おろそ)” の例文
愛と理性との高い教育をおろそかにしている以上、どの家庭婦人も高雅な情味を持つ訳がないのです。家屋の内外には関係がありません。
この調子では御家中への指南もおろそかになる道理ゆえ、近く隠居をしようと考えるのじゃ、——それについて儂の跡目をどうするかだ
半化け又平 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夢というもののおろそかにせられなかった原因もここにある。互いに見よう見えようという約束が、言わず語らずに結ばれていたのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
力になってくださいますとか、尚さらおろそかには思われません。どんなご用でございましょう? 遠慮なくおっしゃってくださいまし
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自作をおろそかにしない作者の気質がそこに見らるるとともに、また、この作品が作者にとっていかにも親愛なものだったことが察せらるる。
学資に不自由なく身体健全なる学生諸君、諸君の資格は実に尊い資格である、諸君は決して其の尊い資格をおろそかにしてはならぬ。
家庭小言 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
文章を書くものにとつて、句読点ほどおろそかに出来ないものはない。合衆国政府は、この句読点一つで二百万弗損をした事がある。
かなり実用的学問を授けたくなって、それより大事な心底に潜伏してある精力を開発してやろう修養をたすけようという心がおろそかになり易い。
教育家の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
家事うちのことおろそかになるし……それに、お客の馬にだって乾草はやらにゃなりませんしね! ところで、わしはもうっくに食事めしをすましただがね。
僕も相役と思うとおろそかにならず、宜しくお引き廻しを願う為めに、特に念を入れて敬意を表した。お母さんと三輪夫人は
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
わけて御化粧の間の御用具の中でも御鏡はとうといもの、かしこきあたりの御目にも留まることで、仕事の難易はとにかくことおろそかに取り掛かるものでないから
こんな訳で呼べども答えずといったような有様に私は少し興味を失いかけて、邸前の空地にあらわれることも何時とはなしにおろそかになって行きました。
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし、あの時夫人が何故ブラッド洋橙オレンジのみを取ったかという点に、僕は今まであの最短線ジオデスイク・ライン——サントニン(駆虫剤)の黄視症をおろそかにしていたのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
が、二葉亭は極めて狷介な負け嫌いであると同時にまた極めて謙遜けんそんであって、如何いかなる人に対しても必ず先ず謙虚しておしえを待つの礼をおろそかにしなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そのくせ一字一劃をおろそかにしない文楽の小心さ几帳面さは吉右衛門を思わせ、志ん生のいい気な図太さは六代目に似かよっているのだからなかなかおもしろい。
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
だがかくまでに紙をおろそかにあしらう暮しに、幸福があらうか。物を疎かに扱ふ心は、避けられるだけ避けたい。道徳のためにも美のためにも、望ましいことではない。
和紙の美 (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)
彼は、その夜、夜を徹して俊寛に帰洛きらくを勧めた。平家に対する謀反の第一番であるだけに、鎌倉にある右府うふどのが、僧都の御身の上を決しておろそかには思うまいといった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ただ表面うわべに現われて居る傾向だけをもって、あるいはツァンニー・ケンボその人の心算しんさん計画がうまく図に当って居るところだけに眼を着けて内部の事情をおろそかにすると
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ギャット産れてからこれまでにするにアあだおろそかなこっじゃア有りません。子を持てば七十五たび泣くというけれども、このこってはこれまで何百度泣たか知れやアしない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
だ英国の現代の婦人は日本の婦人よりも更に切迫した過渡期に遭遇して居る。其れが為に容姿の美をおろそかにする迄に賢くならうとして居るのが悲惨である。(七月二日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
仏教では俗諦すなわち世間的の知識経験を非常に重大視し、これを欠くべからざる必要物としますが、なおその上に真諦すなわちものの真実を確認することをおろそかにしません。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
晩方になると、きっとお仕着せを飲ませることにきまっている父親への、酒の支度をおろそかにしたといって、小野田がその時も大病人のように二階に寝ていたお島に小言をいった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
選挙権をおろそかにしたる報いはたちまち国民自身の頭上に落ち来り、種々なる悪弊の惨禍さんかこうむらねばならぬ。その時になって、国民は不平を鳴らしても苦痛を訴えても追付くものでない。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
名所旧蹟の探訪におろそかでもあったが、今度はひとつその辺から瑞巌寺の規模を見直すかな、城としての寺の構造、要害としての地形を、明日になったらもう一ぺん見直してみよう。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
折角の深い交際がおろそかになったり、恩義ある人に悪感を抱かせたり、又は大切の得意を失策しくじったりして、後悔ほぞむ共及ばぬような大事件が出来しゅったいするその最初の一刹那なのである。
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
品川では軍艦ふねの方が大のお花客とくいでげすから、花里もその頃はまだ出たてゞはございますし、人々から注意をうけておろそかならぬ※待もてなしをいたしたので、海上も始終しょっちゅう通ってられましたが
だから、このなが片歌かたうたは、短歌たんか歴史れきしうへから、おろそかに出來できない材料ざいりようであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
余談ではあるが、ファンとしておろそかにすべからざる心得を一つ申し上げておく。
斯かるなげきを見參らする小子それがしが胸の苦しさは喩ふるに物もなけれども、所詮浮世と觀じては、一切の望に離れし我心、今は返さんすべもなし、忠孝の道、君父の恩、時頼何としておろそかに存じ候べき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
けれども居士の事であるから決して俳句の方をおろそかにするではなかった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一日たりともおろそかに放念していたことはありませんが、何分常に他の画債にわれ通しまして、もしかそういう作品にちょっとでも手を着けようものなら、忽ち精進一途の心が二つに割れまして
そして私はナオミの愛におぼれてはいましたけれど、会社の仕事は決しておろそかにしたことはなく、依然として精励恪勤せいれいかっきんな模範的社員だったので、重役の信用も次第に厚くなり、月給の額も上って来て
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「なるほど、これはよい勘考かんがえだ」晴信は嬉しそうに頷いたが、「大事な智恵をこれで二度まで俺はお前に借りている。おろそかには思わぬぞよ」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おろそかに聞いているから起ったことだ。もとの民子はそうでなかった。得手勝手な考えごとなどしているから、人の言うことも耳へ這入はいらないのだ……
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
おろそかにしないまでも、狭くては、充分でないものをも結構と心得て飛んだ手落ちをするようなことを生ずる。これは心得べきことだと感じたことであった。
その頃のことを思えば、あだおろそかに出来ない。しかし妻はいつまでも求婚当時の心持でいて貰いたいというのだから、要求が大き過ぎる。何分十二年たっている。
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さういつた風に余り髯を大事にし過ぎるので、自然仕事の方はおろそかになつて、店はびれる一方だつた。
お嬢様が見ていらつしやらないと思つて用事をおろそかにすると云ふやうな告口つげぐちがされて居ました。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
立て込んでいる髪結いで待たされたり、風呂に行ったりすると、化粧がお座敷の間に合わないこともあり、小説にふければ自然日課がおろそかになるという理由もだが、元来が主人が無智で
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ずさんだよ支倉君、君は検事のくせに、病理的心理の研鑽をおろそかにしている。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
科学の力はだんだん進歩して来ていますが、それは詩の世界とは関係が薄いのであります。人間を描く文学も結構でありますが、宇宙の諸現象を謡う詩もまたおろそかにすべきものではありますまい。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
江戸でも近代の市井しせい学者の中には、俳諧を無意識の世相史料として、利用した人が幾人もあったが、どういうわけでかこの俳風の変化ということに、注意を払うことがおろそかであったように思われる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
夫れ一言半句いちごんはんくおろそかにすることなく、含味熟読がんみじゅくどくあらむことを。
発明小僧 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
何にしても蔵元屋ではあだおろそかには出来ぬお客じゃけにのう。
化物ばけもの沙汰に心を奪われ商売の方をおろそかにしては商人あきゅうど冥利に尽きるというものだ——それでは今夜参ると致そう」
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そばについていないと承知しないような状態でしたから、つい会社の方がおろそかになりました。三月ぶりで出勤しましたら、君は会社の仕事よりも奥さん奉仕が大切だいじなんだろうと課長が皮肉を
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのころに、銀子は製菓会社の社長永瀬ながせに、別の出先で時々呼ばれ、若林よりずっと年輩の紳士だったので、何かしっくりしないものを感じ、どうかと思いながら、おろそかにもしなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
家政をおろそかにした婦人は選挙の時にさえ一人もなかったといいます。
婦人改造と高等教育 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
ましてその人は家のためまた大事な父のためにはおろそかならぬ恩人である。——で、一眼見たその時から、お露は葉之助にとらえられた。時が経つにしたがってその恋心は募って行った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それにもかかわらず大殿様はじめ若殿様におかれましても、昔通りご重用ちょうようくだされ、家中の者もこの老人をおろそかに扱おうとは致しませぬ。これ皆君家のご恩であること申し上げるまでもござりませぬ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)