絨氈じゅうたん)” の例文
立派な革椅子に、チーク材の卓子など、すこぶる上等な家具が並んでいて、床をおお絨氈じゅうたんは地が緋色ひいろで、黒い線で模様がついていた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
義歯いればの壊れたのがダラリと唇から流れ出した。そいつを一本背負いに支那絨氈じゅうたんの上にタタキ付けると同時に、轟然とピストルが鳴った。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
下駄げたの音がからころと響いて聞えた。橋の下にはねずみ色の絨氈じゅうたんを敷いたような隅田川の水が、夢の世界を流れている河のように流れていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その身が、あろう事かあるまい事か、人里離れた山ン中で、赤い絨氈じゅうたんをひっしょってスットコ踊りをしているのはなんのためだ。
こう言いながらも彼は今までずっと、あの長広舌の初めからしまいまで、絨氈じゅうたんの上のある一点を選んで、じっとそこばかりみつめていた。
その鈍い動きが動くにつれて立つる音から、古びた綿埃わたぼこりの渦のような、また絨氈じゅうたん臭い、そして高まる神秘性の何かの綜合音が感じられた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
それは畳ならば六十畳ほどの広さを持った居間に、畳を敷いてあるのでなく、板張りにして絨氈じゅうたんのようなものが敷き詰められてありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼が顔を洗う前足の横側には、毛脚の短い絨氈じゅうたんのような毛が密生していて、なるほど人間の化粧道具にもなりそうなのである。
愛撫 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
だが、その前に、我々は外国製の安っぽくてギラギラした赤色の絨氈じゅうたんによって、その内部を胆をつぶす程ひどくされた、美しい小亭へ来た。
青い絨氈じゅうたんの上を鏡のない人間が歪んだシルクハット、胸は悲しいとむらいだ。心行くまで私はお前を熱愛したのだ。けれど感覚の最期がいたましい。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
やがて立ち上がって、一人一人に挨拶あいさつをするうちに、自分は控所にある洋卓テーブルやら、絨氈じゅうたんやら、白木しらき格天井ごうてんじょうやらを眺めた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
フト夫人は椅子を立つたが、前に挟んだ伊達巻だてまきの端をキウとめた。絨氈じゅうたんを運ぶ上靴は、雪に南天なんてんの赤きを行く……
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
絨氈じゅうたんが敷きつめられて昼間でも電灯のついている応接間から子供の騒ぐ声が聞えて来ました。その部屋の入口で女中を連れた一人の婦人に会いました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
また二、三の蛇、互いに纏うた処を編み物にして戸口に掲ぐる。ペルシアで絨氈じゅうたんの紋の条を、なるべく込み入って相からんだ画にするも、邪視をふせぐためだ
新田にったはまず三人の客を病院の応接室へ案内した。そこはこの種の建物には珍しく、窓掛、絨氈じゅうたん、ピアノ、油絵などで、甚しい不調和もなく装飾されていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ランプの光はくまなく室のすみずみまでも照らして、火桶ひおけの炭火は緑の絨氈じゅうたんの上に紫がかりしくれないほのおを吐きぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その床には青と黄との、浮模様絨氈じゅうたんが敷き詰められてあった。昼のように煌々と明るいのは、ギヤマン細工の花ランプが、天井から下っているからであった。
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
厚い絨氈じゅうたんの上を静かに誰か歩いているらしいのです。絹のすれ合う音がしました。私は羽根蒲団を胸の上までずらせて、息を凝らして様子を覗っていました。
機密の魅惑 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
大伽藍のように壮麗な側壁、天空をした高い天井、輝き渡った床と円柱、アフガンの厚ぼったい緋の絨氈じゅうたん
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それはまるで美しい絨氈じゅうたんの飽くことのない深い天鵞絨ビロードを眺めているような、それでいて、絶えず自由に柔らかい光沢をもって、しきりに、巫山戯ふざけちらしていた。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
あお天鵞絨ビロードの海となり、瑠璃色るりいろ絨氈じゅうたんとなり、荒くれた自然の中の姫君なる亜麻の畑はやがて小紋こもんのようなをその繊細な茎の先きに結んで美しい狐色に変った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
妾はもう少しで、絨氈じゅうたんの上へよろめいて倒れるところだった。まだ昨日の手紙だ。そして封筒の上書うわがきには、ちゃんと「小石川区水道端一丁目十二番地、並木五郎様」
壁間かべには定めし、有名な画家の油絵がかかり、天井からは、偉大な宝石の様な装飾電燈シャンデリヤが、さがっているに相違ない。床には、高価な絨氈じゅうたんが、敷きつめてあるだろう。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
切子硝子がかすかな音を立てて、絨氈じゅうたんの敷物の上に砕け散った。大事そうに捧げていた彼女の両手がだらりと下った。彼女は二十年もそうしていた肩の凝りを感じた。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
ソレでホテルに案内されていって見ると、絨氈じゅうたん敷詰しきつめてあるその絨氈はどんな物かと云うと、ず日本で云えば余程の贅沢者ぜいたくもの一寸いっすん四方幾干いくらいって金を出して買うて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
藤棚の藤の花もゲッソリと散り細ッて、ちんの四角い地上だけが、紫白の絨氈じゅうたんを敷きのべたようです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪のを吹いて、遠くはこんもりと黒く茂った森、柔かい緑の絨氈じゅうたんねらせる水成岩の丘陵、幾筋かの厚襟あつえりをかき合せたカスケード高原の上に、裳裾もすそを引くこと長く
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
現場の寝台附近にあった絨氈じゅうたんが、直径一寸ばかりボロボロになった穴が開いていたのを認めた。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
絨氈じゅうたんの上に、長襦袢の裾が、垂れていた。クッションの中へ、埋まって、煙草を喫いながら
ロボットとベッドの重量 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
左右の壁には立派な美しい絨氈じゅうたんが掛っており、奥の方には枠入わくいりの見事な絵が四個掛っていた。
フカフカとした支那絨氈じゅうたんも、ペルシャ物らしい壁掛も、ルノアール張の絵も、一流行歌作曲者の寝室と思えぬまでに、整った贅沢ぜいたくさと、かなり良い趣味を物語っているのです。
青色の絨氈じゅうたんをしいたその部屋に卓をえ、椅子にふかぶかと腰かけて花田中尉は酒をのんでいた。卓をへだてて女がすわっていた。そして酒瓶を左手で持ち上げた処らしかった。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
床には歩いても音のせぬ厚い緑色の絨氈じゅうたんを敷きつめ、部屋全体の装飾が濃い黒っぽい緑色に統一されていて、北に向いた二つの窓の窓掛カーテンさえ同じ色なので、昼でも部屋の中が薄暗く
凍るアラベスク (新字新仮名) / 妹尾アキ夫(著)
六畳間にとおされて、見ると、部屋の床の間寄りの隅にいつ買いいれたのか鼠いろの天鵞絨ビロードが張られた古ものらしいソファがあり、しかも畳のうえには淡緑色の絨氈じゅうたんが敷かれていた。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
かなりきちんとしていて、造作ぞうさくなどもよく出来てはいましたが、家にあるものは何もかもぶざまでした。椅子いすも、絨氈じゅうたんの模様も、真四角で、柱時計まできびしい顔つきをしていました。
花模様の青い絨氈じゅうたんの敷かれた床の上には、桃花心木マホガニイ卓子テーブルを囲んで、水色の蒲団クションの取り附けてある腕椅子アームチェイアが五六脚置かれている。壁に添うてよこたわっている安楽椅子いす蒲団クションも水色だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
やがて少し体が休まると、手を洗って、カラアをつけ変えて、柔らかい絨氈じゅうたんの上を伝って、食堂に出て行く。Z夫人はいつのまにかきれいに身仕度をして、活き活きと輝いた顔を見せる。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そして猩々緋しょうじょうひ絨氈じゅうたんが、天井からの電気に照り映えてこの深夜、最早召使たちもスッカリ眠り就いてしまったと見えて、邸中は闃寂閑ひっそりとして針の落ちたほどの物音とてもないのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
床に敷いてある絨氈じゅうたんの空想的な花模様に、刹那せつなの性命を与えたりしている。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
足音もしないような絨氈じゅうたんをしきつめた長い廊下を通って、ある室の中に召使から案内された。室のガラス戸は庭に向いていた。その日は冷たい小雨が降っていた。暖炉には盛んな火が燃えていた。
それが波のゆらめくに連れて、絨氈じゅうたんの模様のように拡がったりする。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
わが皮膚は苦行の道場、閨房の絨氈じゅうたん
向いのN万ビルのマネキン事務所には、アメリカン・スタイルの女たちが地面にカードをひろげたように、緋の絨氈じゅうたんの上でお化粧を始めていた。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
そうして、せっかく、近くすすめてくれた椅子を、わざと自分でしりぞけて、絨氈じゅうたんのようなものが敷いてある板の間へかしこまってしまいました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
英国種の芝生が、絨氈じゅうたんを敷いたようにひろがって、そのうえに、暖いざしがさんさんとふりそそいでいる。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
兄の身体は重いので、絨氈じゅうたんの上に寝かしたままに放置するより仕方がありません。隣の寝室らしいところから、枕と毛布とをとって来て、兄にあてがいました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしの制作ははかどらなかった。わたしは一日の仕事を終ると、大抵たいてい絨氈じゅうたんの上にころがり、頸すじや頭をんで見たり、ぼんやり部屋の中を眺めたりしていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
洋燈ランプを差置き、ちらちらと——足袋じゃない、爪先つまさきが白く、絨氈じゅうたんの上を斜めに切って、ひらきを出た。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十畳のその居間は和洋折衷とも言いつべく、畳の上に緑色の絨氈じゅうたんを敷き、テーブルに椅子いす二三脚、床には唐画とうがの山水をかけたれど、楣間びかんには亡父通武みちたけの肖像をかかげ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
婦人は手提てさげから鍵をとり出してドアを開き、電燈のスイッチをおしたが、フックラとした肘掛椅子と長椅子、赤い模様の立派な絨氈じゅうたん、それが居間で、次の部屋が寝室らしく
薔薇夫人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)