智識ちしき)” の例文
一體きれの長い、パツチリした眼で、表情へうじやうにもむでゐた。雖然智識ちしきのある者と智識のない者とは眼で區別することが出來る。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
わたしたちが、子供こどものころから、したしみなれてきた一休いっきゅうさんは、紫野大徳寺むらさきのだいとくじ、四十七代目だいめ住職じゅうしょくとして、天下てんかにその智識ちしき高徳こうとくをうたわれたひとでした。
先生と父兄の皆さまへ (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
この良心の基礎から響くような子供らしく意味深げな調を聞けば、今まで己のうなじ押屈おしかがめていた古臭い錯雑した智識ちしきの重荷が卸されてしまうような。
もちまへ疳癪かんしやくしたるえがたく、智識ちしきぼうさまが御覽ごらんじたらば、ほのほにつゝまれて黒烟くろけふりにこゝろ狂亂きやうらんをりふし、こともいふことかね敵藥てきやくぞかし
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
学問がくもん智識ちしき富士ふじやまほどツても麺包屋ぱんやには唖銭びた一文いちもん価値ねうちもなければ取ツけヱべヱは中々なか/\もつてのほかなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
因襲なんぞからきたった智識ちしきを自分に応用せずに、初めて人間として生れて来たもののように振舞うのですね。
「泰安さんは、そののち発憤して、陸前りくぜん大梅寺だいばいじへ行って、修業三昧しゅぎょうざんまいじゃ。今に智識ちしきになられよう。結構な事よ」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此等これらの事を考へなければ本当の智識ちしきとは言へんとふ事ださうでございます。随分ずゐぶん悟道さとりはうには
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかしもう大分それを見せられた時よりは智識ちしきが加わっているのだから、その時よりはく分った。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お父さんの以南いなんは栄蔵に学問をさせ智識ちしきをつけて、名主の職をつがせねばならないと考へた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
国銅を尽して象をとかし、大山を削りて以て堂を構へ、広く法界ほつかいに及ぼして朕が智識ちしきとなす、つひに同じく利益りやくかうむりて共に菩提ぼだいを致さしめん、れ天下の富をつ者は朕なり
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
軍事施設について智識ちしきのない僕でも、次に何事が計画されているか、実行されるかという事を朧気おぼろげながら推察することが出来ました。これこそわが大日本帝国だいにほんていこくの一大事である。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
人にしても、辞令じれいたくみ智識ちしき階級の狡猾ずるさはとりませんが、小供こどもや、無智むちな者などに露骨ろこつなワイルドな強欲ごうよく姦計かんけい見出みいだす時、それこそ氏の、漫画的興味は活躍かつやくする様に見えます。
弓矢ゆみや使用しようは、諸人種に普通ふつうなるものにあらず。未開人民中みかいじんみんちうには今尚いまなほ之を知らざる者有り。此點このてんのみにいて云ふも、コロボックル、の智識ちしきけつしてはなはひくきものには非ざるなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
どうして、貴下あなた、さように悟りの開けました智識ちしきではございません。一軒屋の一人住居ひとりずまい心寂しゅうござってな。唯今ただいまも御参詣のお姿を、あれからお見受け申して、あとを慕って来ましたほどで。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてこれが自分じぶん智識ちしきしめすにはなは機會きくわいではなかつたが
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
格別の新しがらなくともあたらしい智識ちしきの洗礼を受けたのちの彼女の素直さと女らしい愛らしさと皓潔こうけつ放胆ほうたんがぎすぎすした理窟りくつ気障きざな特別な新らしがりより新らしいのでしょう。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いやなかなか機鋒きほうするどい女で——わしの所へ修業に来ていた泰安たいあんと云う若僧にゃくそうも、あの女のために、ふとした事から大事だいじ窮明きゅうめいせんならん因縁いんねん逢着ほうちゃくして——今によい智識ちしきになるようじゃ
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だからここに禅味などという問題を出すのは自分が禅を心得て居るから云うのではない。智識ちしきのかいたものに悟とはこんなものであるとあるからはたしてそんなものなら、こう云う人生観が出来るだろう。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)