直接じか)” の例文
が、それには一応何時いつもの須山らしい調子があるようで、しかし如何いかにも取ってつけたただならぬさがあった。それが直接じかに分った。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
いや、直接じかに会ったのではないようだが、知人しりびとの誰かに似ていたから間違えたんだ。こう決めてしまって、そのことは頭から遠ざけた。
誰? (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
掘起した土の中からは、どうかすると可憐かれん穎割葉かいわればすももの種について出て来る。彼は地から直接じかに身体へ伝わる言い難い快感を覚えた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「万一いけないようだったら、私、直接じかに大奥さんに会わせて戴きますわ。大奥さんだって、まさか鬼でも蛇でもございますまい」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
じつ今日きょうここでそなた雨降あめふりの実況じっきょうせるつもりなのじゃ。ともうしてべつわし直接じかにやるのではない。あめにはあめ受持かかりがある……。
また滝へ直接じかにかかれぬものは、寺のそばの民家に頼んでその水を汲んで湯を立ててもらってよくする者もあるが、不思議に長病が治ったり
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
まず以って直接じかに自分にまつわっている人々が、どこまでの用意をして置くかを調べて、それによって、背後うしろの立て物を見抜くが第一——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
甲「なに肥料こやしをしないものはないが、直接じかに肥料を喰物くいものぶっかけて喰う奴があるか、しからん理由わけの分らん奴じゃアないか」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
直接じかに攫徒に渡してやるもいかがなもんだよ。何よりもだね、そんな盗賊どろぼうとひそひそ話をして……公然とは出来んさ、いずれ密々話ひそひそばなしさ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たとへ家に召遣ふものでも男にはお前が直接じかにいひ付ける事はならぬぞ。その為に下女といふものが置いてあるのやさかい。
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
それも他人委せにしないで、自分で直接じかにぶつかって、必要な場合には、横面殴よこびんたを喰らわせたり、首根っこを殴りとばしてくれなきゃ駄目ですよ。
その時、お前はそれをこばんでいうがよい。いや、拙者はお弟子たちに立合を願いに来たのではない。直接じかに大先生に一手合せを、とこう出るのだ。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
又おだてる……実はわし直接じかにアンタの話を聞いて、それを私の聞込みにして、お目付に申上げても済む事じゃが
その手が城主へ触れたとたん、城主の冠っている中将の仮面めんを片手で素早く持ち上げた。水泡の顔と城主の顔とが、ひたと直接じかに向き合ったのである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
本当に、直接じかに、心にみて感じられるもの、それのみが私を、(或いは芸術家を)行為にまで動かし得るのだ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「おめえが直接じかに手をおろさないで、お津賀も富蔵も一度に片付けてしまえば、こんな世話のねえ事はねえ」
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「本統にそうなのなら、兄さんに心配させないで、直接じかに私によく話してくれるがいいじゃアありませんか」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
この大河内家の客座敷から横手に見える羽目板はめいた目触めざわりだというので、椿岳は工風をしてひさしを少し突出つきだして、羽目板へ直接じかにパノラマ風に天人の画を描いた。
「おやッ、用事はないといった癖に……」と、女はそら見ろといわんばかりに僕の方に妖艶な面を向け、「そんなことは、あのひとに直接じかに聴いてみることだわよ」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女は魂と直接じかつながっていないような眼を一杯に開けて、漫然と瞳孔ひとみの向いた見当を眺めていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
喜八郎も善次郎も直接じかには響いて来ぬ名だったが清作の名には身に痛い覚えの有る者が多かった。
夏蚕時 (新字旧仮名) / 金田千鶴(著)
それをまた、邦夷は、直接じかに自分の胸に感じている。前後の事情を考えあわせてみるとき、とにかく、これだけの条件を取り得たことさえ成功と思わねばならぬのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
如何どうかしてこの飜訳文を見ずに直接じかに英文を飜訳してやりたいものだとおもって試みる、試みて居るあいだわからぬ処がある、分らぬと蘭訳文を見る、見ると分ると云うようなけで
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「いゝえ、これがもし、若宮君直接じかの話で、『矢の倉』のまえにもちゃんと持出せる話なら喜んであたしァ加勢する。——一年でも二年でもちゃんと暇をもらってけに行く……」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
またよく考えて見ると精神の錯乱さくらんして居る人に遇って見たところが別段頼みになる訳でもないから、こりゃ一つセラ大寺へ直接じかに出掛けて行って、それからまあ仮入学を許してもらい
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「警視総監からお電話です。閣下に直接じかにお話し申し上げたいとのことで……」
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「己だ! 己がさして来たのだ! 文句のある奴はここへ出て、直接じかに言え!」
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
出入のものは皆これを知っているから、手っ取り早く直接じかに奥さんに当りたがる。しかし夫人はそんな良人をないがしろにした行動を許さない。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
岡見から寄してくれた手紙の返事を書くかわりに、直接じかに訪ねて行こうと思ったので。この訪問は捨吉に特別な心持を有たせた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
食われて蟹が嬉しがりそうな別嬪べっぴんではありませんが、何しろ、毎日のように、昼ばたごから——この旅宿やどの料理番に直接じか談判で蟹をります。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風の工合で煙が波とすれずれになびいて、ムッとする石炭の匂いを送った。ウインチのガラガラという音が、時々波を伝って直接じかに響いてきた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
まず見つけ次第に神尾主膳を取って押えて、直接じかに詰問してみよう、神尾を討って捨てても構わないと思いました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『あれは竜神様りゅうじんさまのおみやじゃ。これからはわしにばかりたよらず、直接じか竜神様りゅうじんさまにもおたのみするがよい……。』
と云うとお梅は涙ながら、これ/\う云う訳で御酒ごしゅを割って飲まなければけないと云うのをうち良人ひと直接じかに飲みましたから身体に障ったのでございましょう。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其の「直接じかに感じられるもの」とは何か、といえば、それは、「私が最早一旅行者の好奇の眼を以てでなく、一居住者の愛著あいちゃくを以て、此の島と、島の人々とを愛し始めた」
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
直接じかに松倉どんに引合わせて、私とも膝をば突合わせたなら、三人寄れば何とやら、よい知恵が出まいとも限らぬ……と言う私の一生涯の知恵を絞ったドンドコドンのドン詰めの思い付きじゃが
それから一日ほどって、女は手紙で直接じかに私の都合を聞き合せに来た。その手紙の封筒から、私は女がつい眼と鼻の間に住んでいる事を知った。私はすぐ返事を書いて面会日を指定してやった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
申して、お腹立ちになっちゃ困りますが、その税金は毎年納めておくんなさるのでがしょうねえ、そしてその金は、こちらへ廻して下さるだか、それとも直接じか国庫おかみへ納めておくんなさるだかね?
その間中、機関室からは機関の音が色々な器具を伝って、直接じかに少しの震動を伴ってドッ、ドッ、ドッ……と響いていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
直接じかに、そぞろにそこへき、小路へ入ると、寂しがって、気味を悪がって、たれも通らぬ、更に人影はないのであった。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「他人行儀ですとも。あなたのように水臭い人はありませんわ。私が里へ行くのがお気に召さないなら、何故直接じかに仰有って下さらないんです?」
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
殿様に向っては、直接じかに鋒を向けられないから、それでマドロスさんとやらを奪い取ってオトリにしようというのは、あの社会の奴等のよくやる手です。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
巴里を立退たちのこうとしてその停車場に群がり集る独逸人もしくは墺地利オーストリア人はいずれも旅装束で、構内の敷石の上へ直接じかに足を投出し汽車の出るのを待っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
立派なアお方さまの側で以てからにおまんまア戴いたり、直接じかにお言葉を掛けて下さるてえのは冥加みょうが至極だと云って、毎度めいどけえりますとお屋敷の噂ばかり致して居ります、へえ誠に有難い事で
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これは職工たちの恐れていた「産業の合理化」が直接じかに、そして極めて惨酷に実行されることを意味していた。工場はその噂でザワめいていた。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「赤松が何うか致しましたの? お庭の方へ口出しをすると、私、叱られますから、旦那さまへ直接じかに申上げて下さい」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
境辻三……巡礼が途にまどったような名の男の口から、直接じかに聞いた時でさえ、例のうぐいすの初音などとは沙汰さたの限りであるから、私が真似まねると木菟みみずくに化ける。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
直接じかにかけ合ったり、下手したでに出ればいい気になって勿体もったいをつけてさ、それがためにこの子がれ出して、こんな病気になるのもほんとに無理がありませんよ
彼は草むしりする手を土の上に置き、冷い快感の伝って来る地面じべた直接じかに掌を押しつけて、夏期学校の講演を聞こうとして諸方から集って来る多くの青年のことを思いやった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
武「それ直接じかに飲んではいけない、んな酒家さけのみでも直接にはやれない」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)