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みずばな
ふりがな文庫
“
水洟
(
みずばな
)” の例文
マ氏、もう酔いざめか、しきりにハンケチで
水洟
(
みずばな
)
を拭く。訊いてみると、じつはおとといあたりから風邪をひいていたのだと答える。
随筆 新平家
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と、女は
水洟
(
みずばな
)
をすすると一緒に唇から
沁
(
し
)
み入る涙をぐっと
嚥
(
の
)
みこんだらしかったが、同時に激しくごほんごほんと
咳
(
せき
)
に
咽
(
むせ
)
んだ。
母を恋うる記
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
僅かに
馬士歌
(
まごうた
)
の哀れを止むるのみなるも改まる
御代
(
みよ
)
に余命つなぎ得し白髪の
媼
(
おうな
)
が
囲炉裏
(
いろり
)
のそばに
水洟
(
みずばな
)
すゝりながら孫
玄孫
(
やしゃご
)
への語り草なるべし。
東上記
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
モセ嬶は、がっかりして、泥のついた手で
水洟
(
みずばな
)
をこすりながら、鼻の下を黒くして、「なじょにして爺様を
喫驚
(
びっくり
)
させべ?」
芋
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
「ああ
佳
(
い
)
い気もちだ、人間どもは、
逢
(
あ
)
う者も逢う者も、首をすくめ、
水洟
(
みずばな
)
をたらして、不景気な顔をしているが、ぜんたい、どうしたと云うのだ」
火傷した神様
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
▼ もっと見る
水洟
(
みずばな
)
が出た。頭がびんびんし、足に力がなかった。空腹はなおったが、酔がさめたとみえて酒が欲しい。躯がばかに震え、がちがちと歯が鳴った。
七日七夜
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
わしは
水洟
(
みずばな
)
をすすり、炭をつぎ足すために炭取りに手をのばす。婆やが
夜具
(
やぐ
)
を落す音が、重く心にのしかかって来た。
面
(新字新仮名)
/
富田常雄
(著)
「初めて」熱いものを鼻先にもってきたために、
水洟
(
みずばな
)
がしきりなしに下がって、ひょいと飯の中に落ちそうになった。
蟹工船
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
「君は何か誤解しているらしいが、——誤解が晴れないようだが」
水洟
(
みずばな
)
をすすって幾分どもりながら私は言った。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
慌
(
あわただ
)
しい年の暮、頼まれた
正月着
(
はるぎ
)
の仕立に追われて、夜を
徹
(
てっ
)
する日々が続いたが、ある夜更け、豹一がふと眼をさますと、スウスウと
水洟
(
みずばな
)
をすする音がきこえ
雨
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
頭の頂辺の禿げかかった所に日があたって、薄い毛の間からぴかぴか光っていて、その頭一面にもーっと湯気を立てて、しっきりなしに
水洟
(
みずばな
)
をすすってるんです。
香奠
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
反対に彼の顔は流るる汗と
水洟
(
みずばな
)
に汚れ
噎
(
む
)
せて、
呼吸
(
いき
)
が詰まりそうになるのを、どうする事も出来ないながらに、彼は子供の手前を考えて、大急ぎに斜面を登るべく
木魂
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
手の甲で
水洟
(
みずばな
)
をふきながら首をすっ込めて窓をしめると、
何処
(
どこ
)
かの家の時計が二時を打ち、
斜
(
ななめ
)
に傾きかけた
日脚
(
ひあし
)
はもう路地の中には届かず二階中は急に薄暗くなった。
雪解
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
「へ、どんなもんで、」と今度は
水洟
(
みずばな
)
をすすり上げた
握拳
(
にぎりこぶし
)
、元気かくのごとくにしてかつ
悄然
(
しょうぜん
)
たり。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そのかたわらに見るから
憐
(
あわ
)
れをもよおすような、病みやつれた六十ばかりの
老爺
(
おやじ
)
、下草にべったりと両手をつき、
水洟
(
みずばな
)
をすすりながら、なにかクドクドとくり言をのべている。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
五月の末だったが、その日はひどく冷気で、空気がじとじとしており、鼻や気管の悪い彼はいつもの癖でつい
嚔
(
くさめ
)
をしたり、ナプキンの紙で
水洟
(
みずばな
)
をふいたりしながら、パンを
毮
(
むし
)
っていた。
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
私はハンカチで
水洟
(
みずばな
)
を押えながら、無言で歩いて、さすがに浮かぬ
心地
(
ここち
)
でした。
美男子と煙草
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
水洟
(
みずばな
)
を
啜
(
すす
)
りあげながら、なおも来る夜来る夜を頑張り続けた。さりながらその
甲斐
(
かい
)
は一向に現われず、
焦燥
(
しょうそう
)
は日と共に加わった。珠子とあの仇し男とは、余程巧みに万事をやっているらしい。
大脳手術
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
経文へ老僧
水洟
(
みずばな
)
ぽとりぽとり
鶴彬全川柳
(新字旧仮名)
/
鶴彬
(著)
犬はタジタジとして少し
後退
(
あとず
)
さったが、この猛獣が唸りすぎて、
水洟
(
みずばな
)
を垂らしたので、甘く見たか、忽ち効果がなくなってしまう。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
うつ向いていると
水洟
(
みずばな
)
が自然にたれかかって来るのをじっとこらえている、いよいよ落ちそうになると思い切ってすすり上げる、これもつらかった。
花物語
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
口髭の先に
水洟
(
みずばな
)
が光って、埃も溜っているのは、寒空の十町を歩いて来たせい許りではなかろう。
世相
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
大勢に取り捲かれて、巡査の前の地べたに坐った按摩は、
水洟
(
みずばな
)
をこすりこすりこう申し立てた。
いなか、の、じけん
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
例のくしゃみをしたときに鼻風邪をひいたとみえ、杢助はずっと
水洟
(
みずばな
)
に悩まされていた。
似而非物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
コン吉とタヌが
旧港
(
ヴィユ・ポオル
)
に近い
旗亭
(
レストオラン
)
の露台で名代の
香煎魚羮
(
ブイヤベイス
)
を喰べ、さて次なる
牛肉網焼
(
シャトオブリアン
)
を待っていると、手近な窓から、見るも無惨に
痩
(
や
)
せ果てた牛が首を差し入れ、
水洟
(
みずばな
)
をすすりながら
ノンシャラン道中記:06 乱視の奈翁 ――アルル牛角力の巻――
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
どうやら寝てもいられないような気がして兼太郎は
水洟
(
みずばな
)
を
啜
(
すす
)
りながら起上った。
雪解
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
三郎はその支那の君子人の言葉を
水洟
(
みずばな
)
すすりあげながら
呟
(
つぶや
)
き呟き、部屋部屋の柱や壁の
釘
(
くぎ
)
をぷすぷすと抜いて歩いた。釘が十本たまれば、近くの屑屋へ持って行って一銭か二銭で売却した。
ロマネスク
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
すぐ下がってくる
水洟
(
みずばな
)
を何度も何度もすゝり上げていた。
工場細胞
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
初三郎爺が
水洟
(
みずばな
)
を押し拭いながら言った。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
将門は、大きな味方を得たように、弟たちの一語一語を、うなずきで受けては、だらしなく、鼻のあたまの涙を、
水洟
(
みずばな
)
と一しょに、こすっていた。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「なにをぬかす、くそ野郎、鬼は鬼でもただの鬼じゃあねえ、赤鬼さまだぞ」松田は涙と
水洟
(
みずばな
)
を横撫でにしながら、万吉の肩に
凭
(
もた
)
れかかった、「ああ酔った、肩を貸せ、このかぼちゃ野郎」
さぶ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
近所の小供たちも、「おっさん、はよ
牛蒡
(
ごんぼ
)
揚げてんかいナ」と待てしばしがなく、「よっしゃ、今揚げたアるぜ」というものの
擂鉢
(
すりばち
)
の底をごしごしやるだけで、
水洟
(
みずばな
)
の落ちたのも気付かなかった。
夫婦善哉
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
てのひらで
水洟
(
みずばな
)
を何度も拭った。ほとんど足の真下で滝の音がした。
魚服記
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
涙も
水洟
(
みずばな
)
もいっしょくたにこすりたてながら、三十郎の手を取ろうとして慌てて乗り出したはずみに土間へころんと転げ落ち、そこへ坐っておばあさんと手を取り合ってしどろもどろに泣きだした。
生霊
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
と淀みなく言ううちに涙ぐんだ赤んべえ面を上げて
水洟
(
みずばな
)
を一つコスリ上げた。それだけでもチョッと人を舐めているらしく見える。松倉十内国重は、今更のように肩を怒らして銀
煙管
(
ぎせる
)
を膝に取った。
狂歌師赤猪口兵衛:博多名物非人探偵
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
と云うのは、すでに、
病
(
やまい
)
があって、鼻腔が
弛鈍
(
しどん
)
になっていたせいであろう。茶の中へ一滴の
水洟
(
みずばな
)
をこぼしたのである。
大谷刑部
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「そんな気のない顔をしないでよ、これからくやしい話になるんだから」と栄子は酒を
呷
(
あお
)
って
咽
(
む
)
せ、
咳
(
せ
)
きこみながら二つも三つもくしゃみをし、涙と
水洟
(
みずばな
)
をたらし、それを浅草紙で乱暴に拭いてから
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
水洟
(
みずばな
)
の垂れるのも知覚しないで、おののいているのもあるし、もう死の
坑
(
あな
)
をのぞいているように、小鼻を白くして、涙のすじを描いている顔もある。
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「そんな気のない顔をしないでよ、これからくやしい話になるんだから」と栄子は酒を
呷
(
あお
)
って
咽
(
む
)
せ、
咳
(
せ
)
きこみながら二つも三つもくしゃみをし、涙と
水洟
(
みずばな
)
をたらし、それを浅草紙で乱暴に
拭
(
ふ
)
いてから
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
濠
(
ほり
)
の水に背を向けて、二人は寒そうに
佇
(
たたず
)
んだ。昼間から
注
(
つ
)
ぎこんでいた酒も、この濠端に立つとひとたまりもなく吹き飛んで、鼻の先に
水洟
(
みずばな
)
が凍りつく。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかし、それが止むと、
水洟
(
みずばな
)
をすするのがもれるだけで、木工助家貞の声とては、
一言
(
ひとこと
)
も聞こえなかった。
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
海辺
(
うみべ
)
の
堤
(
どて
)
の上を、露八とお菊ちゃんと、まだ暗い雑草の霜をふんでとぼとぼと歩きだした。酒の
醒
(
さ
)
めたせいか、急に風の冷たさが身にこたえて、
水洟
(
みずばな
)
が出てきた。
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ボロ
布
(
きれ
)
と
垢
(
あか
)
と
水洟
(
みずばな
)
と眼ヤニにまみれた骨ばかりの人々が、朝は暁天から
蟻
(
あり
)
のごとくゾロゾロ出てゆき、夕には疲れた煙のように、どんよりと
簇
(
むらが
)
り戻ってきて、やがて眠る。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
垢
(
あか
)
びかりした黒い
袍
(
ほう
)
に幅広な平帯の房を横に垂れ、
反
(
そ
)
りの強い
象牙柄
(
ぞうげづか
)
の刀を
佩
(
は
)
いて、
半月靴
(
はんげつか
)
の足の先をやたらに右や左と交互に
刎
(
は
)
ね上げ、そして
喋
(
しゃべ
)
る間に
水洟
(
みずばな
)
をすすッたり
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その辺の川ぞいには、同じ
売卜者
(
ばいぼくしゃ
)
の露店が三、四軒、名ばかりの机をならべ、各〻
水洟
(
みずばな
)
をすすッていたので、
自
(
おのずか
)
ら出る愚痴のつぶやきに、自ら答えて来る哀れな声があります。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
忽ち、空箱の机や日月
星晨
(
せいしん
)
の幕をおろして、
後
(
あと
)
に
水洟
(
みずばな
)
をすすッている同業の先生達へ
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
二月の風は
水洟
(
みずばな
)
をそそる。この地方はまだ春も浅い。ひろい畑は吹きさらしている。
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
箸の先に
水洟
(
みずばな
)
がたれるのも思わなかった。浅ましいというなかれ。無上大歓喜即
菩提
(
ぼだい
)
。人間とは、こんな
小
(
ささ
)
やかな瞬間の物にもまったく満足しきるものだった。痛い、
痒
(
かゆ
)
いも覚えない。
大岡越前
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
冬のように
閉
(
と
)
じ
籠
(
こも
)
っていた頼政は、稀に世間の空も見たくなって、さっきから庭ごしに、河原の水や、京の四山の若葉を見ているうちに、もう老骨に風が
沁
(
し
)
みて、咳が出る。
水洟
(
みずばな
)
が出る。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
心蓮は、
水洟
(
みずばな
)
をこすって
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
水
常用漢字
小1
部首:⽔
4画
洟
漢検1級
部首:⽔
9画
“水”で始まる語句
水
水際
水底
水溜
水上
水面
水晶
水嵩
水車
水瓶