錦繍きんしゅう)” の例文
ぽんの旗、錦繍きんしゅう幡旗はんき、さっと隊を開いたかと見れば駿馬は龍爪りゅうそうを掻いて、堂々たる鞍上の一偉夫を、袁紹の前へと馳け寄せてきた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをたていととするならば、春夏秋冬の絶えざる変化をよこいととして、ここに錦繍きんしゅうの楽土が織り出されているのであります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
俊成卿女しゅんぜいきょうじょの歌や式子しょくし内親王のお歌。そのほかにも数ある代表的な作者たちの錦繍きんしゅうのようにたてよことの錯雑した作品。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
固有でない環境に置かれれば錦繍きんしゅうでもきたなく、あるべき所にあれば糞堆ふんたいもまた詩趣があるようなものであろう。
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
きれいな方である上に、錦繍きんしゅうに包まれておいでになったから、この世界の女人にょにんとも見えないほどお美しかった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
柳さくらをこきまぜて、都は花のやよい空、錦繍きんしゅうき、らんまん馥郁ふくいくとして莽蒼ぼうそう四野も香国こうこく芳塘ほうとうならずというところなし。燕子えんし風にひるがえり蜂蝶ほうちょう花にねんす。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
丁度、紅葉の頃で、林は錦繍きんしゅうの装いに包まれていた。雲かと思えるばかりにそびえ立つ峰々は、淡い薄絹に包まれたように、ほのぼのとした色どりをみせている。
それは感激なくして書かれた詩のようだ。又着る人もなくたれた錦繍きんしゅうのようだ。美しくとも、価高くあがなわれても、有りながら有る甲斐かいのない塵芥じんかいに過ぎない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
さてこの田楽に繰り出す連中は、富者は産を傾けて錦繍きんしゅうを衣とし金銀を飾りとし、朝臣武人らはあるいは礼服をつけあるいは甲冑かっちゅうを被り、隊をくんで鼓舞跳梁こぶちょうりょうした。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
錦繍きんしゅうのしとねを、いそいで延べて、驚愕きょうがくと恐怖とに、ブルブルと震えながら、美しく若い女あるじの死体を窮屈な函から出して、そのしとねに横たえるのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ネーチュンの出御しゅつぎょ 釈迦堂の内から、例の気狂いのごとくになって居るネーチュン(神下かみおろし)がチベット第一の晴れの金襴きんらん錦繍きんしゅうの服を着け、頭にも同様のかんむりいただ
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
祐信すけのぶ長春ちょうしゅんを呼びいかして美しさ充分に写させ、そして日本一大々尽だいだいじんの嫁にして、あの雑綴つぎつぎの木綿着を綾羅りょうら錦繍きんしゅうえ、油気少きそゝけ髪にごく上々正真伽羅栴檀しょうじんきゃらせんだんの油つけさせ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
傍に南鮮から引き上げて来たばかりの三人の婦人が語っている哀れな話も、紅葉の色に照り映って哀音には響かず、汽車は混雑しながらいよいよ錦繍きんしゅうの美に映えてすすむ。
倉皇そうこうの際わずかに前半の一端をうかがひたるのみに御座候得そうらえども錦繍きんしゅうの文章ただちに感嘆の声を禁じ得ず身しばしば自動車の客たる事を忘れ候次第忙中かへつてよく詩文の徳に感じ申候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
殊に、十月下旬になると相馬ヶ原一帯の錦繍きんしゅうは、ほんとうに燃ゆるようだ。明治三十九年の正月の上旬であったと思う。私は、帰省して箕輪町の奥の松の沢の山家へ泊まったことがあった。
わが童心 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
山海の珍味、錦繍きんしゅうの衣裳、望むがままに買うことも出来、黄金こがねかんざし瑇瑁たいまいくし、小判さえ積めば自分の物となる。そうです。実に小判さえ出せば万事万端おの自由まま——これが江戸の習俗ならわしです。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
花嫁とったような心持は、少しも持たず、戦場にでも出るような心で、身体からだには錦繍きんしゅうまとっているものの、心には甲冑かっちゅうよそおうている瑠璃子ではあったが、こうして沢山の紳士淑女の前に
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
東北地方は既に厳霜凄風げんそうせいふうたれて、ただ見る万山ばんざんの紅葉はさながらに錦繍きんしゅうつらぬるが如く、到処秋景惨憺いたるところしゅうけいさんたんとして、蕭殺しょうざつの気が四隣あたりちているこうであった、ことにこの地は東北に師団を置きて以来
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
呉青秀はその中を踏みわけて、自分のへやに来て見るには見たものの、サテどうしていいかわからない。妻の姿はおろかからすの影さえ動かず。錦繍きんしゅう帳裡ちょうり枯葉こようさんず。珊瑚さんご枕頭ちんとう呼べども応えずだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
錦繍きんしゅうの国旗をひるがへして府内城下に乗込んだ。
「いやいや、やむをえずとは申せ、流離りゅうり亡命の宋江の如きが、錦繍きんしゅうの帝旗にてむかい、あなたへも、さんざんな無礼、どうか平におゆるしを」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いよいよ豪奢ごうしゃな『新古今』の錦繍きんしゅうの調べを愛せられ、来る日も来る月も歌会の催しがにぎわしく続けられた。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
はなやかな錦繍きんしゅうの服と精巧な作の箱、その中の小箱を見ながらも二人は非常に泣いた。喪にこもっている自分たちはこれをどう隠しておればいいかということにも苦心を要した。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
堂内の粧飾 なぜなれば普通の時と違って本堂の内は綺羅きら錦繍きんしゅうで飾り付けられて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「う、うむ——わしの目に狂いのあることはない——わしの目が、どんな珠玉、錦繍きんしゅうの、まがい、本物を間違えたことはない——たしかに、見覚えのある顔だ——目だ——唇だ——すがただ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
山や谷が錦繍きんしゅうの彩に飾られる十月中旬から産卵をはじめたのである。
利根川の鮎 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
何も知らない十四の花嫁は、厚い綿と錦繍きんしゅうにくるまれて、父の冷たい甲冑の背中に、確固しっかと結びつけられていたのである。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
関上遥けき一天を望むと、錦繍きんしゅう大旆たいはいやら無数の旗幟きしが、颯々さっさつとひるがえっている所に、青羅の傘蓋さんがい揺々ようようと風に従って雲か虹のように見えた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
劉璋は、かねて用意しておいた金珠きんしゅ錦繍きんしゅうの贈物を、白馬七頭に積んで、彼に託した。もちろん曹操への礼物である。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大厦たいか玉楼に無数の美女をあつめ、錦繍きんしゅうの美衣、山海の滋味と佳酒、甘やかな音楽、みだらな香料など、あらゆる悪魔の歓びそうな物をもって、彼の英気を弱めにぶらせ
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、いいつけ、綾羅りょうら百匹、錦繍きんしゅう五十匹、金銀の器物、珠玉の什宝じゅうほうなど、馬につけて贈らせた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
錦繍きんしゅうとばりを垂れ、近侍小姓は綺羅星きらぼしと居並び、紅白のだんだら幕をめぐらしたおしもには
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして四人の仙童に命じ、たって宋江に御簾内みすうちの席をすすめた。錦繍きんしゅう椅子いすであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがてばんかずも進むうちに、勾欄の一角に錦繍きんしゅうのぼりが立った。わアっと同時に四ざんがくもくずれんばかりな歓声が揚がる——。いよいよ天下無敵と称する擎天柱けいてんちゅう任原じんげんの出場なのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楽を奏しながら、錦繍きんしゅうの美旗をかかげて、彼方から来る一群の軍隊がある。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「明日はこくに、董太師がお越しになる。一家の名誉だし、わし一代のお客だ。必ず粗相そそうのないように」と、督して、地には青砂をしき、しょうには錦繍きんしゅうをのべ、正堂の内外には、とばりや幕をめぐらし
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もなく、清掃せいそうした社家しゃけ客殿きゃくでんへ、錦繍きんしゅうのしとねがおかれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
綺羅きら錦繍きんしゅう、乏しいものはない。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)