しとみ)” の例文
ブラ/\と歩いたのだ。が、それは言ひわけになるまい。よし、何よりの申開き、あの窓の外から、しとみの隙間に槍を突込んで、此私を
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
つい四五日前、町内の差配人おおやさんが、前の溝川の橋を渡って、しとみおろした薄暗い店さきへ、顔を出さしったわ。はて、店賃たなちんの御催促。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しとみをおろしすだれをふかく垂れている様子まで、夢の中で見たのと寸分ちがわないのを、不思議だなと思いながら、豊雄は門をはいった。
それは幾時の後だか分らないが、彼がふとしとみのすきから庭先に眼をやった時、愕然として再び起き直って蔀のそばに寄って外を眺めた。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
彼方あなたの洩れるしとみから、天界の音楽は聞えるのだった。そこは、子等之館こらのたちといって、大神宮に仕える可憐な清女たちが住む家だった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九月、十月とたち、早朝などしとみを上げて見出すと、川霧が一めんに立ちこめていて、山々はふもとすら見えないようなこともあった。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
京の町々は眠りの中にあって、家々の雨戸も窓もしとみも、ことごとく閉ざされてせきとしてい、天の河ばかりが屋根に低く、銀の帯を引いていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夜は夜で近辺のお屋敷の戸しとみ蹴破けやぶる物音の、けたたましい叫びと入りまじって聞えて参ることも、室町あたりでさえ珍らしくはございません。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
横佩家の池の面を埋めるほど、珠をいたり、解けたりした蓮の葉は、まばらになって、水の反射がしとみを越して、女部屋まで来るばかりになった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
袈裟けさは、燈台の火を吹き消してしまう。ほどなく、暗の中でかすかにしとみを開く音。それと共にうすい月の光がさす。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕をこの催しに誘い出したのは、写真を道楽にしているしとみ君と云う人であった。いつも身綺麗みぎれいにしていて、衣類や持物に、その時々の流行をっている。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
出窓のしとみをあけに行くと、誰が投げこんだのか、小判で十両、紙に包んだのが、濡れ畳のうえにころがっていた。
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
竹垣の直ぐむかふは隣家の平家造のしとみのさびれた板にしきられて、眼界は極めて狭い不等辺三角形の隙から、遠い空中がのぞかれる丈である。空には何の色もない。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
そこは、母屋から渡り廊下を架けた、別棟の建物で、床が高く、広縁には勾欄こうらんがまわしてあり、妻戸やしとみなどもみえるし、ひさしには青銅の燈籠とうろうが吊ってあった。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこは門も家も大きく、しとみおろしすだれ垂れこめた住居すまいであった。真女児が出て来て、酒や菓子を出してもてなしてくれたので、うれしき酔ごこちに歓会を共にした。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
団十郎のふんした高時の頭は円く、薄玉子色の衣裳いしょうには、黒と白とのうろこの模様が、熨斗目のしめのように附いていました。立派な御殿のひさししとみを下した前に坐っています。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それに葦簀よしずこもの類を縛りつけてそれで取り囲むのであるが、江畑君のお宅のような都会風の座敷廻りなどでは、前もって板で作ったしとみ風のものを設備して、それを外側に立ててあった。
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
やねおほいにし、其家にしとみし、よさゝうにすれば、日中に斗だのばいだのといふ星を見て、大なる光は遮られ、小さなる光はあらはれ、然るべき人は世にかくれ、つまらぬ者は時めき、そして
震は亨る (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
おなじ冬おなじしとみの日のあたり白須賀はよし古りし白須賀
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なかばおろしたるしとみの上よりのぞけば四
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
よし、何よりの申開き、あの窓の外から、しとみの隙間に槍を突込んで、この私を刺せるものか、親分が自分で試してみてはどうだ。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
しかし沙門しゃもんの人だけに、武士の列には並ばず、本堂の御厨子みずしの前に、しとみの格子戸やたきぎを積んで、仏者らしい火定かじょうのかたちをとって死んだ。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの真女児が家に尋ねいきて見れば、門も家もいと大きに造りなし、六三しとみおろし六四すだれれこめて、ゆかしげに住みなしたり。
だって、緋だの、紫だの、暗いうちに、あられに交って——それだといなびかりがしているようだもの……そのしとみをこんな時に開けると、そりゃ可恐こわいぜ。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風がひどく吹いていた日だったので、先刻から南面のしとみをすっかり下ろさせてあったので、それが丁度いい口実になった。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
夜は夜で近辺のお屋敷の戸しとみ蹴破けやぶる物音の、けたたましい叫びと入りまじつて聞えて参ることも、室町あたりでさへ珍らしくはございません。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
寝しずまった町はひそやかで、両側の家々はとぼそしとみも、門も窓もとざしてしまって、火影ほかげ一筋洩らしていなかった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まだうすい朝日に、九輪くりんがまばゆく光っている。禅智内供は、しとみを上げた縁に立って、深く息をすいこんだ。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しとみのあいまに、はぎ野が庭に出ようとし、裾をからげ、髪を胸前に垂らしながら立っている姿を見出した。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
出世間しゅっせけんの欲もださず、いつかまた葛木や光麻呂に逢える日のあることを信じ、泰文の遠縁にあたる白女しらめという側女にょうぼうを相手に一日中、しとみもあげずに写経ばかりして暮していた。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
顔を見れば、しとみ君であった。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのしとみ、はひり戸
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
だつて、だの、むらさきだの、くらうちに、あられまじつて——それだといなびかりがしてるやうだもの……しとみをこんなときけると、そりや可恐こはいぜ。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
山頂だけに、小雨をもった烈風がしとみひさしを吹きなぐり、仮宮にしろ、これが天皇の御寝ぎょしある皇居かと怪しまれるほどだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それね、此庇から、離屋の欄間は手が屆くだらう、鼻の先のしとみを開けさへすれば、その中に居る内儀お駒の樣子が手に取るやうに見えるわけだ」
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
真女児の家へ行ってみると、門も家もたいそう大きな構えで、しとみをおろしすだれをふかく垂れているさまなど、いかにも奥ゆかしい生活をしている様子だった。
そこへ、夕飯の時に一杯やつた、酒の酔が手伝つてゐる。枕元のしとみ一つ隔てた向うは、霜の冴えた広庭だが、それも、かう陶然としてゐれば、少しも苦にならない。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
唯今ただいまはもう就寝にございますゆえ、誰もしとみのそばには出てはおられませぬ。いまのうちに早く。」
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
軒先のきさきをめぐって火のへびがのたうち廻ると見るひまに、ごうと音をたててしとみが五六間ばかりも一ときに吹き上げられ、御殿の中からは猛火みょうかの大柱が横ざまに吐き出されます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
出世間しゅっせけんの欲もださず、いつかまた葛木や光麻呂に逢える日のあることを信じて、花世と泰文の遠縁にあたる白女しらめという側女にょうぼうを相手に、しとみもあげずに、一日中、写経ばかりしていた。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
人の往来ゆききも稀であった。右近丸は歩いて行く。夕陽が明るく射している。家々のしとみが華やかに輝やき、その代り屋内が薄暗く見え、その屋内にいる人が、これも薄暗くかされて見える。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのしとみ、はひり戸
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
年少としわかくて屈竟くつきやうきやくは、身震みぶるひして、すつくとつて、内中うちぢうめるのもかないで、タン、ド、ドン!との、其處そこしとみけた。——
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
終りに、しとみを下ろして、この清水寺の一つの灯も消え果てると、もう花頂山から東山一帯には、風の音を聞くだけだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それね、この庇から、離屋はなれ欄間らんまは手が届くだろう、鼻の先のしとみを開けさえすれば、その中にいる内儀お駒の様子が手に取るように見えるわけだ」
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
決して辞退できるものではない、彼はしとみの破れから、もうもうとこめる秋夜の月を眺めやった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
陶然亭は天井を竹にて組み、窓を緑紗にて張りたる上、しとみめきたる卍字まんじの障子を上げたる趣、簡素にして愛すべし。名物の精進料理を食いおれば、鳥声しきりに天上より来る。
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
軒先のきさきをめぐつて火のへびがのたうち廻ると見るひまに、ごうと音をたててしとみが五六間ばかりも一ときに吹き上げられ、御殿の中からは猛火みょうかの大柱が横ざまに吐き出されます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
そう、小次郎には遥かの方角から、鶏の声がかすかに聞こえ、近くの小路でしとみを上げるらしい、きしり音が聞こえたばかりであって、そんな嗄れた女の声など、全然聞こえては来ないのであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのしとみ、はひり戸
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)