紀伊きい)” の例文
もっと微細にわたれば、綱吉将軍のお世つぎに、老公は甲府こうふどのをおすすめになり、将軍家のご意中では、紀伊きいどのを望んでおられた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは城下の茗荷みょうが屋文左衛門という呉服屋の娘で、名はよの、年は十七です、うちでは紀伊きいと呼びますから、あなたもそう呼んで下さい」
女は同じ物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
志州ししゅう鳥羽とばまでは汽車、鳥羽から紀伊きいのK港までは定期船、それから先は所の漁師にでも頼んで渡して貰う外には、便船とてもないのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
其處から𢌞つておいでになつて、紀伊きいの國のヲの水門みなとにおいでになつて仰せられるには、「賤しい奴のために手傷を負つて死ぬのは殘念である」
東を見れば、大阪湾をへだてて紀伊きい半島が、西を見れば海峡かいきょうをへだてて四国の山々、更に瀬戸内海せとないかいにうかぶ島々が、手にとるように見渡せるのである。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたくしどもはけっして変化へんげでも、おにけたのでもありません。一人ひとり摂津せっつくにから、一人ひとり紀伊きいくにから、一人ひとり京都きょうとちか山城やましろくにからたものです。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いろいろの式があつたあとで、山野やまの紀伊きいかみの家老を務めてゐたといふひげの白い老人が、殿様の代理で
硯箱と時計 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
ここで近畿きんき地方というのは便宜上、京都や大阪を中心に山城やましろ大和やまと河内かわち摂津せっつ和泉いずみ淡路あわじ紀伊きい伊賀いが伊勢いせ志摩しま近江おうみの諸国を包むことと致しましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
なにしろ紀伊きいの若様だから余人とちがってすぐさま捕りおさえるわけにもゆかず、一同もてあましていたが、これを聞いた山田奉行の大岡忠右衛門、法は天下の大法である
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大和やまと伊勢いせ紀伊きい河内かわち和泉いずみがその勢力範囲であって、大和アルプスを脊椎せきついとした大山岳地帯全体が海洋に三方を取りまかれて、大城廓をなし、どうにも攻め様がなかったのと
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
一七四七年、出羽でわの上の山に生じた三十一ヵ村の百姓一揆も、おなじ種類のものであった。また一八二三年、紀伊きいの十三万人の百姓のおこした百姓一揆も、おなじ性質のものであった。
障れば絶ゆるくもの糸のはかない処を知る人はなかりき、七月十六日のは何処の店にも客人きやくじん入込いりこみて都々一どどいつ端歌はうたの景気よく、菊の井のした座敷にはお店者たなもの五六人寄集まりて調子の外れし紀伊きいくに
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
権佐清長ごんのすけきよなが美濃大垣みのおほがきの城主氏家広定うぢいへひろさだの養子になつてゐるうちに、関が原の役に際会して養父と共に細川忠興ほそかはたゞおきに預けられ、妹紀伊きいは忠興の世話で、幕府の奥に仕へ、家康の養女振姫ふりひめの侍女になつた。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
神倭伊波礼毘古命かんやまといわれひこのみことは、そこからぐるりとおまわりになり、同じ紀伊きい熊野くまのという村にお着きになりました。するとふいに大きな大ぐまが現われて、あっというまにまたすぐ消えさってしまいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
紀伊きいみや樟分くすわけやしろまうづ、境内けいだいくす幾千歳いくちとせあふいでえりたゞしうす。
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こゝに寶永三年四月紀伊きい大納言光貞卿御大病ごたいびやうの處醫療いれうかなはず六十三歳にて逝去せいきよまし/\ける此時松平主税頭ちからのかみ信房卿は御同家青山あをやま百人町なる松平左京太夫さきやうのたいふ養子やうしとなり青山の屋敷やしきおはせりさてまた大納言光貞卿の惣領そうりやう綱教卿つなのりきやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
紀伊きいの国の』という意味です。むかしは『きいの国』を『きの国』とも言ったのです。つまり、今の和歌山県ですね。
怪奇四十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それから、紀伊きい越えの山の割れ目にちた伊織の身を、幸村の配下の者も、力をあわせて探してくれたが、ようとして、きょうまで、生死も知れなかった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一方において、富士山がなくなり、その代りでもあるように、紀伊きい水道が浅くなってしまって、ベトンの壁が突立っているのであった。一体、どういうわけであろう。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二上ふたかみ山の大阪の道から行つても跛や盲に遇うだろう。ただ紀伊きいの道こそは幸先さいさきのよい道であるとうらなつて出ておいでになつた時に、到る處毎に品遲部ほむじべの人民をお定めになりました。
さわればゆるくもいとのはかないところひとはなかりき、七月十六日の何處どこみせにも客人きやくじん入込いりこみて都々どゝ端歌はうた景氣けいきよく、きく下座敷したざしきにはお店者たなもの五六人寄集よりあつまりて調子てうしはづれし紀伊きいくに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「知つてゐます。山野やまの紀伊きいかみです。」
硯箱と時計 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
「水戸のご隠居には、ご在職中から、甲府こうふ綱豊つなとよさまをようし、あなたのご意中は、紀伊きい綱教つなのりさまにありました」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
していた人の遺言書。ひとつは、紀伊きい半島の南の海路図。もうひとつは保険会社の証書なのだよ。
海底の魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その後、紀伊きい半島の沖合おきあいに、ヘリコプターの破片らしいものがうかんでいるのを見たものがあるというが、あるいはそれが、波立二の最後を物語っているのではあるまいか。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三好みよし氏は紀伊きい、伊賀、阿波あわ讃岐さぬきなどに、公方くぼう与力よりきと旧勢力をもっている点で無視できないが、これとて要するにことごとく頭の古い過去の人々であるばかりで、世をみだし民を塗炭とたんに苦しめた罪は
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)