遺言ゆいごん)” の例文
「もし縁があって、お前がその男の児にめぐり会うような折もあらば、剣術をやるなと父が遺言ゆいごんした、こう申し伝えてもらいたい」
「そうです。貴君のお兄さんの臨終に居合したたった一人の人間は私です。お兄さんの遺言ゆいごんを聴いたたった一人の人間も私です。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「そう云わなくても四十九回、始終しじゅう苦界くがいさ。そこでこの機会に於て、遺言ゆいごん代りに、子沢山の子供の上を案じてやってるんだあナ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
遺言ゆいごんによって、ベートーヴェンの墓のかたわらに葬られたが、それが三十一歳で夭折ようせつした、稀代きだいの天才のせめてもの満足であったことであろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
また、ほかの不義理はとにかく、渋沢の借金だけは、事情を話して、父から返してもらうように、これも、遺言ゆいごんへ加えておこう。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はて、いずれのじんかな? が、わしにはそなたの護り袋の中の、大方おおかた父御ててご遺言ゆいごんらしいものの文言もんごんさえ、読めるような気がするのじゃ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
彼はこの老婦人が財産を皆に分けてくれ、遺言ゆいごんまでもした後で、もう一度丈夫に成ったその手持無沙汰な様子を動作にも言葉にもて取った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その遺言ゆいごんを書取ってくれといって私は英語でぼちぼち喋舌しゃべりかけたが、なかなか苦しくって言い得なかった。博士は、それは言う必要はない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「なあ、お美代、大崎さは行ぐなよ。なんでもいいから、楽の出来っとごさ行げ。俺死ぬ時、にしは、町場さ嫁にやるように遺言ゆいごんして死ぬがら……」
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
きんさんは、その遺言ゆいごんまもって、本屋ほんや小僧こぞうさんとなり、よく辛棒しんぼうをしました。そして、一にんまえになってから、ちいさなみせったのであります。
春風の吹く町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その遺言ゆいごんに一年も過ぎたなら、こうこうした処だから往って見よとあったので、その通りに時経てのち出かけて捜して見ると、偉大なるすねの骨などが落ち散り
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
二世勝三郎はおわりに臨んで子らに遺言ゆいごんし、勝久を小母おばと呼んで、後事こうじを相談するがいといったそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「お慈悲じひでございます。遺言ゆいごんのあいだ、ほんのしばらくお待ちなされて下されませ。」とねがいました。
蜘蛛となめくじと狸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
先代が死ぬときに勘当の詫びをする者もあったが、先代はどうしても承知しないで、あんな奴は決して関口屋の暖簾のれんをくぐらせてはならないと遺言ゆいごんしたそうです。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うん、そうして、井戸いど費用ひようがたりなかったら、いくらでもわしがしてあげよう。わしは明日あしたにもぬかもれんから、このことを遺言ゆいごんしておいてあげよう。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
父は自分の眼の前に薄暗く映る死の影を眺めながら、まだ遺言ゆいごんらしいものを口に出さなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
元より御憎悪強おんにくしみつよわたくしにはさふらへども、何卒なにとぞこれは前非を悔いて自害いたし候一箇ひとりあはれなる女の、御前様おんまへさま見懸みかけての遺言ゆいごんとも思召おぼしめし、せめて一通ひととほ御判読ごはんどく被下候くだされさふらはば、未来までの御情おんなさけ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
有名な天下の糸平が死ぬときの遺言ゆいごんは「己れのために絶大の墓を立てろ」ということであったそうだ。そうしてその墓には天下の糸平と誰か日本の有名なる人に書いてもらえと遺言した。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「かりにもし、子供があったら、ですね」杢はもうひらひらさせられない指をあげて、きわめて柔和にこう云った、「私はこう遺言ゆいごんをしますよ、——決して眼をくれるな、金はかたきだ」
その寺に、今から三、四代前とやらの住職が寂滅じゃくめつの際に、わしが死んでも五十年たったのちでなくては、この文庫は開けてはならない、と遺言ゆいごんしたとか言伝えられた堅固な姫路革ひめじがわはこがあった。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其の左膳も病にし、死する臨終いまわわれを枕元に招き、き跡にて此の孫を其のほうの娘となし、成長ののち身柄みがらあるいえ縁付えんづけくれ、頼む、と我師わがし遺言ゆいごん、それよりいさを養女となせしが
遺言ゆいごん、——と云う考えも頭へ来た。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
信一郎は、大声で、しかも可なりの感激をもって、青年の耳許みみもとで叫んだ。本当は、何か遺言ゆいごんはありませんかと、云いたい所であった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その遺言ゆいごんは告げているのだ。わがはじすすげ。わが家の家名を上げよ。また、足利家の名をもって北条の幕府に代れ、と。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
百歳に近い老人が死床しにどこにいて、苦しい息の下から遺言ゆいごんをするような場合も、音声は相当ゆがんでいるであろう。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
運び兼ねたが、遺言ゆいごんをするとか、遺言状を書く力があったらきっと若旦那の勘当を許したに違いないと——
お元というばあやは御新造の遺言ゆいごんで、その着物から持物全部を貰って国へ帰りました。このばあやは柳橋時代から御新造に仕えていた忠義者で、生れは相模さがみの方だとか聞きました。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やがて、つぎのだいとなりました。いまのおおきな屋敷やしきは、このひとだいつくられたものです。けれど、このひとも、よくおや遺言ゆいごんまもって、むらのものをかわいがることをわすれませんでした。
武ちゃんと昔話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
通行の人々に水を与えるようにしろという遺言ゆいごんをされたのでこしらえた溜池であるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
亡くなる前にした遺言ゆいごんによれば、けい海保漁村かいほぎょそんに、医を多紀安琢たきあんたくに、書を小島成斎こじませいさいに学ばせるようにいってある。それから洋学については、折を見て蘭語らんごを教えるがいといってある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
貴君は、今青木さんの遺言ゆいごんとやらを、長々しく仰しゃいましたが、それを妾が受けると思っていらっしゃるのですか。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
深い因縁というものか、ゆうべ千蛾が万太郎に苦衷くちゅうを打ち明けてすがった言葉は、彼の遺言ゆいごんとなったわけです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『放送された遺言ゆいごん』は、僕の書いた科学小説の第二作であって、昭和二年「無線電話」という雑誌に自ら主唱しゅしょうし、友人槙尾赤霧まきおせきむ早苗千秋さなえちあきとに協力を求めて
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ところで遺言ゆいごんには日比魚と書いてあるんで。これは聖堂へ持って行ったって読めないから不思議じゃありませんか。これが読めると、何万両という金になるんだが——」
遺言ゆいごんうちに、兼て嗣子と定めてあった成善しげよしを教育する方法があった。経書けいしょを海保漁村に、筆札ひっさつを小島成斎に、『素問そもん』を多紀安琢に受けしめ、機を蘭語らんごを学ばしめるようにというのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
日本の大学に贈るかあるいはその故郷の人が見られ得る図書館に贈るとか遺言ゆいごんして置かなければならんという考えを起して、夢中になって居りましたが、それだけは確かに考えをもって居った。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
心をほどいて、つい高氏はこんなことまでいったが、すぐ語をかえて、彼の遺言ゆいごんをききとった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ヘエ、私は左官の伊之助の弟でございますが、兄の遺言ゆいごんで、今晩お伺いいたしました」
「なにか遺言ゆいごんはない?」
骸骨館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
千蛾せんが老人の遺言ゆいごんいつわりであると申す次第ではなく、事実、慶長の昔、ピオがこの城内に刑罰をうけて、その亡骸なきがらもこの吹上ふきあげの、奥に埋め隠されたものとしても、さる異国人の亡骸を埋めたあとに
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中尉の遺言ゆいごん
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ゆうべ俊基との今生こんじょう一ぺんの機縁に、二つの遺言ゆいごんを託されている。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はい。死ぬ時、なぜか、侍の妻にはなるなと、遺言ゆいごんにいいましたが、わたくしは町人ぎらいで、やはりどうかして、武家の家内になりたいと、叔父、叔母にかくれて、お針部屋に御用のない時は、町の道場へ通うております」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遺言ゆいごんがあるなら聞いてやるが……」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お照の遺言ゆいごんだった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「金吾、遺言ゆいごんは」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)