闇黒あんこく)” の例文
一インチさきの闇黒あんこくに待っている喜怒哀楽の現象を、すべて容易に予知し、判読し、対策し転換を図ることができると知ったのである。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
何かわけのわからないことを呶鳴どなりながら、いきなり力まかせに女の手を振り解いて、あわてて横町の闇黒あんこくへ逃げ込んでしまいました。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
よし救われるにしたところが、そういう事をやって居るより早く日本に帰って世界にかの闇黒あんこくなるチベットの事情を紹介して貰いたい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼らの手から手へと炬火きょかを受け継がせる。彼らは相次いで、闇黒あんこくにたいする神聖な戦いをなしてゆく。彼らの民衆の精神に引きずられる。
年中闇黒あんこくである洞穴内に住んでいる魚では、眼があってもまったく物が見えぬゆえ、眼の発達の程度は生存競争における勝敗の標準とはならぬが
進化論と衛生 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
汽缶ボイラーが爆発したらしい。なぜなれば、その地響きに引続いて、鋭いがちゃがちゃいう音が聞え、まもなく湯気と煙の渦巻が闇黒あんこくの深淵から巻上った。
この句の詩情が歌うものは、こうした闇黒あんこく寂寥せきりょう、孤独の中に環境している、洋燈ランプのような人間生活の侘しさである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
そして艇は人事不省の四人の体をのせたまま、闇黒あんこくの成層圏を流星のように光の尾をひき、大地にむかって隕石いんせきのような速さで落ちていくのであった。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あるいは闇黒あんこくからはい出したものの思い出のさまざまが、眼前の霜葉しもは枯れ葉と共にまた多くの人の胸に帰って来た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うるしのような闇黒あんこくな場面で御座います。従って説明の致しようもない訳で御座いますが、しかしよく御覧下さい。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ある記事には、闇黒あんこく松明たいまつの火を振り振り、導者らが、原始的な民謡を歌ひはじめることなどが書いてある。
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
葉子は闇黒あんこくの中で何か自分に逆らう力とこん限りあらそいながら、物すごいほどの力をふりしぼってたたかっているらしかった。何がなんだかわからなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
が、彼の心の目は人生の底にある闇黒あんこくに——そのまた闇黒の中にいるいろいろの怪物に向っていた。
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ほとんど闇黒やみ全體ぜんたいつゝまれてつたが、わたくし一念いちねんとゞいて幾分いくぶ神經しんけいするどくなつたためか、それともひとみやうや闇黒あんこくれたためか、わたくしからうじてその燈光ひかり主體ぬしみと途端とたん
武運つたなく戦場にたおれた顛末てんまつから、死後、虚空こくうの大霊に頸筋くびすじつかまれ無限の闇黒あんこく彼方かなたへ投げやられる次第をかなしげに語るのは、あきらかに弟デックその人と、だれもが合点がてんした。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その当代のその科学の前線まで進んで来て、そこでなんらかの自分の仕事をしようとしている人たちは、眼前の闇黒あんこくな霧の中にある何物かの影を認めようとあせっているのである。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
乗りはぐれた者は、一と声鋭い叫びをのこして、闇黒あんこくの激浪の中にのまれて行った。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
すべてが闇黒あんこくであって、ただ人を斬ってみる瞬間だけに全身の血が逆流する。その時だけがこの男の人生の火花なのだから、恋とやら、情とやらいうものは、もう無いものになっているはずです。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
月のない闇黒あんこくの一夜、湖心の波、ひたひたと舟の横腹をめて、深さ、さあ五百ひろはねえずらよ、とかこの子の無心の答えに打たれ、われと、それから女、凝然ぎょうぜんの恐怖、地獄の底の細き呼び声さえ
二十世紀旗手 (新字新仮名) / 太宰治(著)
火や煙や灰や闇黒あんこくや、二郎はその次に何者をか見たる。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
市平は闇黒あんこくの空間を凝視みつめたきり、暫く黙っていた。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
しかし、この、「長い黒の外套がいとう」を着て闇黒あんこくむ妖怪は、心願しんがんのようにその兇刃きょうじんを街路の売春婦にのみ限定してふるったのだ。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
いやおよそ、あの部屋にいた連中は皆、闇黒あんこくの中に沈澱ちんでんしていたのだ。誰も視力を奪われていた。暗闇で延髄えんずいを刺すということは、誰にも出来ない筈だ。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
世界に対し闇黒あんこくなるチベットの事情を明らかにして学者社会に功を現わす事があったと仮定しても、恐らくは天下後世こうせい日本の人は何というか知らんが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ながめると闇黒あんこくなる右舷うげん左舷さげん海上かいじやう尋常たゞならずなみあらく、白馬はくばごと立浪たつなみをどるのもえる。
しかし室内はモトの闇黒あんこくには帰りませんでした。閉じられた窓の鎧扉ブラインドの僅かの隙間すきまから暁の色が白々と流れ込んで、へやの中のすべての物を、海底のように青々と透きとおらせております。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
夜明けの闇黒あんこくは一そう暗いものですから、こうする必要があるのですけれど、彼女らは「赤い警鐘」紙も「労働と自由」新聞も火をつけて窓から振るために存在するのだと思ってるのです。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
そのため、これはあとでわかったことだが、人狩りの連中は二度も三度も闇黒あんこくのなかで獲物のすぐかたわらを通りながら、すこしも気のつかないことさえあった。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
元の暗闇が帰って来たけれど、皆の網膜もうまくには白光が深くみこんでいて、闇黒あんこくがぼんやり薄明るく感じた。スクリーンの前では雁金検事が、しきりに眼をしばたたいていた。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
噸數とんすう一千とんくらゐ二本にほん烟筒えんとつ二本にほんマストその下甲板げかんぱんには大砲たいほう小銃等せうじうとうめるにやあらん。いぶかしきまで船脚ふなあしふかしづんでえたそのふねが、いま闇黒あんこくなる波浪なみうへ朦朧ぼんやりみとめられたのである。
そうして君が死ぬ程の驚愕と感激のうちに、この空前絶後の大研究の発表を引受けて、全人類を驚倒、震駭しんがいさせてくれるであろう……その発表によって太古以来の狂人の闇黒あんこく時代を一時に照し破り
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
室内は闇黒あんこくだ。天井は板硝子ガラスで満々と水をたたえている。
闇黒あんこくにまぎれて静かに立ち去ったのだろうが、現場はバアナア街社会党支部の窓の直下で、兇行きょうこう時刻には、支部には三、四十人の党員が集っていたにもかかわらず
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
AYE! 闇黒あんこくがLISBOAの海岸通りを包むとき!
この、世界犯罪史上にもほかに類のない兇悪不可思議な人怪じんかい——彼を取り巻く闇黒あんこくの恐怖と戦慄せんりつすべき神秘、それらはもう、いまとなっては闡明せんめいのしようがないのだ。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
むらさき色の闇黒あんこく。警戒線。星くず。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
この捜査は、じつに長期にわたって人知れぬ努力を払わせられた記録的なものだという。それはちょうど長夜の闇黒あんこくに山道を辿たどり抜いて、やがて峠の上に出て東天の白むを見るような具合だった。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)