あかし)” の例文
旧字:
小野篁おののたかむらの「比良ひらの山さへ」と歌った雪の朝を思って見ると、奉った祭りを神が嘉納かのうされたあかしの霜とも思われて頼もしいのであった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
いや、争う場合に、切り落されるという例もままあるから、その指は、あまりあかしにはならぬ。もっと重要なことは、女の髪油のにおいだ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少しも彼の苦難の日々に意義があったというあかしにはならない、——なんという徒労だ、なんという取返しのつかない徒労だ。
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この不殺生戒を堅く持つことをもってあなたのチベット行の餞別に致します。そのあかしとしてこの網をあなたに差し上げます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そのひとり子をこの世に送り、彼を死よりよみがえらせて明らかなあかしを我々に示したこの大いなる神を信じないか。云々。
『偶像再興』序言 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
かく汝らは預言者を殺しし者の子たるを自らあかしす。なんぢら己が先祖の桝目ますめみたせ。蛇よ、まむしすゑよ、なんぢらいかでゲヘナの刑罰を避け得んや。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
正造が挨拶に立って、今日ここに沿岸有志の精神が一致したあかしを見るに至ったのは、誠に頼母しいかぎりであると述べ
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
何人と云えども、その人々の特徴がある、其の特徴のある事が即ち、此の三つの中のいずれかの一つに他よりも多く精力を授けられて居るあかしである。
大いなるもの (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
三絃の流行は彼等のうちあかしをなせり、義太夫常磐津ときはづより以下短歌はうた長歌ながうたこと/″\く立ちて之れが見証者たるなるべし。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
救いは機にかかわらず確立しているのじゃ。信心には一切のあかしはないのじゃ。これがわしが皆にする最後の説教じゃ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ただひとこと殿様に頼まれて……とお藤が洩らすのをあかしに源十郎へ掛け合うつもりでいるものの、それをお藤は、頑固に口を結んでいっかないわぬ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
己のうたいし ことのはのかずかずは 乾酪チイズのごと 麦酒ビイルのごと 光うしないて よどみはてしは わがこころのさまも かくありなんとの あかしなるべし
口業 (新字新仮名) / 竹内浩三(著)
無実のあかしを立ててやりたい、……それで、出しゃばりのそしりもかえりみず、出しゃばりをしているわけなんで……。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
我亡きのち我の無罪を証し給うものは神である。これヨブの暗中に望み見た灯火である。ゆえに彼に神がこのあかしの確証を今与え給わんことを願うのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ところが、そのとき積み込んだ四つの魚雷からは、どうしたことか、功績いさおあかしが消え去ってしまったのです。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「一月五日の晩、お前と一緒に船の中で一と晩過したというあかしが立ちさえすれば助かる。サア、こうしているうちにも処刑が済むかも知れない。早、早く、早く」
もとからの耕地でないあかしには破垣やれがきのまばらに残った水田みずたじっと闇夜に透かすと、鳴くわ、鳴くわ、好きな蛙どもが装上って浮かれて唱う、そこには見えぬ花菖蒲、杜若かきつばた
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女はさめざめと持彦にもたれてすすり泣いた。それは愛情が極まったくやしさもあれば、もう何処どこにも行かない、あなた様のおそばよりほかに行くところがないというあかしでもあった。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
末代そのあかしとして、重清入道は死ぬ時にはおのれの頭を残すように言って置いたが、後世、その頭をここに祭って、あがめて鬼頭天王と申し奉る、これが、すなわち鬼頭様の由来だと
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
本当に死んでそのあかしを見せたこの言葉は殊にこの案内者だけの言葉であったのか
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
最も利害関係の深い私に一言の相談もせずに実行するとは専横過ぎる、———と云うのであったが、妙子は妙子で、兄さんが雪姉きあんちゃんのためにあかしを立てて上げるのは当り前だけれども
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ある夜風朝風に、私たちの手から蕾のままに失われていった可憐かれんの宝玉も、いやまさる恵みの庭に成長し咲きいでていることを、またこの信念が私たちにあかししてくれることができると思う。
最も楽しい事業 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
物を堅実けんじつにするゆゑ塩蔵しほづけにすれば肉類にくるゐ不腐くさらず、朝夕くちそゝぐに塩の湯水を以すればをかためて歯の命を長くすといふ。玉栗は児戯こどもたはふれなれど、塩の物をかたくするあかしとするにたれり。故にこゝにしるせり。
悟浄ごじょうよ、あきらかに、わが言葉を聴いて、よくこれを思念せよ。身のほど知らずの悟浄よ。いまだ得ざるを得たりといいいまだあかしせざるを証せりと言うのをさえ、世尊せそんはこれを増上慢ぞうじょうまんとて難ぜられた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「予は誰やら知らぬ。が、予でない事だけは、しかとしたあかしもある。」
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
快き秋の日早く来たれかし飽ける男のそのあかし見ん
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
われらの肉体が石の質なることをあかししつつ。
あかしせよ かの一ときの団欒まどゐゆめに非ずと。
今後の行いであかしを立てると誓ったのです。
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
もとも力あるあかしを見せむため
あかしとして源氏に参ろう
如何いかに、如何なるあかし
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ちょうど泊り合せていた妹のふさ子、山岡鉄舟、下僕や門人など七、八名して、闇夜ではないが町方などへのあかしのため、提灯ちょうちんを打振りながら
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうぞ一粒でもよいから芽をだしてお呉れ、おまえが芽生えたら、わたしが姑さまのおそばにいられるあかしだと思います」
日本婦道記:不断草 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
俊寛 (ため息をつく)あゝ、あなたは囚徒しゅうとのごとく不安な態度で仏の名を呼ばれます。このたいせつなあかしをたてるのにわしの顔をも見ないで——あゝ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
しかるに十六章十九節に至れば「よ今にてもわがあかしとなる者天にあり、わが真実を表明あらわす者高き処にあり」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
双剣一に収まって和平を楽しむのいまだいたらざるあかしであろうが、前門に雲舞いくだって後門こうもんりゅうを脱す。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その人には私の法衣ほうえの一通りと少しばかりの金を与え、なお外の恩を受けた人達および講義をしてくれた教師達には、皆相当の物品あるいは金を記念かたみあかしとして送り
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
無数の神をあかしに立てて、今からの変わりない愛をお語りになるのを、女王は、どうしてこんなに女へお言いになることにれておいでになるのであろうといやな気もするのであるが
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
すっかり身のあかしも立てて、御隠居の考えも通させた方が、どう考えても得策だね
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
最後の円満なる大理想境に思ひをする者はあらず、何事も消極的に退縮して、人生の霊現なる実存をあかしすることなく、徒らに虚無縹渺へう/″\の来世を頼む、斯の如くにして活気なき国民となり
一種の攘夷思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
物を堅実けんじつにするゆゑ塩蔵しほづけにすれば肉類にくるゐ不腐くさらず、朝夕くちそゝぐに塩の湯水を以すればをかためて歯の命を長くすといふ。玉栗は児戯こどもたはふれなれど、塩の物をかたくするあかしとするにたれり。故にこゝにしるせり。
また普通の教師とか原稿書きなぞもしなかったことをあかしするものである。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
仔細を話して明り(あかし)を立てなきゃア、どんな事になるか判らないぜ
繊細な技巧と熱情が美しく波うつスキッパのハバネラは、人間のいないうすいうたいかたでは、どんな派手な声を仕上げてもだめなものだというあかしをしながら、聞くものの心を深い陶酔にひきこんだ。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
自らをあかしとなして云ふことに折節涙流れずもがな
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
「見事にあかしをお立てなさいましたわね。」
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
爾後じご、あなたと親善をかためてゆきたいという方針で——そのあかしとして、韓胤を縛りあげ、かくの如く、都へ差立てて来た次第でありまする
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相手がたとえ破落戸ごろつきにもせよ、不義があったと申す以上、はきとした申しわけが立たねばならぬ、おちついて、よく思案したうえ、あかしがあれば立ててみせよ
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かつては汝らの名によってこの世界に正しき律法あることをあかししたこともあったが、今は悪魔の名によってそれを取り消すぞ。あゝこの世界をわしはにくむ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)