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恍惚
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こうこつ
ふりがな文庫
“
恍惚
(
こうこつ
)” の例文
童話の創作熱に魂の燃えた時に、はじめて、私の眼は、無窮に、澄んで青い空の色を
瞳
(
ひとみ
)
に映して、
恍惚
(
こうこつ
)
たることを得るのであります。
『小さな草と太陽』序
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
万有の光を放つ中に
恍惚
(
こうこつ
)
と伸び拡がって、おそらくおのれの精神のうちにいかなることが起こってるかを自ら知らなかったであろう。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
そしてまだそう
更
(
ふ
)
けぬうちに、いの字ヶ原の高原に立ち、ほっと息をつきながら、身を星の中に置いて、しばらく
恍惚
(
こうこつ
)
となっていた。
宮本武蔵:06 空の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
面倒臭く思つて伸びをしたり、または芸術といふ不思議な幻術が
牽
(
ひ
)
き入れる物憎い
恍惚
(
こうこつ
)
に
浸
(
ひた
)
つたりしてゐると兄はおづ/\入つて来る。
過去世
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
李はしばしば催してかつて遂げぬ欲望のために、徒らに精神を
銷磨
(
しょうま
)
して、
行住座臥
(
こうじゅうざが
)
の間、
恍惚
(
こうこつ
)
として失する所あるが如くになった。
魚玄機
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
▼ もっと見る
満面に
恍惚
(
こうこつ
)
とした笑みをうかべたまま、彼は奇声をあげ、いくども同じ手ぶり足ぶりをくりかえした。けたたましい声で笑いつづけた。
軍国歌謡集
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
奏する人をいよいよ
有頂天
(
うちょうてん
)
にならせると共に、さしもの聞き手を、ようやく陶酔と
恍惚
(
こうこつ
)
の境に入れようこと不思議と言わんばかりです。
大菩薩峠:37 恐山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
俺は近ごろ
足軽
(
あしがる
)
というものの
髯
(
ひげ
)
づらを眺めていて
恍惚
(
こうこつ
)
とすることがある。あの無智な力の美しさはどうだ。
宗湛
(
そうたん
)
もよい
蛇足
(
じゃそく
)
もよい。
雪の宿り
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
つつましく膝に置いて
俯向
(
うつむ
)
き加減にしている盲目の
㒵
(
かお
)
のあでやかさは一座の
瞳
(
ひとみ
)
をことごとく
惹
(
ひ
)
き
寄
(
よ
)
せて
恍惚
(
こうこつ
)
たらしめたのであった。
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
半次郎
(
はんじろう
)
が雨の
夜
(
よ
)
の怪談に始めてお
糸
(
いと
)
の手を取ったのもやはりかかる家の
一間
(
ひとま
)
であったろう。長吉は何ともいえぬ
恍惚
(
こうこつ
)
と悲哀とを感じた。
すみだ川
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
不可思議なる神境から
双眸
(
そうぼう
)
の底に
漂
(
ただよ
)
うて、視界に入る万有を
恍惚
(
こうこつ
)
の境に
逍遥
(
しょうよう
)
せしむる。迎えられたる賓客は
陶然
(
とうぜん
)
として園内に入る。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
帝劇のボックスに、夫人と肩を並べて、過した数時間は、信一郎に取っては、夢とも
現
(
うつつ
)
とも分ちがたいような
恍惚
(
こうこつ
)
たる時間だった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
彼は、地上の一切の力を集中させた或る
妖
(
あや
)
しい魔法の輪の中にいる自分を見、思い
傲
(
おご
)
った
恍惚
(
こうこつ
)
のなかで、自分をその輪の中心だと思った。
紅い花
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
初めの音律からもう老人は、
恍惚
(
こうこつ
)
となり、眼に涙を浮かべた。それは現在味わってる愉悦よりもむしろ、昔味わった愉悦のためであった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
また
上京
(
かみぎょう
)
の寝殿の
長押
(
なげし
)
にい崩れて、
柔媚
(
じゅうび
)
な東山を背にし、清澄な
鴨川
(
かもがわ
)
の水をひき入れた庭園に、
恍惚
(
こうこつ
)
としてながめ入る姿を描くのである。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
定基は其の
傍
(
かたえ
)
に昼も居た、夜も
臥
(
ふ
)
して、やるせない思いに、
吾
(
わ
)
が身の取置きも吾が心よりとは無く、ただ
恍惚
(
こうこつ
)
杳渺
(
ようびょう
)
と時を過した。
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
例の“富士や浅間”のくだりなど、わたしは実に
恍惚
(
こうこつ
)
として眺めていた。今日でも彼以上に達者に踊り抜く俳優はたしかにある。
明治劇談 ランプの下にて
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
恍惚
(
こうこつ
)
と神秘という以外には、用いる言葉も知らなかったのであった。しかも太子は少しも
勿体
(
もったい
)
ぶっていられるのではなかった。
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
そのあいだにグルーシェンカは『可愛いお手』に
恍惚
(
こうこつ
)
となっているような様子で、そろそろとそれを唇のほうへ持って行った。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
白昼夢に我を忘れ、
恍惚
(
こうこつ
)
として幻想にひたるのを好むものにとっては、海の旅はいろいろと瞑想するにもってこいのものごとで充満している。
船旅
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
昨日の午後、スコールが過ぎたあとの夕方、丘の上を騎乗していた時、突然、或る
恍惚
(
こうこつ
)
たるものが心を
掠
(
かす
)
めたように思った。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
魂の底から揺り上げるような感激にひたって、幾千の聴衆は
恍惚
(
こうこつ
)
として夢のような陶酔を追ったものだ。あれは実に不思議な
絃
(
げん
)
の魔術であった。
名曲決定盤
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
、
野村長一
(著)
そして彼の魂は、お前の金髪の、明るい、誇らかにも尋常な、小さい人格を、
恍惚
(
こうこつ
)
たる自己否定のうちに抱いていたのだ。
トニオ・クレエゲル
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
恍惚
(
こうこつ
)
として
瞳
(
ひとみ
)
を凝らしたりしが、にわかにおのれが
絡
(
まと
)
いし
毛布
(
ケット
)
を脱ぎて
被
(
き
)
せ
懸
(
か
)
けたれども、馭者は夢にも知らで
熟睡
(
うまいね
)
せり。
義血侠血
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
その際に
恍惚
(
こうこつ
)
たる想像を造り、もって人に厭わるるの端を開き、ついにみずから人を避けて独歩孤立の苦界に陥る者なり。
学問のすすめ
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
障子をあけるなら、あけるがいいと、俺は俺の
痴態
(
ちたい
)
をそこに客観的に見るおもいで、その短いいっときの
恍惚
(
こうこつ
)
を楽しんだ。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
恍惚
(
こうこつ
)
とした聴者たちは息をつくものもなかった。薄くにじむ涙を、そっと
拭
(
ふ
)
きとると、鼻をおさえているものもあった。
朱絃舎浜子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
少々の欠点があってもなお夕霧の心は
恍惚
(
こうこつ
)
としていたであろうが、見れば見るほど故人の
美貌
(
びぼう
)
の完全であることが認識されるばかりであったから
源氏物語:41 御法
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
ツアラトストラにとっては、これこそ、自我と現在との完全な意識であり「最高の勝利」、「ありとあらゆる征服の絶頂に立つ聖なる
恍惚
(
こうこつ
)
の一瞬」
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
花の
独奏
(
ソロ
)
はおもしろいものであるが、絵画、彫刻の
協奏曲
(
コンチェルト
)
となれば、その取りあわせには人を
恍惚
(
こうこつ
)
とさせるものがある。
茶の本:04 茶の本
(新字新仮名)
/
岡倉天心
、
岡倉覚三
(著)
そしてそれを読み終ったとき、私はまるで
恍惚
(
こうこつ
)
としているほどだった。私の胸の血は躍っている。ある力強い感動が私の全生命を高くあげていた。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
気高くしなやかな
身体
(
からだ
)
付きとは、人種と男女と老若の差別を問わず、満場を
恍惚
(
こうこつ
)
たらしむる資格を十分に持っている。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
ワグネルの或音楽をきくと若い
独逸
(
ドイツ
)
人は知らぬ間にポルーションを起すという。私にはその経験こそなけれ、其れに近い
恍惚
(
こうこつ
)
を感ずる事は事実である。
触覚の世界
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
そしてこの
恍惚
(
こうこつ
)
たる場面は、わたしが今そこへ向って急いで出かけようとしているあの真の夢の
郷
(
くに
)
のもっと奔放な光景に、わたしを適応させているのだ
しめしあわせ
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
ついそれを鼻の先に嗅ぐからに、反対にこちらが眠り薬に掛ったかの様、滝之助は
恍惚
(
こうこつ
)
として、つい鎌を取落した。
怪異黒姫おろし
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
まして
毀誉
(
きよ
)
に煩わされる心などは、とうに眼底を払って消えてしまった。あるのは、ただ不可思議な
悦
(
よろこ
)
びである。あるいは
恍惚
(
こうこつ
)
たる悲壮の感激である。
戯作三昧
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
いま
丁度
(
ちょうど
)
、休憩時間であるが、散歩廊下にも喫煙室にも食堂にも、「赤い苺の実」の
旋律
(
メロディ
)
を口笛や足調子で
恍惚
(
こうこつ
)
として追っている手合が
充満
(
じゅうまん
)
していた。
恐怖の口笛
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
宗右衛門町から通って来る娘で、紺地に白ぬきの
上
(
あが
)
リ
藤
(
ふじ
)
下
(
さが
)
リ
藤
(
ふじ
)
の大がらの
浴衣
(
ゆかた
)
を着たのが私を
恍惚
(
こうこつ
)
とさせたものだ。
めでたき風景
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
そういう不思議な発作のあるごとに、児太郎の上気した、さっと鮮紅を帯びた
頬
(
ほお
)
は、いつも弥吉を
恍惚
(
こうこつ
)
とさせた。
お小姓児太郎
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
会衆は
恍惚
(
こうこつ
)
としてかれの声をきいていた、それはきわめて大胆で奇抜で、そうして
斬新
(
ざんしん
)
な論旨である、偶像
破壊
(
はかい
)
! 平等と自由! デモクラシーの意義!
ああ玉杯に花うけて
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
兵営の中ばかりにいて美しいものを全く見なかったらしい古藤は、しばらくは何事も忘れたように
恍惚
(
こうこつ
)
として二人の描く曲線のさまざまに見とれていた。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
まさか
仏籬
(
ぶつり
)
祖室の扉の奥にはいろうとは、思わなかったけれど、教壇に立って生徒を叱る身振りにあこがれ、機関車あやつる火夫の姿に
恍惚
(
こうこつ
)
として、また
春の盗賊
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
ヨーロッパ旅行の楽しさなど比較にならぬと思って
恍惚
(
こうこつ
)
としているときであったから、芳江や手伝いの人の言葉が梶には
鞭
(
むち
)
のように腹立たしく感じられた。
厨房日記
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
僕はなにか
恍惚
(
こうこつ
)
と不安の入り混った妙な気持になってね、彼女達の視線の落つるところが等しく僕の面上だと確信した時には、その気持は極点に達していた。
メフィスト
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
すべて過ぎて行った時間のうち最も美しいものが、すべて季節のうち最も優しいものだけが、それらが溶けあって、すぐ彼女のまわりに
恍惚
(
こうこつ
)
と存在している。
苦しく美しき夏
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
そして、はじめて呉羽之介も、
恍惚
(
こうこつ
)
の夢から
醒
(
さ
)
めたように、自分の絵すがたへじっと見入るのでありました。
艶容万年若衆
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
人を一時の
恍惚
(
こうこつ
)
に
誘
(
いざな
)
う力は有っても、自分の常の日の心細さを、
紛
(
まぎ
)
らすには足りなかったのである。こういう女たちが好んで男女の酒盛りの席に列したがる。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
宗教に熱中した人がこれと似よった
恍惚
(
こうこつ
)
状態を経験することもあるのではないか。これが何々術と称する心理的療法などに利用されるのではないかと思われる。
コーヒー哲学序説
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
窓のなかの二人はまるで彼の呼吸を呼吸しているようであり、彼はまた二人の呼吸を呼吸しているようである、そのときの
恍惚
(
こうこつ
)
とした心の陶酔を思い出していた。
ある崖上の感情
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
そこで和尚は回向を始めるのであるが、回向のうちに、老婆はありし日の青春の夢を追い、ありし日の姿を追うて
恍惚
(
こうこつ
)
と踊り狂い、成仏する、という筋なのである。
青春論
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
“恍惚”の意味
《名詞》
恍惚(こうこつ)
何かに心を奪われうっとりすること。また、そのようなさま。
意識がぼんやりしていてはっきりしないこと。また、そのようなさま。
認知症で脳の機能が低下しているさま。
(出典:Wiktionary)
恍
漢検1級
部首:⼼
9画
惚
漢検準1級
部首:⼼
11画
“恍惚”で始まる語句
恍惚境
恍惚感
恍惚郷