荒物屋あらものや)” の例文
僕はやむを得ず荒物屋あらものやの前に水をいてゐたおかみさんに田舎ゐなか者らしい質問をした。それから花柳病くわりうびやうの医院の前をやつと又船橋屋へ辿たどり着いた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もはや、季節きせつぎてしまったので、荒物屋あらものやや、絵双紙屋えぞうしやのようなところをいてあるいてみたけれど、うちわをならべているうちはありませんでした。
遠方の母 (新字新仮名) / 小川未明(著)
荒物屋あらものや軒下のきした薄暗うすくらい処に、斑犬ぶちいぬが一頭、うしろむきに、長く伸びて寝て居たばかり、事なく着いたのは由井ヶ浜である。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
倹約けんやくするためにわたしたちは荒物屋あらものやで買ったゆでたまごと、パンを食べた。でもマチアはうまいものはたいへんこのんでいた。
主翁は合点がてんがいかなかった。主翁は眼をはっきり開けて四辺あたりを見まわした。枕頭まくらもとには心安い隣家の下駄屋げたやの主翁や、荒物屋あらものやの主翁などが二三人坐っていた。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
素肌にじかに着たピンクのワンピースの短いすそから、見事に白く、すらりとしたすねをのぞかして、荒物屋あらものやの二階借りの六畳をひとまたぎに梯子はしご段の方へ行きかけた。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
母親は買い物をする町の店に熟していないので、そうした夜の散歩には、荻生さんがここが乾物屋、ここが荒物屋あらものや、呉服屋ではこの家が一番かたいなどと教えてくれた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そこで、おおかみは、荒物屋あらものやの店へ出かけて、大きなはくぼくを一本買って来て、それをたべて、声をよくしました。それからまたもどってきて、戸をたたいて、大きな声で
荒物屋あらものや味噌みそ醤油しょうゆさけを売る店、米屋などが、一軒ずつ細々と暮しを立てているだけだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
林太郎はある荒物屋あらものや店先みせさきへ立ち、学校でならったていねいな言葉ことばで聞きました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
荒物屋あらものやを兼ねた居酒屋いざかやらしい一軒から食物の香と男女のふざけ返った濁声だみごえがもれるほかには、真直まっすぐな家並は廃村のように寒さの前にちぢこまって、電信柱だけが、けうというなりを立てていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ツイこの御近所の御徒町おかちまち四丁目に戸川の親類が荒物屋あらものやをしていますが、ひょっとすると、其処そこへ貰われて行ってるかも知れません。私が手紙を附けて上げますから、誰かお弟子を使いに上げて下さい
半日に一枚の浴衣ゆかたをしたてあげる内職をしたり、あるおりは荒物屋あらものやの店を出すとて、自ら買出しの荷物を背負せおい、あるよい吉原よしわら引手茶屋ひきてぢゃやに手伝いにたのまれて、台所で御酒のおかんをしていたり
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
荒物屋あらものやもやったことがあるしナア。」
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
荒物屋あらものや軒下のきした薄暗うすくらところに、斑犬ぶちいぬが一とう、うしろむきに、ながびてたばかり、ことなくいたのは由井ゆゐはまである。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
荒物屋あらものやまえに、わかいおばさんが、あかちゃんをいていました。なんとおもったかまことさんは、そのそばへいって
僕たちは愛するけれど (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひとつでない、ふたつでもない。三頭みつ四頭よつ一齊いつせいてるのは、ちやう前途ゆくて濱際はまぎはに、また人家じんかが七八けん浴場よくぢやう荒物屋あらものやなど一廓ひとくるわになつてそのあたり。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まちといっても家数いえかずすくないちいさなさびしいまちで、魚問屋さかなどいやや、呉服屋ごふくやや、荒物屋あらものやや、いろんな商店しょうてんがありましたが、いちばん魚問屋さかなどいやおおくあって、町全体まちぜんたい魚臭さかなくさ空気くうきつつまれていました。
けしの圃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
頭を洗うし、久しぶりで、ちと心持こころもちさわやかになって、ふらりと出ると、田舎いなかには荒物屋あらものやが多いでございます、紙、煙草たばこ蚊遣香かやりこう、勝手道具、何んでも屋と言った店で。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青木あおきうちは、荒物屋あらものやで、父親ちちおやはとうになくなって、母親ははおや二人ふたりでさびしくらしているのです。そのうちのことをよくっている、正吉しょうきちや、小田おだには、むしろ、青木あおき立場たちば同情どうじょうされたのであります。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
三頭みつ四頭よつも一斉に吠え立てるのは、ちょう前途ゆくて浜際はまぎわに、また人家が七八軒、浴場、荒物屋あらものやなど一廓ひとくるわになってるそのあたり。彼処あすこ通抜とおりぬけねばならないと思うと、今度は寒気さむけがした。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)