あつ)” の例文
「だからさ、今年もすでに、心がけて、すでに十万貫に価する珍器重宝ちょうほうは、この北京ほっけいの古都を探って、ひそかに庫にあつめてあるわさ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ラシイヌは静かに歩きながらも、左右に鋭く眼を配って、全身の注意を耳にあつめ、ある唄声を聞こうとした。しかし唄声は聞こえない。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それらは貧しい中から苦心してあつめたもので、兄から貰った小使で買った其角きかくの五元集、支考の俳諧十論などの古い和本も入れてある。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は一刻も早くこの席を脱したかった。彼は其処そこあつまっている男性に対しても、激しい憎悪ぞうおと反感とを感ぜずにはいられなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
左の二の腕に桃の実の小さい刺青をしていた。骨董道楽で、家には祖父のあつめたものがかなりあったが、震災のときに焼失した。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
万葉巻十六は、叙事詩のくづれと見えるものを多くあつめて居る。其中、殊に異風なのは、「乞食者詠」とある二首の長歌である。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
誰れか大いにこれをあつめ楽むという人が出そうなものだがと実はこの東洋に著名な花木のためにひそかに希望して止まないのです。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
うけたまわれば、あなたはいろいろの珍しい物をおあつめになっているそうでございますから、これを献上したいと存じて持参いたしました。
いつの間にやらいくつかの作品が手元にあつまり、それがまた店や居間に掲げられ、唯一の装飾となって、落着きのない騒がしい生活の中で
家は烏川の上流にある室田の旧家で、その家から山の薬草をあつめて出す取引先の高崎の薬種問屋に青年は預けられていました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
留学中に余があつめたるノートは蠅頭ようとうの細字にて五、六寸の高さに達したり。余はこのノートを唯一の財産として帰朝したり。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その新道端に店を開き、所有地を住宅のために貸してそれで生活をして行こうと云う人達は、新道へ砂利を敷くための寄附金をあつめに奔走した。
都会地図の膨脹 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
または彼が生前愛好した家具調度の類にいたるまでを一堂にあつめまして、研究者の参考に供するということであります。
イプセン百年祭講演 (新字新仮名) / 久保栄(著)
両者とも数多あまた美術品はあつめてみても、美の魂とかかわりなくつき合ってきた者というものは、真にみじめなもので、御殿山氏といい、青山翁といい
現代茶人批判 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
桃太郎猿蟹合戦さるかにかっせんたぐいも珍らしからざるべく、また『韓非子かんぴし』『荘子そうじ』などにでたるも珍らしからざるべければ、日本支那のはしばらさしおきて印度の古話をあつつづ
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
好きであつめたってものじゃありません。これは水をやらなくてはいけず、やり過ぎていけず、なかなか面倒なものですよ。枯らしちゃって文句を云われますがね。
私は隠居ではない (新字新仮名) / 吉田茂(著)
教育博物館の方はなかなか整頓せいとんしていて、植物などはいろいろな珍しいものがあつめてあったが、或る方面は草茫々ぼうぼうとして樹木しげり、蚊の多いことは無類で、全く
私もこちらで買って掛けかえました——何かあつめてる物? そう、行ったところでさじをあつめています。
もし阿園が望まんには彼はなお幾個の遺物をもあつむべかりし、されど今は寡婦の満足ようやくに薄らぎ、遺物という詞も夫という詞も、早やその耳に幻力を失いたり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
また柳田君の『山島民譚集』にあつめた、河童かっぱが接骨方を伝えた諸説の原話らしい、『幽明録』の河伯女かはくのむすめが夫とせし人に薬方三巻を授けた話などを取りぜた作と見ゆ。
其処そこにはボチセリイの作も多くあつたが、ミケランゼロの彫像には巨大なダ※ツドを初め多数に傑作をあつめて居た。予は此処ここですつかり彫刻が好きになつて仕舞しまつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
揚子江を逆航ぎゃっこうして奇勝名勝を探り得て帰り、あつむるところの山水百余景を五巻に表装して献上した。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
吾人は屡々諸教会の教師より其の講題をあつめて日本の講壇は重もに何を説くかを観察せんと欲したりき。吾人未だ之を為すに暇あらざりしと雖も、其事大抵察すべきのみ。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
族長制度の真相は蛛網ちゆまうなり。その中心に於て、その制度に適する、すべての精神をあつむるなり。
日本の文学はさておき世界中の美文をあつめてもこの上に出ずる句はありますまい。これこそ実に世界的の美文で天下万世ばんせいに誇るべきものです。人の心は誰もかくこそありたけれ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
然るに時代の進むに従って、書物の数は殖える一方で、ことに印刷術の発明以後の殖え方が著しく目立って来た。そこで、如何に本好きでも、読み切れなくなり、あつめ切れなくなる。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
是等に関する英書は随分あつめたもので、殆ど十何年間、三十歳を越すまで研究した。呉博士くれはくしと往復したのも、参考書類を読破しようという熱心から独逸語を独修したのも、此時だ。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
もう救荒本草きうくわうほんざう類の圖書をあつめる便宜もなくなり、專ら親試しんしに頼るのみである。そして既に五十幾種かの自然生の葉莖を食べ試みた。少し煩瑣はんさわたるが、その名を、思ひついた順序に書き附けて見よう。
すかんぽ (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「これが昨夜中にあつまった録音です」
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こういうのをあつめるといいな。
台湾の民芸について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかも、彼の眼にとまったのは、その一槍だけだったが、事実はうしろからも一本の槍がいちどに彼の身ひとつへあつまっていたのである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、あらゆる手段で、朝野の名流を、その披露ひろうの式場にあつめようとした。彼は、あらゆる縁故を辿たどって、貴族顕官の列席を、頼み廻った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ほかのものはよほど前から材料をあつめたり、ノートをめたりして、余所目よそめにもいそがしそうに見えるのに、私だけはまだ何にも手を着けずにいた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あぜ玉蜀黍とうもろこしの一列で小さく仕切られている畑地畑地からは甘い糖性のにおいがして、前菜の卓のように蔬菜そさいを盛りあつめている。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
近代文明——欧亜の粋と、欧亜の罪悪とを一緒にあつめた、魔都の姿の大写であると、そういうことも出来ましょう。
一番愚にもつかぬ物を持っているのは大町氏だ。ここまで低級になると、もはや論外で滑稽に終る。これをあつめるのは銀座の夜店では集まらない場末の屑屋だ。
唯啄木のことは、自然主義の唱えた「平凡」に注意をあつめた点にある。彼は平凡として見逃され勝ちの心の微動を捉えて、抒情詩の上に一領域をひらいたのであった。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
夫の好きな新しい野菜を料理して、帰りを待っていたお雪は、家のものをあつめて夕飯にしようとした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よしは黒奴くろんぼの小娘のように、すっかり土にまみれながら、父親が土の中から掘り出した木の根を、一本ずつ運んで行って、冬籠りの薪をあつめる役を、自ら引き受けていた。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
はなしはもうこれで沢山であるのに、まだ続くから罪が深い。廷珸が前に定窯の鼎類数種をあつめた中に、なお唐氏旧蔵の定鼎と号して大名物を以て人をあざむくべきものがあった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
柳田君の『山島民譚集』に、河童の類語を夥しくあつめたが、水蛇については一言もれ居ぬ。
このすぺいん扇はなかなか高価なもので、女はまるで宝石でも溜めるようにこれをたくさんあつめて威張ってるくらいだが、主材料の竹の関係上、その大部分は日本出来である。
その地域を極て広大にしこれに我邦に在る全部の桜の種類をあつうる事である。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
家庭の経済は原料のやすき品物をあつめて味き料理を作るにあり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
酒井左衛門尉さえもんのじょう、石川伯耆ほうきなどの家老たちが、家中の人々が聞き知ったところをあつめてのはなしによると、惟任日向守これとうひゅうがのかみ光秀の帰国については
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暗い燈火あかりの下にあつまっている瑠璃子と女中達を、もっと脅かすように、風は空を狂い廻り、波はしきりなしに岸をんで殺到した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
真理まことの性質、美しい性質をあつめ、世の中は、天地の貯えておるあらゆる宝を取出して飾り、みんな無上の幸福や、文化の頂上を味わうというのです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
が、ここに一番困ったことには、家中一般の同情が、密夫密婦にあつまって密夫されたお前に集まらなかったことだ。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
カーライルの歿後は有志家の発起ほっきで彼の生前使用したる器物調度図書典籍をあつめてこれを各室に按排あんばい好事こうずのものにはいつでも縦覧じゅうらんせしむる便宜べんぎさえはかられた。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
延珸が前に定窯の鼎類数種をあつめた中に、猶ほ唐氏旧蔵の定鼎と号して大名物を以て人を欺くべきものが有つた。延珸は杭州に逃げたところ、当時潞王が杭州に寓して居られた。
骨董 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)