)” の例文
老い衰えて安楽に隠れむつもりのない彼は、寂しく、悲しく、血のわく思いで、ただただ黙然とおのれら一族の運命に対していた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
見れば、夜鴉のを根から海へ蹴落けおとす役目があるわ。日の永い国へ渡ったら主の顔色が善くなろうと思うての親切からじゃ。ワハハハハ
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
野干我が忠告を容れねば必ず兇事に遭わん獅より出て伸し欠し四方を見廻し三たび吼えて後汝の前に来り殺意を起すべしという
一旦ひとたび一四四樹神こだまなどいふおそろしきものむ所となりたりしを、わか女子をんなご一四五矢武やたけにおはするぞ、一四六老が物見たる中のあはれなりし。
我宗徒のこの神聖なる羅馬の市の一廓にまんことをば、今一とせ許させ給へ。歳に一たびは加特力カトリコオ御寺みてらに詣でゝ、尊き説法を承り候はん。
かきあつめむすぶうきの。風吹けば風にゆられ。波立てば波にゆられて。しまらくも安からなくに。そこにして卵子かひこは生りぬ。あはれその栖を。
長塚節歌集:1 上 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
山門の交衆きょうしゅをのがれて林泉のうちに幽かにんでいることは静かに仏道を修し、偏に仏道を行せんがためでございます。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「天狗の湯」はその名の如く、むかし天狗がんでいたところなのでしょう、とても幽邃ゆうすいの境地だというのです。
そのころ流沙河りゅうさがの河底にんでおった妖怪ばけものの総数およそ一万三千、なかで、かればかり心弱きはなかった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
二十三日、いえのあるじにともなわれて、牛の牢という渓間たにまにゆく。げにこのながれにはうおまずというもことわりなり。水のるる所、砂石しゃせき皆赤く、こけなどは少しも生ぜず。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
例えば家の背後に童子がんだという岩屋、それは崩れてその跡に清き泉き、流の末には十坪ばかりの空地あって、童子出生の地と称して永く耕作をさせなかった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
支那の伝説にホウといふ妖鳥がある。この妖鳥は雌のみで、雄がないと伝へられてゐる。生来多淫で衆鳥と交ることを求めるので、鴇のむ山には他に鳥影がないといふ。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
先頃からそれがしもつらつら思うに、枳棘叢中ききょくそうちゅう鸞鳳らんほうむ所に非ず——と昔からいいます。いばらからたちのようなトゲの木の中には良いとりは自然栖んでいない——というのです。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「女房のふところには鬼がむかじゃが栖むか」と云う文句を聞くと、それがいかにも性慾的にかけ離れてしまった女夫めおとの秘事を婉曲えんきょくながら適切に現わしているのに気づいて
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人々山にんで往来し、山に蹤跡あしあとが多かったがために、ヤマトと云うのだとか、大和には太古草昧の世、未だ屋舎あらず、人民ただ山に拠っていたが故に、ヤマトと云うなどと説明しているが
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
鶏頭はまた素朴な花で、隠れむ庭の隅などに咲くべきであらう。
秋草と虫の音 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
夜はふけぬねむりまどけき土間のに何鶏のかほか白う浮き居る
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
口寄巫女くちよせみこ洞穴ほらあな惡事まがごとをなすべき身なるに
み慣れし軒端がもとに、いこひゐるしづおきな
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
西の京にばけものみて久しく
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
繕ひし垣根めぐらし隠れ
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
人は云ふ ほう からたちむと
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わがいへの天井にねずみめり
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
カンボジア人言うは虎より出る時、何気なく尾が廻る、そのさきを見て向う所を占う(アイモニエー『柬埔寨人風俗迷信記ノート・シユル・レ・クーツーム・エ・クロヤンス・スペルスチシヨース・デ・カンボジヤン』)。
おのれは俸禄ほうろくに飽きたりながら、兄弟はらから一属やからをはじめ、六七みおやより久しくつかふるものの貧しきをすくふわざをもせず、となりにみつる人のいきほひをうしなひ
そのさまあたかも未だ巨人島にわたらぬガリワルの如く、また未だガリワルを見ざる「リリピユウシヤン」の如く、ゐのこを抱いて臭きことを忘れ、古井の底にみて天をうかゞふ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ネズミという日本語の語原を、根の国にむ者の義ならんと説いたのは、新井白石先生が始めのようにいうが、簡単な思いつきだから、前にもそう解した人が無いとは限らぬ。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いかに行く先々で愚弄ぐろうされわらわれようと、とにかく一応、この河の底にむあらゆる賢人けんじん、あらゆる医者、あらゆる占星師せんせいしに親しく会って、自分に納得なっとくのいくまで、教えをおう
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
まことに宜給ふ如し。されどそを憂へずして、彼家々にめる人の笑ひ樂みて日を送れるこそ神の惠ならめ。神はあはれむべき人類のために、おそろしき地下のさまを掩ひ隱し給ふとおぼし。
なるほど、水の流れ、山のたたずまい、さも落人おちうどみそうな地相である。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
土間のも夕寒むからしまだいねでかさみおぼめくうつつ家禽いへとり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
み慣れし軒端がもとに、いこひゐるしづおきな
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
我はねずみと共にめるなり
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
現に紀州では神社合祀ごうしを濫行し神林を伐り尽くして有益鳥類を失い、ために害虫おびただしく田畑にはびこり、霞網などを大枚出して買い入れ雀を捕えしむるに、一
流石さすがに信濃の国なれば、鮒をかしらにはあらざりけり、屋背うしろの渓川は魚まず、ところのものは明礬めんばん多ければなりという。いわなの居る河は鳳山亭より左に下りたる処なり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
をり々あの家にゆきて、せ給ふ人の一三五菩提ぼだいとぶらはせ給ふなり。此の翁こそ月日をもしらせ給ふべしといふ。勝四郎いふ。さては其の翁のみ給ふ家は何方いづべにて侍るや。あるじいふ。
とりのくらき梯子にのぼりて寝て七面鳥は下寒むからむ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
鬼がむ國。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
広大な沙漠に人む天幕を尋ね当て、曠野に混雑する音響を聞き分けて、敵寇の近づくを知り、終日飲食せずやすまず走りて主人を厄より脱し、旅を果さしむるからだ。
唯彼猿はそのむかしをわすれずして、猶亜米利加の山にめる妻のもとへふみおくりしなどいと殊勝しゅしょうに見ゆるふしもありしが、この男はおなじさとの人をもえびすの如くいいなしてあざけるぞかたはらいたき。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
鬼がむ国。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
島はよしやつらい所でも、鬼のむ所ではございますまい。わたくしはこれまで、どこと云つて自分のゐて好い所と云ふものがございませんでした。こん度お上で島にゐろと仰やつて下さいます。
高瀬舟 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)