かうがい)” の例文
長いあひだに路銀も盡き、そのみつぎに身のまはり、くしかうがいまで賣り拂ひ、最前もお聽きの通り、悲しい金の才覺も男の病が治したさ。
近松半二の死 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
鼈甲べつかふくしかうがいを円光の如くさしないて、地獄絵をうたうちかけもすそを長々とひきはえながら、天女のやうなこびこらして、夢かとばかり眼の前へ現れた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
高浜の海岸に今一つ樹木欝葱うつさうたるもつと大きい島がある。岩礁の裾に一つ穴が明いて居て赭土色の禿頭の上へ捻つた枝の松をかうがいのやうに挿してる。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
白紙かみを鼈甲のかうがいに捲いた、あの柳橋やなぎばしの初春の——白紙かみを捲いたかうがいなんて、どうしたつて繪にはならない、そしてそれは柳橋やなぎばしにはかぎつてゐないが
(旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
不思議ふしぎにこゝでひました——面影おもかげは、黒髮くろかみかうがいして、ゆき裲襠かいどりした貴夫人きふじんのやうにはるかおもつたのとは全然まるでちがひました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
頻繁ひんぱん行方ゆくへ不明になることに思ひ當りました——芝伊皿子いさらごの荒物屋の娘お夏、下谷竹町の酒屋の妹おえん、麻布あざぶかうがい町で御家人の娘おかう——、數へて見ると
唯一筋の唐七糸帯からしゆつちんは、お屋敷奉公せし叔母が紀念かたみと大切に秘蔵ひめたれど何か厭はむ手放すを、と何やら彼やら有たけ出してをんなに包ませ、夫の帰らぬ其中と櫛かうがいも手ばしこく小箱に纏めて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
草緑にして露繁き青山の練兵場、林を出でゝ野に入り、野を去つて更に田に出づるかうがい町より下渋谷の田舎道は余と透谷とが其頃しばしば散歩したる処にして当時の幻影おもかげは猶余の脳中に往来す。
透谷全集を読む (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
かうがいひかる黒髮は
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
そこで、かみひあげるときにして、かうがいを惜しまずやつたのであらうが、二三十年も前のことで、今日の錢湯風景を知らないから、なんともいへない。
(旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
此時このとき、われにかへこゝろ、しかも湯氣ゆげうち恍惚くわうこつとして、彼處かしこ鼈甲べつかふくしかうがい行方ゆくへおぼえず、此處こゝ亂箱みだればこ緋縮緬ひぢりめんにさへそでをこぼれてみだれたり。おもていろそまんぬ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かみゆひさんの手腕うでを見せた藝妓島田げいこしまだが揃つて——三ヶ日過ぎると、恰好のいいつぶし島田にザングリ結つたのもまじつて、透き通るやうなかうがいを一本、グツと揷したのが
(旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
道理だうりで、そこらの地内ちない横町よこちやうはひつても、つきとほしのかうがいで、つまつて、羽子はねいてるのが、こゑけはしなかつた。割前勘定わりまへかんぢやうすなは蕎麥屋そばやだ。とつても、まつうちだ。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かうがいかんざしは謂ふも更なり、向指むかうざし針打はりうち鬢挟びんばさみ髱挟たばさみ、当節また前髪留といふもの出来たり。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此時このとき白襟しろえり衣紋えもんたゞしく、いお納戸なんど單衣ひとへて、紺地こんぢおびむなたかう、高島田たかしまだひんよきに、ぎん平打ひらうちかうがいのみ、たゞ黒髮くろかみなかあはくかざしたるが、手車てぐるまえたり、小豆色あづきいろひざかけして
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なが突通つきとほしのかうがいで、薄化粧うすげしやうだつた時分じぶんの、えゝ、なんにもかにも、ひつじこくかたむきて、——元服げんぷくをしたんですがね——富川町とみかはちやううまれの深川ふかがはだからでもありますまいが、ねんのあるうちから、ながして
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)