進みながら「随分険呑けんのんな犬ですね」と云う「なにそうではありません心はごく優いですが番犬ばんいぬの事ですから私し共夫婦の外は誰を ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ひょっとこれがさかさまで、わたしが肺病で、浪の実家さとから肺病は険呑けんのんだからッて浪を取り戻したら、おっかさんいい心地こころもちがしますか。おんなじ事です
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
僕の失恋もにがい経験だが、あの時あの薬缶やかんを知らずに貰ったが最後生涯の目障めざわりになるんだから、よく考えないと険呑けんのんだよ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兎で辛抱出来るものなら、女房かないは取らぬに越した事がない。たつて取らなければならぬとすれば、履だけは穿かせないに限る。履は険呑けんのんな上にあしのうらを台なしにする。
「そんな事をいわずに墓碑の篆額を書くツモリで書いてくれ」と重ねていうと、「墓碑なら書くよ、生きてる中は険呑けんのんだから書かんが、死んだら君の墓石へ書いてやろう、」
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
町の中には険呑けんのんな空気が立罩たてこめて、ややもすれば嫉刀ねたばが走るのに、こうして、朧月夜に、鴨川の水の音を聞いて、勾配こうばいゆるやかな三条の大橋を前に、花に匂う華頂山、霞に迷う如意にょいヶ岳たけ
「どうも少し険呑けんのんのような気がしまして」と僕が云うと、先生は落ちついて、「いえ格別の事もございますまい」と云う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
険呑けんのんな世の中だ、七人の女に心臓を約束した男よ、汝は何よりも先きに鼠を要心えうじんしなければならぬ。
ああ、川島か、いつだッたか、そうそう、威海衛砲撃の時だッてあんな険呑けんのんな事をやったよ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その診方みかたの親切なこと、そうして暗い中で、どこがどう、ここがこうということをたなごころを指すように言ってみせるから、はじめは険呑けんのんがっていた老人が、そぞろに信頼の念を高めてしまいました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こいつの云う事は一々しゃくさわるから妙だ。「しかし君注意しないと、険呑けんのんですよ」と赤シャツが云うから「どうせ険呑です。こうなりゃ険呑は覚悟かくごです」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敵味方とも牛乳ミルクや新しい肉にかつゑてゐるので、うとかして、自分達の塹壕に引張り込まうとするが、ひよつくり頭でも出すと、直ぐ弾丸たまが鳴つて来るので、そんな険呑けんのんな真似も出来なかつた。
しかし明治三十八年の今日こんにちこんな馬鹿な真似をして女の子を売ってあるくものもなし、眼を放してうしろへかついだ方は険呑けんのんだなどと云う事も聞かないようだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
思ひがけぬ心は心の底より出で来る、容赦なくかつ乱暴に出で来る、海嘯と震災は、たゞに三陸と濃尾に起るのみにあらず、亦自家三寸の丹田たんでん中にあり、険呑けんのんなるかな
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
して見ると時には自転車に乗せて殺してしまうのがあるのかしらん英国は険呑けんのんな所だと
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
険呑けんのんだと八合目あたりから下を見てねらいをつける。暗くて何もよく見えぬ。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「何だか抱くと険呑けんのんだからさ。くびでも折ると大変だからね」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)