準備したく)” の例文
もう明日あすの朝の準備したくをしてしまって、ぜんさきの二合をめるようにして飲んでいた主翁ていしゅは、さかずきを持ったなりに土間の方へ目をやった。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『十五日は、両使、増上寺へ御参詣ごさんけいの日であるぞ。諸事、準備したくはよろしいか。明十三日、高家の下検分があろう。手ぬかりするなよ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は町の方へ家を移そうと考えた。そのゴチャゴチャした響の中で、心をまぎらわしたり、新規な仕事の準備したくに取掛ったりしようと考えた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
若者わかものこころよけ、ただちにその準備したくにかかりました。もっと準備したくってもべつにそううるさい手続てつづきのあるのでもなんでもございませぬ。
と返辞して大囲炉裏の前に、蝋燭を立て、猟士や宿の人たちと、車座になって飯を済ます、準備したくも整って出かけると、雨になった。
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
隣の老人は何の準備したくもして来なかつた。酒も飯も黙つて御馳走になつて居た。それも困つて居るからだと主婦は思つて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
荷馬車はもう準備したくが出来てゐて、権作はかかあに何やら口小言を言ひながら、脚の太い黒馬あをを曳き出して来て馬車に繋いでゐた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ロレ おくらせられい。……内室おくがたも一しょにらせられい。……パリスどのにも。……いづれも亡姫なきひめ隨行ともをして墓場はかば準備したくをなされ。
昼間のうちに、あんな準備したくをしておいて、夜になって、交通その他の活動が鈍くなるころに、この静かな暗い穴倉で、望遠鏡の中から、あの目玉のようなものをのぞくのです。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暴風雨のために準備したく狂いし落成式もいよいよ済みし日、上人わざわざ源太をびたまいて十兵衛とともに塔に上られ、心あって雛僧こぞうに持たせられしお筆に墨汁すみしたたか含ませ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
子供達はお宮の森の、とある広ツぱへ集つて、いろいろとお祭のお準備したくをしてゐました。
女王 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「そうそう、有理もっともだ、すぐ準備したくをしてくれ。ジャンや、お前も一緒に食べるがいい」
(新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
のみならず、結納まで済んだ話が、寝返りを打たれそうになっている事なぞはツイこの頃まで気付かずにおったらしく、騒動の起ったその日までコツコツと祝言の準備したくをしておった様子。
私の乳母さえも年役に、若い女のともすれば騒ぎたがるのをしかりながらそわそわ立ち働いていて私をば顧みることが少なくなった。出産の準備したくに混乱した家の中で私は孤独ひとりをつくづく淋しいと思った。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
これはそれまでにめいめいその準備したくをしていることではあるが、持合せのないもの、または当夜に限って必要なもの、たとえば槍、薙刀なぎなた、弓矢の類を始めとして、おのかすがい玄能げんのう懸矢かけや竹梯子たけばしご細引ほそびき
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「それから、三十分位の演説だつたら、先づ用意に一週間といふ所です。もしか喋舌しやべれるだけ喋舌つてもいいといふのだつたら、それには準備したくなぞ少しも要りません。今直ぐにと言つて、直ぐにでも喋舌れます。」
家を持つ準備したくをする為には、きまった収入のある道を取らなければ成らなかった。彼は学校教師の口でも探すように余儀なくされた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
酒宴さかもり準備したくをして数多たくさんの料理を卓の上へ並べた室が見えた。元振はその室の入口へ立って中を窺いた。そこにも人影がなかった。
殺神記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
明日あす大楠山おおくすやま巻狩まきがりじゃ』などと布達おふれると、乗馬じょうば手入ていれ、兵糧へいろう準備したく狩子かりこ勢揃せいぞろい、まるで戦争いくさのような大騒おおさわぎでございました。
今しもその、五六軒彼方かなたの加藤医院へ、晩餐ゆふめし準備したくの豆腐でも買つて来たらしい白い前掛の下婢げぢよ急足いそぎあしに入つて行つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「さてはみずから火を放って、城兵のこらず一手となり、城を出て斬り死にせんの準備したくと見ゆるぞ」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
氷も菓子も麦酒びいる饂飩うどんも売る。ちょっとした昼飯ぐらいは食わせる準備したくもできている。浪花節も昼一度夜一度あるという。この二三日梅雨つゆがあがって暑くなったので非常に客があると聞いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そうしてあくる朝、まだ太陽の出ないうちに種々いろいろ準備したくをすっかり整えまして、一ツの船には布で巻いた二人の潜り手、それからもう一ツの船には長い綱を積み、それから村中有りりの船を皆
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
暴風雨のために準備したく狂ひし落成式もいよ/\済みし日、上人わざ/\源太をび玉ひて十兵衞と共に塔に上られ、心あつて雛僧こぞうに持たせられし御筆に墨汁すみしたゝか含ませ、我此塔に銘じて得させむ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
復た彼は旅の準備したくにいそがしかった。彼は小泉の家から離れようとした。別に彼は彼だけの新しい粗末な家を作ろうと思い立った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
皆が黙っているうちに準備したくが出来て、幡半の婢がそれぞれ皆、前へ肴を執りわけてくれたが、それもやっぱり五人前であった。
とんだ屋の客 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お八重は、もう全然すつかり準備したくが出來たといふ事で、今其風呂敷包は三つとも持出して來たが、此家こゝの入口の暗い土間に隱して置いて入つたと言ふ事であつた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
現界げんかいではいよいよ御霊鎮みたましずめのりかかった。そなたはすぐにその準備したくにかかるように……。』
船の準備したくがやがて出来た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
夕飯の後、蓮華寺では説教の準備したくを為るので多忙いそがしかつた。昔からの習慣ならはしとして、定紋つけた大提灯おほぢやうちんがいくつとなく取出された。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
彼女は小半時も其処に坐ってから、やっと夕飯の準備したくにかかった。微暗くなったへっついの下には、火がちょろちょろと燃えた。
地獄の使 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お八重は、もう全然すつかり準備したくが出来たといふ事で、今其風呂敷包は三つとも持出して来たが、此家ここの入口の暗い土間に隠して置いて入つたと言ふ事であつた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
侍女やばあや達が集まってきて酒の準備したくをした。そこで広いとこの上に小さな几を据えて二人がさし向いで酒もりをした。魚は
竹青 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『あゝ日があたつて来た、』と音作は喜んで、『先刻さつき迄は雪模様でしたが、こりや好い塩梅あんばいだ。』斯う言ひ乍ら、弟と一緒に年貢の準備したくを始めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その宿直室には、校長の安藤が家族——さいと二人の小供——と共に住んでゐる。朝飯あさめし準備したくが今漸々やうやう出来たところと見えて、茶碗や皿を食卓ちやぶだいに並べる音が聞える。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
準備したくが出来ると老人はそれを焦生にすすめた。女の子は母の傍に坐っていた。若い焦生は女の子の方に心をやっていた。
虎媛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
代議士の候補者に立つものは、そろ/\政見を発表する為に忙しくなる時節。いづれ是人も、選挙の準備したくとして、地方廻りに出掛けるのであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
家に歸ると、母は勝手に手ランプを點けて、夕餉の準備したくに急はしく立働いてゐた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
客は皆起きて出発の準備したくをしはじめた。ちょっとの間うとうととしていた季和は、その物音に気がいて起きた。
蕎麦餅 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三吉は兄に金をつかわせることを心苦しく思った。結婚の準備したくもなるべく簡単にしたい、借金してまで体裁をつくろう必要は無い、と思った。小泉実はそれでは済まされなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『怎してつて、昨晩ゆべな聞いだら、源助さん明後日あさつて立つで、早く準備したくせツてゐだす。』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
女は迎えに出てきたじょちゅうに言いつけて酒の準備したくをさした。女はすこし離れている間に濃艶な女になっていて、元のようなおどおどした可憐な姿はなかった。
荷花公主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この縁談がまとまるにつけても、お俊の親に成るものは森彦と三吉より他に無かった。森彦の発議で、二人はお俊の為に互に金を出し合って、一通りの結婚の準備したくをさせることにした。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『怎してつて、昨晩ゆべな聞いたら、源助さん明後日あさつて立つで、早く準備したくせツてゐたす。』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「皆彼方へ往って、客人を饗応もてな準備したくをするが好い、客人にはそれまでに、ちょっと御目にかけるものがある」
人面瘡物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何等の遠いおもんぱかりもなく、何等の準備したくもなく、ただただ身の行末を思い煩うような有様をして、今にも地に沈むかと疑われるばかりの不規則な力の無い歩みを運びながら、洋服で腕組みしたり
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
此一瞬からである、『パペ、サタン、パペ、サタン、アレツペ』の声のはたと許り聞えずなつたのは。女教師は黙つて校長の顔を見て居る。首席訓導はグイと身体をもぢつて、煙草を吸ふ準備したくをする。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「こうして御厄介をかけるうえは、拙者の身のうえも、病気の原因も打ち開ける所存でござるが、まあまあ、其処許がゆっくり準備したくを済ましてからにしよう」
人面瘡物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お町はもうっていた。お町は一方の戸棚をけて準備したくにかかった。広巳はそのままぼんやりとしていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小八は風呂敷包の中から着更の単衣ひとえを出してそれを着、手荷物や笠などはその儘にして出かけようとする時、小八の準備したくするのを黙って見ていた主翁が口を出した。
立山の亡者宿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)