祈祷きたう)” の例文
翌朝よくてうセルゲイ、セルゲヰチはこゝて、熱心ねつしんに十字架じかむかつて祈祷きたうさゝげ、自分等じぶんらさき院長ゐんちやうたりしひとはしたのでつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
山茶が部屋を去つた後、金花は独り壁に懸けた十字架の前にひざまづいて、受難の基督を仰ぎ見ながら、熱心にかう云ふ祈祷きたうを捧げた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「本人は山伏やまぶし崩れだと言つてはゐますがね。野伏せり見たいな野郎で、八祈祷きたう禁呪まじなひも心得てゐる上に法螺ほらと武術の達人で」
今日こんにちこれ復興ふくこうするをべし、而してその復興ふくこうはうたるや、安楽椅子あんらくいすかゝり、或は柔軟じうなんなる膝褥しつぢよくうへひざまづ如何程いかほど祈祷きたう叫号きうごうするも無益むえきなり
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
待居まちゐたり半兵衞はやがて歸り來り偖々さて/\御太儀なりしお小僧にも臺所だいどこへ行て食事仕玉へと云ひければ寶澤はうれ下行おりゆき食事もをはりける頃感應院も祈祷きたう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
祈祷きたうを思ひ出して、ゆき子は、明日の日は、伊庭に捕へられても、今日の迷ひを迷つた方が、はるかにたのしいのだと、捨てばちな気持ちであつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
多くの人の見る前で、砂を盛つた植木鉢へコスモスの種子たねなどをいて、じつと祈祷きたうこらす。すると種子たねはじけて芽はぐん/\砂を持上げて頭を出して来る。
家族かぞく一統いつとう加持かぢ祈祷きたうよ、とあをくなつてさわいだが、わたしない其主人そのしゆじんたんすわつていさゝかもさわがない。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼の奇妙な祈祷きたうはこんな風にして行はれた。それはこの時のみならず常にかうして行はれてあつた。
篠田はつて聖書を読み、祈祷きたうを捧げ、今宵こよひの珍客なる少年少女にむかつて勧話の口を開けり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
孔孟こうまうの道は尊ばれたやうでも、実は文章詩賦が流行はやつたのみで、仏教は尊崇されたやうでも、実は現世祈祷きたうのみ盛んで、事実に於て神祠巫覡しんしふげきの徒と妥協だけふを遂げ、貴族に迎合げいがふ
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
これがほんたうの祈祷きたうの手。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
霙は祈祷きたうの胸を打つ景色
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
一兩だつて大膳坊の身へはつけません、——私は二分の祈祷きたう料を頂くから、それで結構——と言つた、サバサバした坊主ですよ
それから家へ帰つて来ると、寝床の前にひざまづき、「神様、どうかあのひきがへるをお助け下さい」と十分ほど熱心に祈祷きたうをした。
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かれ微笑びせうもつくるしみむかはなかつた、輕蔑けいべつしませんでした、かへつて「さかづきわれよりらしめよ」とふて、ゲフシマニヤのその祈祷きたうしました。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
始め彼三五郎鴻の巣なる鎌倉屋金兵衞其ほか野州やしう浪人八田掃部三加尻茂助練馬藤兵衞などの菩提ぼだいとぶらひ又元栗橋の隱亡をんばう彌十などの安穩あんをんに歸島致す樣祈祷きたう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
既に文書したゝおはりし篠田は、今や聖書ひもときて、就寝前の祈祷きたうを捧げんとしつゝありしなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
大日向さまが、世間の山師やましのやうに、即座によくなるといふやうな、そんな教へは絶対にしませんので、その人々の祈祷きたうの根気を、御覧になり次第で、病悪を去つていたゞきます
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
現に将門を滅ぼす祈祷きたうをした叡山えいざん明達めいたつ阿闍梨あじやりの如きも、松尾明神の託宣に、明達は阿倍仲丸の生れがはりであるとあつたといふことが扶桑略記ふさうりやくきに見えてゐるが、これなぞは随分変挺へんてこな御託宣だ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
顏が見えました。それから門前町の文七、伜の文太郎は七日七夜の祈祷きたうで百兩もかけたのに助からなかつたと、先達樣の惡口を
秀林院様も「はらいそ」へはお昇り遊ばさるることかなふまじく候、但し「みさ」と申す祈祷きたうを奉られ候はば、その功徳くどく広大にして、悪趣を免れさせ候べし。
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
アンドレイ、エヒミチは體裁惡きまりわるおもひながら、聖像せいざう接吻せつぷんした。ミハイル、アウエリヤヌヰチはくちびる突出つきだして、あたまりながら、また小聲こゞゑ祈祷きたうしてなみだながしてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
遠い山の中で、獣のうなごゑを聴いてゐるやうな祈祷きたうの声がなかつたら、此の玄関は、田舎ゐなかの病院にでもゐるやうな錯覚をおこす。大津しもが、ゆき子を眼にとめると、すつと立つて来て
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
やい、岡つ引奴、俺が向うの部屋で、下手人調伏の祈祷きたうをしてゐる間に、俺の部屋へ入つて、手當り次第に掻き廻すとは何んといふことだ。
祈祷きたうを頼むとき、道尊坊さんには、置床の柱に見せた竹筒に九百九十兩入つたのを盜まれた——と話しましたが、それは盜まれてから後の事で」
東海坊の法力で、一番江戸の町人を驚かしたのは、如何なる難病も癒らぬことはないと言はれた祈祷きたうでした。
平次の常識と、長い間の經驗から見ると、地下埋藏金といふものは、實際あるかも知れませんが、祈祷きたう禁呪まじなひでそれが發見されるなどといふことは、考へられないことです。
二、三度頼んで見ましたが、あべこべに脅かされるだけでした。——お前さんは若い女の生きりやうかれてゐる。加持も祈祷きたうも力及ばない、いづれはその憑きものの爲めに命を
父の半狂亂に氣を揉みながらも、母の目論見の底を割り兼ねて、默つてしばらく樣子を見てゐるうちに、多の市は似非えせ修驗者の道尊坊を頼んで來て、大袈裟おほげさ祈祷きたうを始めました。
「それより、大膳坊に逢はせて下さい。一の倉で祈祷きたうをして居ると聽きました」
あきれた野郎だ、山伏の祈祷きたうをめりやすと間違えてやがる」