赤銅しゃくどう)” の例文
大柄で筋骨たくましい身体からだや、額のきずや、赤銅しゃくどう色の刻みの深い顔など、悪人らしくはありませんが、大親分の昔を忍ばせるには充分です。
連日炎天の行軍で顔は赤銅しゃくどうのごとく、光っているのは眼ばかり。それに洋服は汗とほこりでグシャグシャになった上に臭くなっている。
そして、その日に焼けて赤銅しゃくどうのように光っている頬を、大粒の涙がほろほろと流れ落ちた。二人は涙のうちに、しばらくは言葉がなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ふと見ると、赤銅しゃくどうのような色をした光芒ひかりの無い大きな月が、おほりの松の上に音も無く昇っていた。その色、そのかたち、その姿がいかにもわびしい。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
赤銅しゃくどう色のたくましい四肢は陽に輝いて白く光り腰の辺に纒った鳥の羽根は棕櫚の葉のように翻えり胸を張って駈けるその姿は土人とは云え美しい。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
遡航そこう氷室ひむろ山の麓は赤松の林と断崖のほそぼそとした嶮道けんどうに沿って右へ右へと寄るのが法とみえる。「これが犬帰いぬがえりでなも」とうしろから赤銅しゃくどうの声がする。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
婦人用の烟管きせるの吸口と雁首がんくびに附けた金具に、銀と赤銅しゃくどうとを用いて、銀白色の帯青灰色との横縞を見せているのがある。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
顎十郎が窓から首を出して見ると、叔父の庄兵衛が、赤銅しゃくどう色の禿頭から湯気を立てながら往来に突っ立っている。
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
出すときには、風呂敷の四隅をつかんで、濛々もうもうと湯気の立つやつをゆかの上に放り出す。赤銅しゃくどうのような肉の色が煙の間から、汗で光々ぴかぴかするのが勇ましく見える。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
みよしからだみごえをかけたのは、この船の張本ちょうほんで、龍巻たつまき九郎右衛門くろうえもんという大男だった。赤銅しゃくどうづくりの太刀たちにもたれ、南蛮織なんばんおりのきらびやかなものを着ていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若者わかものは、時計とけいして、主人しゅじんせました。小型こがた銀側時計ぎんがわどけいで、ぎんのくさりがついて、それに赤銅しゃくどうでつくられたかざりの磁石じしゃくが、べつにぶらさがっていたのでした。
般若の面 (新字新仮名) / 小川未明(著)
金側きんがわ懐中時計(金鎖きんぐさり共)一番金目かねめなのは、室の中央の丸テーブルの上にあった、金製の煙草セット(煙草入れと灰皿けで、盆は残っていた。盆は赤銅しゃくどう製である)
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「見事。——鞘は平糸まき。赤銅しゃくどうつか叢雲むらくもの彫りがある。が、これは刀、一本ではしかたがあるまい」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「それだからつい見かけないと言ったのさ。金無垢きんむくで目と歯が銀の、ぶち赤銅しゃくどうか。出来合にはこんな精巧なものはない。この歯は一本々々後から植えたもんだぜ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
例の五連発の室内銃を胸のあたりに取り上げて、銃口をこちらへ向けていましたが、その銃身に象嵌ぞうがんした金と銀と赤銅しゃくどうの雲竜が、蝋燭の光でキラキラとかがやきます。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
薄い赤銅しゃくどうの延板を使って、どちらにも無雑作に井桁いげたたちばなの紋が、たたき出しで浮かしになっている。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
正※知しょうへんちはどんなお顔いろでそのおはどんなだろう、うわさの通りこんいろの蓮華れんげのはなびらのようなひとみをしていなさるだろうか、おゆびつめはほんとうに赤銅しゃくどういろに光るだろうか
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「そのゆび繊長せんちょうにして、爪は赤銅しゃくどうのごとく、たなごころ蓮華れんげに似たる」手を挙げて「恐れるな」と言う意味を示したのである。が、尼提はいよいよ驚き、とうとう瓦器がきをとり落した。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
赤銅しゃくどう色のぶな、金褐色のくり珊瑚さんご色の房をつけた清涼茶、小さな火の舌を出してる炎のような桜、だいだい色や柚子ゆず色や栗色や焦げ燧艾ほくち色など、さまざまな色の葉をつけてる苔桃こけもも類のくさむら
たくしあげた僧衣の裾からはみ出している、日焼した逞しいすねを見ただけで、眼のくらむ思いがした。その日焼けが並大抵の日焼けではないのだ。赤銅しゃくどう色なんてところを通り越していた。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
間もなく、反絵の片眼は赤銅しゃくどうのような顔の中で、一つ朦朧もうろうと濁って来た。そうして、王の顔は渋りながら眠りに落ちる犬のように傾き始めると、やがて彼は卑弥呼の膝の上へ首を垂れた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
けきった甲冑の重さもさることながら、それに包まれている五体の汗腺かんせんから流れるものは汗という程度のしずくではない。どの顔もどの顔も赤銅しゃくどういろに燃えていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
懐中煙草が一つ——印伝いんでんかます赤銅しゃくどうあぶの金具を付けた、見事な品を町役人は平次に渡しました。
この船は三本マストの帆前船ほまえせんにて、そのふなべりは青く錆びたる銅をもって張られ、一見してよほど古き船と知らる、船長はアフリカ人にて、色は赤銅しゃくどうのごとく、眼は怪星のごとく
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
この時に能登守は起き上って寝衣ねまきの帯を締め直しました。寝衣の帯を締め直すと共に床の間にあった、銃身へ金と銀と赤銅しゃくどうで竜の象嵌ぞうがんをしてある秘蔵の室内銃を取り上げました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と左膳、片手に赤銅しゃくどうつかをたたいて瓢々然ひょうひょうぜん、さてどの方角へ足が向いたことやら——?
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
砂浜で寝転んでいる赤銅しゃくどう色の青年たちが、気色を悪くして聞えよがしに叫ぶ。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これは金と赤銅しゃくどうと銀とで、つたの葉をつづった金具の付いている帯留おびどめであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
壮者をしのぐ四肢の筋肉、赤銅しゃくどういろの皮膚など、そっくりふいごの焔から飛び出したような頑健さです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次が取出したのは、蝋塗鞘ろうぬりざや赤銅しゃくどうつば、紺糸で柄を巻いた、実用一点張の刀です。
赤銅しゃくどうつかに刀には村雲むらくも、脇差にはのぼりゅうの彫り物があるというところから、大を乾雲丸けんうんまる、小を坤竜丸こんりゅうまると呼んでいるのだが、この一ついの名刀は小野塚家伝来の宝物で、諸国の大名が黄金を山と積んでも
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ドーナツのようなあかや緑の浮輪うきわ。黄と紺を張り交ぜにした大きなまりで鞠送りをしている青年と淑女。歌をうたっているパンツの赤銅しゃくどう色。ライフ・ガードの大きなメガフォン。きりっとした煙草売り娘。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
枕元には、白茶の柄糸つかいと赤銅しゃくどうごしらえという柳鞘やなぎざや了戒りょうかい一刀と、同じ作りで吉光の差しぞえ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)