数寄屋すきや)” の例文
旧字:數寄屋
茶室(数寄屋すきや)は単なる小家で、それ以外のものをてらうものではない、いわゆる茅屋ぼうおくに過ぎない。数寄屋の原義は「好き家」である。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
ある女は女史の代筆でなくてはならないとて、数寄屋すきや町の芸妓になった後もわざわざ人力車に乗って書いてもらいに来たという。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その間に、小林勘蔵は、もいちど役宅の同心部屋へ馳けてもどり、夜詰番へ、何かいいのこして、数寄屋すきや橋のたもとへ出て来た。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
学校の放課が四時、数寄屋すきや橋の橋畔にそそりたつ日東劇場まで電車で二十分。四時半にはすでに、五郎はそこの地下食堂の一隅に腰を下していた。
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「そういう口で、何で包むもの持って来ねえ。糸塚さ、女﨟様、くくったお祟りだ、これ、敷松葉の数寄屋すきやの庭の牡丹に雪囲いをすると思えさ。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勝子は数寄屋すきや橋を渡ると、五六台続いて横切る自動車を立止って待って、それから電車道を通り抜けて、滑らかな人道の上を静に銀座の方へ歩き始めた。
凍るアラベスク (新字新仮名) / 妹尾アキ夫(著)
政宗の方には何様いう企図が有ったか分らぬ。蒲生方では政宗が氏郷を茶讌ちゃえんに招いたのは、まさに氏郷を数寄屋すきやの中で討取ろう為であったと明記して居る。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
数寄屋すきや橋でえ様と思つて、くろみちなかに、待ちはしてゐると、小供をおぶつたかみさんが、退儀たいぎさうにむかふから近つてた。電車はむかがはを二三度とほつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
数寄屋すきや坊主は、各諸侯に接するとき、その殿様にいただいたお定紋じょうもんつきの羽織を着て出たもので。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ははあ、園遊会だな、と咄嗟とっさに思つたのはわれながら迂闊千万うかつせんばんで、正面の数寄屋すきやづくりの堂々たる一棟は、なんと大きな十字架を、わら屋根の上にそびえさせてゐるではないか。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
縄手なわての西竹と云う小宿へ行った。小ぢんまりとした日本宿だと人にきいていたので、どんな処かと考えていたが、数寄屋すきや造りとでも云うのだろう、古くて落ちついた宿だった。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
下へむいては茶かし顔なるし、名前は谷間田たにまだと人に呼ばる紺飛白こんがすり単物ひとえものに博多の角帯、数寄屋すきやの羽織は脱ぎて鴨居の帽子掛に釣しあり無論官吏とは見えねど商人とも受取り難し
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
千利休がある時昵懇なじみの女を、数寄屋すきやに呼び込んで内密話ひそひそばなし無中むちゆうになつてゐた事があつた。
数寄屋すきや町、同朋町どうぼうちょうの芸者やお酌が大勢来た。宴会で芸者を見たのはこれが始である。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
へえー……にかえ、貴方あなた神幸かみかうといふ立派りつぱ御用達ごようたしたいしたお生計くらしをなすつたおかたか……えーまアどうもおもけないことだねえ、貴方あなた家宅ところの三でふ大目だいめの、お数寄屋すきや出来できた時に
表にはご番士のひとりがちゃんと待ち構えていて、城中からほど遠からぬ数寄屋すきや造りの一構えに案内してくれましたものでしたから、まだ虚無僧姿のままの伝六の喜ぶこと、喜ぶこと——。
数寄屋すきやづくりののきの深い建物なので、日射しは座敷の中まで届かない。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
市内の安直なホテルとは異なって、門からしていきな数寄屋すきや作りの、名目も割烹かっぽう旅館とはいえ、連れ込み宿にはちがいない。そこへ波子が堂々と車をつけさせたときは、え? と俺はびっくりした。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
剃り立て頭に頭巾をかむり、無地の衣裳にお納戸色なんどいろの十徳、色の白い鼻の高い、眼のギョロリとした凄味すごみのある坊主、一見すると典医であるが、実は本丸のお数寄屋すきや坊主、河内山宗俊こうちやまそうしゅんが立っていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
数寄屋すきや橋の唐金からかね擬宝珠ぎぼしゅは、通行人の手ずれで、あかく光っていた。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
まことに泰平の盛事である。やがて群臣の小舟をつらねて、浜御殿へ休憩に上がり、数寄屋すきやで茶をのむ。茶事が終ってまた、広芝の浜座敷にくつろいだ。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
抱一ほういつ上人の夕顔を石燈籠いしどうろうの灯でほの見せる数寄屋すきやづくりも、七賢人の本床に立った、松林の大広間も、そのままで、びんちょうの火をうずたかく、ひれのあぶらる。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……そこで義敦はわざと書院では会わず、数寄屋すきやで侍女の浪江なみえに茶をたてさせながら、新九郎を呼んだ。
蕗問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
制しながら、名人は、疑問の赤、白、黄に染めた三つの玉と、金粉仕掛けのさいころを懐中すると、どこへ行くだろうと思われたのに、ずうと一本道にめざしたのは数寄屋すきや橋のお番所です。
数寄屋すきやがかりとでも言うのか、東山同仁斎にはじまった四畳半のこしらえ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
数寄屋すきや
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
数寄屋すきやで朝茶を一ぷく。久しく別れていた父子が水入らずの朝飯と見せて、勝入と嫡子の之助ゆきすけは、密談に他念なかった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに、湯島の家は雁屋で買い、数寄屋すきやの増築や、庭の造り変えなど、ずいぶん金をつぎこんだうえ、四人の召使をいれた家計も、ずっと雁屋でまかなっているようです。
いまこの数寄屋すきやへ入ると同時にハッと思ったのは、大坊主が古行燈の灯を銀の俵張の煙管きせるにうつして、ぷかぷかと吹かしていた処、やにを吸ったか、舌打して、ペッペッと憚らず蚊帳に唾を吐いた。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「——おやすいことではあるが、それにしても、書院か数寄屋すきやへでも、ちょっと、お上がりなされて……」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは別棟になった数寄屋すきやふうの離れで、二方に忍冬すいかずらの絡まった四つ目垣がまわしてあった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「こっちへ来い——」と、数寄屋すきやの縁へみちびいた。が、越前は、すでに再び、かれの側へも余り近づき得ない一役人を持していた。近づきはしても、平伏した。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
露路ふうの、敷石みちが、植込のあいだをゆるやかに曲って、数寄屋すきや造りの家の前へと、続いている。その家の玄関の左手に、網代あじろの袖垣があり、そこに一人の若者が、柴折戸しおりどをあけて待っていた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
特に数寄屋すきやめいた建物はない。席は書院であり、屏風びょうぶをめぐらして小間囲こまがこいを作ってある。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——これはすばらしい。庭園もいいが、水亭閣廊すいていかくろう、四門の造り、おまけにいき数寄屋すきやまで、どうしてこんな田舎にあるのか。さっそく義兄あにに話して、下屋敷におすすめしよう」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初更しょこうながら深沈とした奥庭、秋草や叢竹むらたけが、程よく配られた数寄屋すきやの一亭に、古風な短檠たんけいに灯をともしてパチリ、パチリ、と闘石とうせきの音……そして、あたりは雨かとばかりきすだく虫。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芝生の彼方に、またるいるいたる岩積みが見え、その上に、一亭の数寄屋すきやがある。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西側の数寄屋すきやである。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むね数寄屋すきやがある。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)