トップ
>
蕩
>
とろ
ふりがな文庫
“
蕩
(
とろ
)” の例文
その神経を
蕩
(
とろ
)
かすような甘い匂いが鼻を衝いて、何としても眠られず、枕許のスタンドを消したり点けたりして輾転反側していたが
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
太陽はもうすっかり傾いていて、かっかと熱しきった大地には、えもいわれぬ
蕩
(
とろ
)
かすような暮色が、ようやく垂れこめようとしていた。
ムツェンスク郡のマクベス夫人
(新字新仮名)
/
ニコライ・セミョーノヴィチ・レスコーフ
(著)
「自惚でない。承った、その様子、
怪
(
け
)
しからん
嬌媚
(
きょうび
)
の
体
(
てい
)
じゃ。さようなことをいたいて、
少
(
わか
)
い方の魂を
蕩
(
とろ
)
かすわ、ふん、ふふん、」
星女郎
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
大駆けで馬を飛ばしたりした後で、恋の長い夜が来ると、互いの愛撫で
魂
(
たまし
)
いも
蕩
(
とろ
)
けるような悦楽をしみじみと味わうことが出来るのだ——
犬舎
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
忽ち香炉の口からは、糸のような煙りが立ち昇り、身も魂も
蕩
(
とろ
)
けるような美妙な匂いが館一杯、隅々にまでも漂って行った。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
▼ もっと見る
それが夜の間に豊かな春を呼吸して、一輪は殆ど満開に、もう一輪、心を
蕩
(
とろ
)
かすような半開の花が露を帯びて匂っている。
牡丹
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
「この美しさを
音無
(
おとなし
)
の太十に見せたくない。この姿を一目でも奴が垣間見たならば、忽ち魂を
蕩
(
とろ
)
かせて、鋭い毒爪を磨くことであらう、部屋へ入らう。」
武者窓日記
(新字旧仮名)
/
牧野信一
(著)
アウガスタスも最初は、友達が自分を見ているのかと思った程に、ラザルスの眼は実に柔かで、温良で、たましいを
蕩
(
とろ
)
かすようにも感じられたのである。
世界怪談名作集:14 ラザルス
(新字新仮名)
/
レオニード・ニコラーエヴィチ・アンドレーエフ
(著)
疲れて
矒乎
(
ぼうつ
)
として、淡い月光と柔かな靄に包まれて、底もなき甘い夜の靜寂の中に
蕩
(
とろ
)
けさうになつた靜子の心をして、譯もなき咄嗟の同情を起さしめた。
鳥影
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
よしそれとても一点の功名心に駆られたる内はまだしもなれど、今はそのかつて利用せむと試みし黄金に
蕩
(
とろ
)
かされて、功名の前途をさへに見失ひしと覚し。
葛のうら葉
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
出
(
いづ
)
るに自動車あり、
居
(
を
)
るに
明眸皓歯
(
めいぼうかうし
)
あり、面白い書籍あり、心を
蕩
(
とろ
)
かす
賭博
(
とばく
)
あり、飽食し、暖衣し、富貴あり、名誉あり、一の他の不満不平あるなくして
ある僧の奇蹟
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
とにかく美人で、
蕩
(
とろ
)
けるような綺麗な声でその上お芝居がうまい。それにドイツ皇太子とのロマンスがある。
お蝶夫人
(新字新仮名)
/
三浦環
(著)
すでに五百余歳を経ている
女怪
(
じょかい
)
だったが、
肌
(
はだ
)
のしなやかさは少しも処女と異なるところがなく、
婀娜
(
あだ
)
たるその姿態は
能
(
よ
)
く
鉄石
(
てっせき
)
の心をも
蕩
(
とろ
)
かすといわれていた。
悟浄出世
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
けれども、妙にこの像面では鼻の円みと調和していて、それが、
蕩
(
とろ
)
け去るような処女の
憧憬
(
しょうけい
)
を現わしていた。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
きび/\した溌剌たる
挙措
(
ものごし
)
の底に、
蕩
(
とろ
)
かすような強い力を
燦
(
きら
)
めかして男の魂をとらえるらしかった。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
愛の神カマ、五種の芳花もて飾った矢を放って人を愛染す。その一なる
瞻蔔迦
(
ちゃむばか
)
の花香
能
(
よ
)
く人心を
蕩
(
とろ
)
かす。故に
節会
(
せちえ
)
をその花下に開き、青年男女をして誦歌相
誘
(
いざな
)
わしむ。
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
総
(
す
)
べての物は依然として閑寂に、空も水も遠い野山も、漂渺たる月の光に
蕩
(
とろ
)
け込んで、その青白い静かさと云ったら、活動写真のフイルムが中途で止まったようである。
母を恋うる記
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
お島はそう言って笑ったが、男がその時々に、さばさばしたような気持で、棄てて来た多くの女などに関する閲歴が、彼女の心を
蕩
(
とろ
)
かすような不思議な力をもっていた。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
と
蕩
(
とろ
)
けるほどな
年増
(
としま
)
の
肌目
(
きめ
)
を、怖ろしいほど見せつけて、これでもかこれでもかと
蠱惑
(
こわく
)
な匂いをむしむしと
醗酵
(
はっこう
)
させながら、精根の深い瞳の中へ年下の男のなめらかな悶えを
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
わが滿身の鮮血は
蕩
(
とろ
)
け散りて氣となり、この天この水と同化し去らんと欲す。われは小兒の如く啼きて、涙は兩頬に垂れたり。市に大なる
白堊
(
しろつち
)
の屋ありて、波はその
礎
(
いしずゑ
)
を打てり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
三枚橋辺にて高貴の内政たる異母姉に面したる時の感慨は女性らしき思想を一変して、あはれわれも女に生れ
出
(
いで
)
たる上は、三千世界の
遊冶郎
(
いうやらう
)
を
蕩
(
とろ
)
かし尽さんとの大勇猛を起さしめたり。
「伽羅枕」及び「新葉末集」
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
友人に誘われて、一度吉原の情緒を覚えてから、私の心は飴のように
蕩
(
とろ
)
けた。
みやこ鳥
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
蕩
(
とろ
)
かす
術
(
すべ
)
を心得おりまして、みめよき婦女子と見ると、いつのまにかこれをたらしこみ、散々に己れが弄んだ上で沢山な手下と連絡をとり、不届至極にも長崎の
異人奴
(
いじんめ
)
に売りおる奴でござります
旗本退屈男:02 第二話 続旗本退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
其の振り
上
(
あ
)
ぐる顏を見れば、
鬚眉
(
すうび
)
の魂を
蕩
(
とろ
)
かして此世の外ならで六尺の體を天地の間に置き所なきまでに狂はせし
傾國
(
けいこく
)
の色、凄き迄に
美
(
うる
)
はしく、何を悲しみてか眼に
湛
(
たゝ
)
ゆる涙の
珠
(
たま
)
、
海棠
(
かいだう
)
の雨も及ばず。
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
どぎつい愛は心
蕩
(
とろ
)
かす失神で私をひどく
緊
(
し
)
めつけた。
ランボオ詩集
(新字旧仮名)
/
ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー
(著)
大方
(
おおかた
)
あれが足の前に
蕩
(
とろ
)
けた様になって俯さるだろう。
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
蕩
(
とろ
)
けたゆたふ
火
(
ひ
)
の
海
(
うみ
)
に、
吾
(
われ
)
や
落葉
(
おちば
)
の
白羊宮
(旧字旧仮名)
/
薄田泣菫
、
薄田淳介
(著)
彳
(
たゝず
)
めば、
暖
(
あたゝか
)
く
水
(
みづ
)
に
抱
(
いだ
)
かれた
心地
(
こゝち
)
がして、
藻
(
も
)
も、
水草
(
みづくさ
)
もとろ/\と
夢
(
ゆめ
)
が
蕩
(
とろ
)
けさうに
裾
(
すそ
)
に
靡
(
なび
)
く。おゝ、
澤山
(
たくさん
)
な
金魚藻
(
きんぎよも
)
だ。
城崎を憶ふ
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
淡い夜霧が田畑の上に動くともなく流れて、
月光
(
つきかげ
)
が柔かに
湿
(
うるほ
)
うてゐる。夏もまだ深からぬ夜の甘さが、草木の魂を
蕩
(
とろ
)
かして、
天地
(
あめつち
)
は限りなき
静寂
(
しづけさ
)
の夢を
罩
(
こ
)
めた。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
何という柔らかな柔らかな
蕩
(
とろ
)
けるような妻の声であったろう。結婚以来未だかつて一度も私は妻の口からこんなにも夢見るような
恍惚
(
うっとり
)
した声を聞いたことはなかった。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
楽屋でパティは、「私は歳をとりすぎたからもうよくはうたえない」とおっしゃいましたが、この「スイート・ホーム」を聴いているうちに心が
蕩
(
とろ
)
けそうになりました。
お蝶夫人
(新字新仮名)
/
三浦環
(著)
で、最後には、これもいつもの癖で、身も魂も
蕩
(
とろ
)
けたようにそのまゝ睡りに落ちるのであるが、やがて
四半時
(
しはんとき
)
も立つと、必ず一度眼をさまして小用を足しに行くのである。
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
美しい女の肌に触れ、美酒にあくがれ、音楽に心を
蕩
(
とろ
)
かしたのも
亦
(
また
)
苦行ではなかつたか。
ある僧の奇蹟
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
こうして魯侯の心を
蕩
(
とろ
)
かし定公と孔子との間を
離間
(
りかん
)
しようとしたのだ。ところで、更に古代支那式なのは、この幼稚な策が、魯国内反孔子派の策動と
相
(
あい
)
俟
(
ま
)
って、余りにも速く効を奏したことである。
弟子
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
大財産もすぐ
蕩
(
とろ
)
けて、10340
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
男の心を
蕩
(
とろ
)
かすに足りる。
三甚内
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
そして、女といふ女には皆好かれたがる。女の前に出ると、処嫌はず気取ツた身振をする、心は忽ち
蕩
(
とろ
)
けるが、それで、煙草の煙の吹き方まで
可成
(
なるべく
)
真面目腐ツてやる。
漂泊
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
肌
(
はだ
)
が
蕩
(
とろ
)
けるのだって言いますが、私は何んだか、水になって、その溶けるのが消えて
行
(
ゆ
)
きそうで涙が出ます、涙だって、悲しいんじゃありません、そうかと言って
嬉
(
うれ
)
しいんでもありません。
春昼後刻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
何処までも恁うして歩く! 此美しい夢の様な
語
(
ことば
)
は華かな加留多の後の、疲れて
※乎
(
ぼうつ
)
として、淡い
月光
(
つきかげ
)
と柔かな
靄
(
もや
)
に包まれて、底もなき甘い夜の
静寂
(
しづけさ
)
の中に
蕩
(
とろ
)
けさうになつた静子の心をして
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
筋も骨もとろとろと
蕩
(
とろ
)
けそうになりました。……
菎蒻本
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
蕩
漢検準1級
部首:⾋
15画
“蕩”を含む語句
放蕩
遊蕩
蕩々
漂蕩
淫蕩
放蕩者
放蕩息子
揺蕩
駘蕩
蕩揺
蕩子
女蕩
蕩尽
遊蕩児
蕩児
放蕩無頼
浩蕩
放蕩三昧
放蕩児
蕩然
...