縹緻きりょう)” の例文
いつも重荷を担いでいる、田舎の百姓の女達が、早くその美を失うように、彼女も重荷を担いだため、俄然縹緻きりょうを落としてしまった。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ことし十九になる惚々するような縹緻きりょうよしで、さすが血すじだけあって、こだわりのない、さっぱりとした、いい気だてを持っている。
若いし——縹緻きりょうは優れているし——それに世間れていないので、零落おちぶれてもまだ多分に、五百石取の若奥様だった香いがほのかである。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
政はそっと小女の手にさわった、「おめえもそういうことに気がつくようになったんだな、縹緻きりょうもぐっとあがったし、気がもめるぜ」
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もしこれが聖林ハリウッドあたりの女優だと言っても決して恥ずかしくないだけの縹緻きりょうをしていたが、写真ではもちろん皮膚の色もわからず
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その時、白雲も胸を打たれて、この年で、この縹緻きりょうで、この病と、美しき、若き狂女のために泣かされたことを思い出しました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それなかには橘姫たちばなひめよりもはるかに家柄いえがらたかいおかたもあり、また縹緻きりょう自慢じまんの、それはそれは艶麗あでやか美女びじょないのではないのでした。
俗にいう美人型の面長おもながな顔で、品格といい縹緻きりょうといい、旗下の奥さんとして恥ずかしからぬ相貌そうぼうの方で、なかなか立派な婦人でありました。
あれほどの縹緻きりょうを持ちながら、茶屋女にも町芸妓まちげいしゃにもならず、進んで、両国の見世物小屋へ、ここから通っているのだと教えてくれました。
それは新夫人の、あの縹緻きりょうはばかる……麻地野、鹿の子は独り合点か、しぐれといえば、五月頃。さて幾代餅いくよもちはどこにあろう。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大柄のおとなしい縹緻きりょうよしで、受け口のつつましい村上さんに意地わるをする武さんという娘は、その頃珍らしい贅沢な洋服姿の登校であった。
なつかしい仲間 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
併しだ、あんたのような優れた縹緻きりょうの御婦人が何もわざわざ労働者の中へ這入はいっていくにもあたるまい。あんた達は、空想化した奴等をみとるよ。
罠を跳び越える女 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
その女がうつむいているので縹緻きりょうのほどはわからない、只、はばかりに行こうとするのを邪魔立てしている眼の位置なのだ。
木綿縞の古布子ふるぬのこ垢づいて、髪は打かぶって居るが、うみ父母ふたおや縹緻きりょうも思われて、名に背かず磨かずも光るほどの美しさ。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
先妻に縹緻きりょうよしの娘を生ませたが、奥女中あがりの後妻が継児ままこいじめをするので、早くから祖母の手にひきとられ、年下のあたしの父の許婚いいなずけとなった。
女に女が対手あいてになる時には、無意識に自分を対手に比較するもので、まづ縹緻きりょうの好し悪し愛嬌の有無、著物きものの品質を調べて、まだ得心がいかない時には
散歩 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
わがまま勝手かってそだてられてたおこのは、たとい役者やくしゃ女房にょうぼうには不向ふむきにしろ、ひんなら縹緻きりょうなら、ひとにはけはらないとの、かた己惚うぬぼれがあったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ヘエ。……この小女あまっちょが這入って来た時に、この界隈の者でない事は一眼でわかります。第一これ位の縹緻きりょうの娘は直方には居りませんようで……ヘヘ。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
酒もタチが善くない方で、道楽も可成りだそうな。細君は二つ下の二十六で大柄な女で、縹緻きりょうは中位だが、よく働くたちだ。お針も出来るし、繰廻しもよくやって居た。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
さすれば人一倍色好みのきゃつのことじゃ、兄の口からこのようなこと言うのもおかしいが、江戸でもそう沢山はないそちの縹緻きりょうゆえ、きゃつがほっておく筈はない。
恋愛の実境はそんな言ではつくし得ない、すべて少年は縹緻きりょうを重んじ中年は意気をたっとぶ、その半老以後に及んではその事疎にして情うたさかんに、日暮れ道遠しの事多し
縹緻きりょうのすぐれた、愛嬌あいきょうのあるその女のうわさが、いつまでもお千代婆さんなどの話の種子たねに残っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
世間で、女子にもまさるとか、たたえてくれる姿、形に産みつけて下されたも御両親——その御両親の御無念を、おはらし申すに、縹緻きりょうを使ったとて、何が悪かろう。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
人間は猫の縹緻きりょうの種々相を見わけるだけの神経を持たないが、猫はちゃんと持っているのである。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
美しい歯並はなみを隠している様な、非常に美しい人であるのに比べて、手を引かれている龍ちゃんの方は、両眼とも綴じつけられた様な盲目だし、その上ひどく縹緻きりょうが悪いのだ。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
剥げかけた白粉と生地の青みがかった皮膚とが斑になり、頸部から寝巻の襟のはだけた、やせた胸廓が黒く脂じみているのが不健康らしくはあったが、いい縹緻きりょうには相違ない。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
彼女達は作業しないし、みんな縹緻きりょうよしで、美しくしている方が『昇給率』がよかった。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
家内にせんには、ちと、ま心たらわず、愛人とせんには縹緻きりょうわるく、妻妾さいしょうとなさんとすれば、もの腰粗雑にして鴉声あせいなり。ああ、不足なり。不足なり。月よ。汝、天地の美人よ。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あんな縹緻きりょうのいい娘を持ってサ、おれならお絹物かいこぐるみの左団扇ひだりうちわ、なア、気楽に世を渡る算段をするのに、なんぼ男がよくっても、ああして働きのねえ若造にお艶坊をあずけて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
忌々しい医者たちの授けた方法は、目に見えて效能を現わしはじめ、妻は体も肥えて来れば、縹緻きりょうもよくなって、さながら晩夏に見られる名残の美とでもいうような趣を呈したのです。
そして、縹緻きりょうよしの踊子は、たえまなく富裕な旋律のなかにいた。
彼女が島田に結っているところを見るとまだ人妻でないことはすぐ知れることであったが、その縹緻きりょうと、年輩とをもっていまだに独身でいるのはなぜかという怪訝けげんも同時にだれにも起こるはずである。
村いっとうの縹緻きりょうよしで、評判の娘だっただ。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
おせいちゃんは二十歳くらいで、躯も痩せているし、ほそおもての、かなり縹緻きりょうよしであり、私たちは近所づきあいの仲であった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鯨の背中には、先刻のべたような服装の縹緻きりょうよしの女口上つかいが桃割にさした簪のビラビラを振りながら、いい声で鯨の口上。
「それはもう、あの縹緻きりょうですから、毎日たいへんな騒ぎで、裏口へ来てウロウロして居るのが、いつでも二三人はあります」
使うとお前さんの縹緻きりょうが、——綺麗すぎるほど綺麗な小次郎が、一度に田舎者になってしまって、どうにも嬉しくないのだよ
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
櫺子れんじの下へ涼み台を持ち出して川長の一人娘、お米の待つのは誰であろうか。恋とすれば、よすぎる縹緻きりょうが心にくくもある。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本当に図々しい、不人情ならばとにかく、あの若さで、あの縹緻きりょうだから、相当に納まっているはずなのに、それができない。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
母親ははたいへん縹緻きりょうよしなので、むすめもそれにひなまれなる美人びじんまた才気さいきもはじけてり、婦女おんなみち一ととおりは申分もうしぶんなく仕込しこまれてりました。
縹緻きりょうがよくって孝行こうこうで、そのうえ愛想あいそうならとりなしなら、どなたのにも笠森かさもり一、おなかいためたむすめめるわけじゃないが、あたしゃどんなにはなたかいか。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「可哀相なのはお高さんだなあ。あんな縹緻きりょうよしがさ。どうだ、時さん、ひとつ、あたってみないかい」
凍雲 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
三味線も踊りも、歌も駄目で、芸妓としては温柔おとなし過ぎる事、縹緻きりょうは十人並のポッチャリした方で、二十五だというのにお酌みたいに初々しい内気な女であった。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
御領内残らずの女共の中から縹緻きりょうよしばかりをえりすぐって、次から次へと目星をつけているゆえ、領民共とて、人の子じゃ、腹立てるのは当り前でおじゃりますわい。
いかばかりであったろうぞ! 三斎の意をうけた同類が、どのように、母御をおびやかし、おどかしつづけたかも、思うてもあまりがある——とうとう、長崎一の縹緻きりょうよし
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
芸人を妻や妾にするとか、女髪結の娘でも縹緻きりょうがよければ一足飛びに奥さんにするとかいう風であったから、こういう一体の風習の中へ綾子刀自のことも一緒に巻き込まれて
縹緻きりょうもよいみほ子、勤め先での評判もいいみほ子を眺めるおむらの眼には、その頃よく新聞などにさわがれたデパートの美人売子がどこそこの次男に見込まれたというような
道づれ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
何とやら憂鬱ゆううつで、しょっちゅう一途いちずに物を思いつづけている様な、しんねりむっつりとした、それで、縹緻きりょうはと申せば、今いう透き通る様な美男子なのでございますよ、それがもう
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「それじゃ、清葉さんばかり縹緻きりょうがよくって、貴方は、だらしが無いんだわね。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お増の田舎では、縹緻きりょうのよい女は、ほとんど誰でもすることになっている茶屋奉公に、お増もやられた。百姓家に育ったお増は、それまで子守児こもりこなどをして、苦労の多い日を暮して来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)