やく)” の例文
勿論立会診察は余りやくに立たないと聞いてもいるし、費用の点も大いに違うだろうから、どうかして医者を取り換える法はあるまいか。
生あらば (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それから、またそれが何か人のやくにたつたつて、自分にはなんにも分りませんものネ、つまらないわ。死んじまふんだもの。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
実地に就てのやくに立つ考案かんがえは出ないで、こうなると種々な空想を描いては打壊ぶちこわし、又た描く。空想から空想、枝から枝がえ、ほとんど止度とめどがない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ほんとにどのようなしかえしが来ようも知れぬ、こんなやくのない見張りをしているうちには、どこからかうろこの音を忍んで這い上って来るにちがいないのだ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
東京へ出てから少しの間独逸語を遣ったのを無駄骨を折ったように思ったが、後になってから大分やくに立った。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
筆先ふでさき十露盤玉そろばんだまにてかすめ始めしが主人は巨萬きよまんの身代なれば少しの金にはも付ずわづかに二年の内に金子きんす六十兩餘をかすり今は熊本に長居ながゐやくなし近々に此土地を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
出したり引っ込ましたりしたがこれもまるでやくに立たないんですって。よっぽど頑固がんこな地蔵様なのよ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
忠公のお母さんの肩掛を着せたら、少しは象らしくなったが、牙がなくてはうも拙い。それで何かのやくに立つだろうと思って持って来た伯父さんの喇叭ラッパくわえさせた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
人の生まるる始めのこと、死にてのちの理などを推慮おしはかりにいうは、いとやくなきわざなれば、ただに古伝説を守りて、人の生まるることは、天津神あまつかみくすしくたえなる産霊むすび御霊みたまによりて
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
後悔は何のやくにも立たなかつた。丑松は恥ぢたり悲んだりした。あゝ、数時間前には弁護士と一緒にはなし乍ら扇屋を出た蓮太郎、今は戸板に載せられて其同じ門を潜るのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「いいエおばあアはもうぼれてしもてなんのやくにもたたんのヨ。」「おいさんはお留守かな。」「おいさんは親類だけ廻るというて出たのじゃけれ、もうもんて来るじゃあろ。」
初夢 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
わりゃア何か親はないかえ、われは天下の御法を破り、強請騙りを致すのをよも善い事とは心得まいがな、手前のような奴は、何を申し聞かせても馬の耳に念仏同様でやくに立たんから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
斯様した我の心意気が解つて呉れたら従来いままで通り浄く睦じく交際つきあつて貰はう、一切が斯様定つて見れば何と思つた彼と思つたは皆夢の中の物詮議、後に遺して面倒こそあれやく無いこと
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ただその種子は熟すにつれて地に落ちるので、収穫に少し困難である。ただそれだけのことだ。ちょっと手をかけてやれば、蕁麻いらぐさはごくやくに立つんだが、うっちゃっておけば害になる。
彼女房はこの平和な集会に突然駈け込んで、誰彼の嫌なく、会員一同をやくに立たずと罵り、例の尊厳なるニコラス、ベツタアの身さへ、この恐ろしい変生男子へんせうなんしの大胆な舌で傷られました。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
馬からおろされた姫は向うに見える城あとの樹立こだちをじっとながめていたが、にわかに気をあららげて、腰に手をやって、「こんなものが今更何になる。やくにもたたぬものは邪魔になるばかりだ」
自分は行かず、林町の人々も、行けば春江ちゃんのところに泊るので、一軒の家は何のやくにも立たない。今月ぎりで返そうと云うので、その荷物とりまとめの用向を持って行ったのであった。
われはおそる/\その不興の因由もとを問ひしに、主人頭をりて、否、やくなき訴訟の事ありて、ちとの不安を感ずるに過ぎず、ポツジヨは久しくおとづれず、おん身さへ健康すぐれ給はざる如し
やくなく手にかけ討ち果たすごとき、無慈悲の人間にはござりませぬぞ!
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(演説の調にて)法相真如しんによといふといへども之れ仏陀乃至伝教等沙門の頭を写したる幻の塔、夢の伽藍、どうせ人の頭より出たるほどのもの故、学んで悟られぬ筈はおりない。悟といふはやくない徒労。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
さてはあつらへたまひし如く家に送りたまふならむとおしはかるのみ、わが胸のうちはすべて見すかすばかり知りたまふやうなれば、わかれのしきも、ことのいぶかしきも、取出とりいでていはむはやくなし。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
イヨー、中々よく抜目ぬけめはないな。貴様にやつたつてやくにはたたないが、どうも仕方がない、誕生日のお祝ひにやるとしやうよ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
僕はこの願がかなわん位なら今から百年生きていても何のやくにも立ない、一向うれしくない、寧ろ苦しゅう思います。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
依志子 あんな人たちが見張りに行ったって、もう何のやくにも立ちはしませんのに。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
こうした我の心意気がわかってくれたら従来いままで通りきよむつまじく交際つきあってもらおう、一切がこう定まって見れば何と思ったと思ったは皆夢の中の物詮議、後にのこして面倒こそあれやくないこと
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この二三週間ばかりは日記もつけなかった。乃公おれだって忙しい時には随分やくに立つ。お花さんと清水さんとの御婚礼はいよいよ明日になった。今日なんか方々へお使いに行くので目が廻るようだった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さればこの一座のためにはやくなきにもあらぬ身なり。ここに洪水のありし事は、一昨年おととしなりけむ、はたそのさきのなお前の年なりけむ、われ小親とともに、伊予の国なる松山にて興行せし時聞及びつ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
菊枝 何で妾がこの年齢としして、やくない嘘をつきませうや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
火影ほかげさへ、やくなや、しめりなびきぬ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
格別のやくにはたゝんといふのだよ、着るものや、たべるものや、雨露をしのぐ家はみんな両親にそなへてらふのだから、外に大した入用いりようはないではないか?
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
唱歌しやうかうたふて朝寐坊あさねばうする人物じんぶつ學校がくかうからるやうになりてはなんやくにもつまじく、其邊そのへん御賢慮ごけんりよ願上候ねがひあげさふらふ
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
さてはあつらえたまいしごとく家に送りたまうならむとおしはかるのみ、わが胸のうちはすべて見すかすばかり知りたまうようなれば、わかれの惜しきも、ことのいぶかしきも、取出でていわむはやくなし。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やくなさをあざみ顏なる薫習くんじふ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
しかし何のやくにも立たない、僕の心は七がた後ろの音に奪われているのだから。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
やくもなきことをとふと思いうかぶに、うちすててくびすをかえしつ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やくもなきことをとふと思ひうかぶに、うちすててくびすをかへしつ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)