まつ)” の例文
賭博者、ピストル丈を商売道具にする男、単純な無頼漢、彼等にまつわる貧困の方が、まだまだ私の類よりは光明を持っている様である。
職工と微笑 (新字新仮名) / 松永延造(著)
ここへ移ってからも、お増の目には、お千代婆さんの家で、穴のあくほど見つめておいた細君の顔や姿が、始終まつわりついていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
舞台を下りると、いつか緒の解けたのが、血のようにまつわって、生首を切って来たように見えます。秋雨がざっと降って来る。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうしてそのうちに、呉家にまつわる不思議な因縁話を聞き知って、呉一郎の結婚式の前日に、こんな残虐を試みた。……それがこの私であったのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お手紙で、あの娘と僕とにどうしても断ち切れないきずながあることは判りました。実はその絆が僕自身にも強くまつわっていたのがはっきり判ったのでご座います。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これぞ、極洋の狼、孤独の海狼と——なんだかにらみかえしたくなる厭アな感じが、ふとこの数日来折竹にまつわりついている、ある一つの異様な出来事を思いださせたのである。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
追いつ追われつする運命の二剣! それにまつわるおのが秘命。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大厦高樓のめぐりにまつはるなか
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
鼻を鳴らしてまつわりつく犬をいたわりながら、鉄瓶てつびんの湯気などの暖かくこもった茶の間へ、二人は冷たい頬をでながら通った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それからは、猶更なほさらもつてじやれいて、ろくに團右衞門だんゑもんやしきへもかず、まつはりつくので、ふら/\ちたいほどかゝつた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
貴女あなた家系いえすじまつわる、悪い因縁の絵巻物があるそうですが、それは今のうちに、よく調査してみようではありませんか。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それが大晦日おおみそかの晩であった。庸三はある時は葉子と清川とのあの晩の態度にまつわる疑問に悩みある時はそれを打ち消した。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
眞白まつしろうでについて、綿わたがスーツとびると、可愛かはいてのひらでハツとげたやうに絲卷いとまきにする/\としろまつはる、娘心むすめごころえにしいろを、てふめたさう。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私の黒焦屍体にまつわる校長先生の責任をどこまでも明らかにする手順がチャント付いているのです。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それらの或者は、お島のあとからまつわり着いて来そうな調子で恵みを強請ねだった。お島はどうかすると、蟇口を開けて、銭を投げつつ急いで通過とおりすぎた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
谿河たにがわの水に枕なぞ流るるように、ちょろちょろと出て、山伏のもすそまつわると、あたかも毒茸が傘の轆轤ろくろはじいて、驚破す、取てもう、とあるべき処を、——
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これに就ては色々な恐ろしい噂や伝説がまつわり付いている程の御宝物なのですが、それはウッカリした者が見ないように云いらしたのが一種の迷信みたようになってしまったので
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ほてるはぎまつわる長襦袢ながじゅばんの、ぽっとりした膚触はだざわりが、気持が好かった。今別れて来た養母や青柳のことはじきに忘れていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ばちゃん、……ちゃぶりとかすかに湯が動く。とまた得ならずえんな、しかし冷たい、そして、におやかな、霧に白粉おしろいを包んだような、人膚ひとはだの気がすッと肩にまつわって、うなじでた。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
笹村の当て推量は、その時はそれで消えてしまうのであったが、外出をするお銀の体には、やはり暗いものがまつわっているように思えてならなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それからその昔からの言いつたえで、何か黒百合といえば因縁事のまつわった、美しい、黒い、つやを持った、紫色の、物凄ものすごい、堅い花のように思われるのに、石滝という処は、今のはなしでは、場処も
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新聞の記事が頭脳あたままつわり、時機を待てと、あれほど言っていた倉持の言葉も思い出され、こごた辺を通過する時、汽車の窓から見える、新婦の生家である
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
元結もとゆいは切れたから、髪のずるりとけたのが、手のこうまつはると、宙につるされるやうになつて、お辻は半身はんしん、胸もあらはに、引起ひきおこされたが、両手を畳に裏返して、呼吸いきのあるものとは見えない。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お増はそう言って、長火鉢の傍で莨をふかしていたが、お今の執念がまつわり着いているようで、厭であった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
藍、浅葱、朱鷺色ときいろと、鹿子かのこと、しぼりと、紫の匹田ひったと、ありたけの扱帯しごき、腰紐を一つなぎに、夜の虹が化けたように、おんなの下から腰にまつわり、裾にからんで。……下に膝をついた私の肩に流れました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
深山に連絡している周囲が、女のことについて、いろいろに自分を批評し合っているその声が始終耳にかぶさっているようで、暗い影が頭にまつわりついていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
部屋着を脱ぐと、襦袢じゅばんで、素足がちらりとすると、ふッ、と行燈を消しました。……底に温味あたたかみを持ったヒヤリとするのが、酒のく胸へ、今にもいいかおりさっまつわるかと思うと、そうでないので。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同じような心の痛みのまだどこかに残っている女は、しみじみした淡いねたみのまつわりついたような心持でそれに聴きれていた。笹村の胸にも、それが感ぜられた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
硝子窓がらすまどかぜひたひまつはる、あせばんでさへたらしい。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
酒くさい作の顔や、ごつごつした手足が、まだ頬や体にまつわりついているようで、気味がわるかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
つらまつはるは。』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そう言って均平も顔にまつわる煙草の煙を払っていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)