すゝ)” の例文
『暑いでせう外は。先刻さつきから眠くなつて/\爲樣しやうのないところだつたの。』と富江は椅子をすゝめる。年下の弟でもあしらふ樣な素振りだ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
一寸ちよつとたまへ」とつて、燐寸まつち瓦斯ガス煖爐だんろいた。瓦斯ガス煖爐だんろへや比例ひれいしたごくちひさいものであつた。坂井さかゐはしかるのち蒲團ふとんすゝめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この篇は世の宗教的経験深き人に示さん為めにはあらずして心洵まことに神を求めて宗教的生活に入らんとする世の多くの友にすゝめんとてなり
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
それは汽車の窓から買取つたもので、其色の赤々としてさも甘さうに熟したやつを、つて丑松にもすゝめ、弁護士にも薦めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
一夕いつせき、松川の誕辰たんしんなりとて奥座敷に予を招き、杯盤はいばんを排し酒肴しゆかうすゝむ、献酬けんしう数回すくわい予は酒といふ大胆者だいたんものに、幾分の力を得て積日せきじつの屈託やゝ散じぬ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
八五郎は首をちゞめてすゝめるのです。無遠慮に突つ込み過ぎて、お勢お茂世もよの父親——大瀧清左衞門に小つぴどくやられたことを思ひ出したのでせう。
正しき嗣子よつぎ等にすゝむるごとく彼その兄弟達に己が最愛の女を薦め、まめやかにこれを愛せと命じ 一一二—一一四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
御覽ごらん其所そこおけばお光は會釋ゑしやく行燈あんどう引寄ひきよせしきりに見るそばで茶を菓子くわしすゝめながら其の横顏よこがほをつく/″\とながめてこゝろおもふやう自分じぶんの方からふくるを待ちおや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
女主人は酒もち來りてすゝめたり。その味はいとめでたかりき。我等は杯を擧げてあるじの健康を祝したり。
すなは新著百種しんちよひやくしゆ出版元しゆつぱんもとです、第二は文学士ぶんがくし高田早苗たかださなゑくんわたし読売新聞よみうりしんぶんすゝめられた、第三は春陽堂しゆんやうどうの主人和田篤太郎わだとくたらうくんわたしの新聞に出した小説をかなら出版しゆつぱんした人、吉岡君よしをかくんが来て
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一つの町——大さう大きな町——で、馬車はとまつた。馬がはづされて、乘客たちは、晝食のためにりた。私は、旅籠屋はたごやへ連れて行かれた。そこで、車掌は、私に食事をすることをすゝめた。
人をすゝむるは先づ其能を示すにかず。これを示して伯の信用を求めよ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かくの如き才を草莱さうらいに埋めて置かないで、下総守になり鎮守府ちんじゆふ将軍になりして其父の後をがせ、朝廷の為に用を為させた方が、才に任じ能を挙ぐる所以ゆゑんの道である、それで或は将門をすゝむる者もあり
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
其所そこまで買物かひものたから、ついでつたんだとかつて、宗助そうすけすゝめるとほり、ちやんだり菓子くわしべたり、ゆつくりくつろいだはなしをしてかへつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
机の上には例の『懴悔録』、読伏せて置いた其本に気がついたと見え、急に丑松は片隅へ押隠すやうにして、白い毛布を座蒲団がはりに出してすゝめた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
又一人の我臥床ふしどの下にうづくまりて、もろ手もて顏を掩へるあり。ロオザの我に一匙の藥水をすゝめつゝ熱は去れりと云ふ時、蹲れる人はしづかに起ちて室を出でんとす。われ。ララよ、暫し待ち給へ。
崇高さがないが——二人の結婚をすゝめることに、強く心を傾けてゐた。
原田に命ぜられて入れは入れたが、主にすゝめるに忍びないで自ら食つたと云ふのである。此事は丹三郎が前晩に母に打明けて置いたので、母もやいばに伏したさうである。亀千代はもう十歳になつてゐた。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
とは言ふものゝ、何気ない様子をつくろつて、自分は座蒲団を敷いて座り、客には白い毛布を四つ畳みにしてすゝめた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
きよにいひけて膳立ぜんだてをさせて、それを小六ころくすゝめさしたまゝ自分じぶん矢張やはとこはなれずにゐた。さうして、平生へいぜいをつとのするやはらかい括枕くゝりまくらつてもらつて、かたいのとへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)