御意ぎょい)” の例文
「そうですとも、考えがあるなら言ったがいいじゃアないか、加藤さん早く言いたまえ、中倉先生の御意ぎょいに逆ろうては万事休すだ。」
号外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「申し入れたき一議ござって、志水但馬、加藤源兵衛、二人揃って参上いたした。ついては佐原嘉門殿に、是非密々に、御意ぎょい得たい」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
よろしく頼む。あとは君にまかせるから、二人して、あの骨をその人だとでも何とでも御意ぎょいなさい、こちらへ来て講中にならんか。」
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
将軍家の御意ぎょいにかなわないために、おととし急にご隠居なすって、水戸の片田舎に、世盛よざかりの中納言さまとは、まるでちがった暮しを
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「飯篠長威斎先生の御草庵とうけたまわって推参いたした、てまえは前田家の尾井幾兵衛と申す、ぶしつけながら先生に御意ぎょいを得たい」
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
御意ぎょいでござりまする。お菓子をつかわしまして帰そうといたしましたが、いちと申す娘がどうしてもききませぬ。とうとう願書がんしょ
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「恐れ入りました。それでは、いずれ後ほど御意ぎょいを得ることにしまして、私は一走り行ってまいります」と、勘平は会釈えしゃくして立ち上った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
それがたいそう御意ぎょいにかなったとみえまして、器用なものじゃと云うおことばで、それからずっと奥むきの方へつとめるようになりました。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
御意ぎょいに御座います。先生様の御丹精たんせいといい、その場を立たせぬ御決断とお手のうち……拝見致しながら夢のように存じました」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「さそくに宿居とのいの方々へ御注進致しまして、取急ぎ御警固のすうを増やすよう申し伝えまするで厶りますゆえ、殿、御意ぎょいは?」
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
絹布団きぬぶとんに生れ落ちて御意ぎょいだ仰せだと持ち上げられる経験がたびかさなると人間は余に頭を下げるために生れたのじゃなと御意ぎょい遊ばすようになる。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを承知で貴方の弟子に取って下さるなれば、わたくしは弟子入の目録代りに、御意ぎょいかなったお隅を、御新造に、長熨斗ながのしを付けて持って来ましょう
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「跡はただ何事も、天主てんしゅ御意ぎょい次第と思うたがい。——では釜のたぎっているのを幸い、茶でも一つ立てて貰おうか?」
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お見忘れでござるか、先刻、大門にて御意ぎょい得申した、あの御挨拶が承りたいために、おあとを慕うてこれまで参りました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「わたくしでござります。御蔵前、門倉平馬、町人体の若者一人召し連れ、折り入って御意ぎょい得たいと申し、ただ今、脇玄関までまかり出て居ります」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
生き餌で御意ぎょいにかなわなければ、蚊針のタタキ釣りといこうと、からだを隠して猫が鼠をとるようにして蚊針を振り込むと、ガバーッときて釣りあげた。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
出来上がれば是非御覧に入れます、その時御意ぎょいに入ったら御取り置き下さい。とにかく、御約束を無にしたのは私が悪いのですと若井氏へ申しれました。
御意ぎょいにいらぬ其の時には、どのようなたたりがあるかも知れませぬ、他でお求めになるがよろしゅうございます」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
藤十郎 (夜具を後へ押しやりながら)ちと、御意ぎょいを得たいことがあるほどに、もう少し近く来てたもらぬか。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お勢は生得の出遊であるき好き、下地は好きなり御意ぎょいはよし、菊見のもよおしすこぶる妙だが、オイソレというも不見識と思ッたか、手弱く辞退して直ちに同意してしまう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
よくお芝居なんかで「御意ぎょいあそばしませ」というのがありますが、私の子供の頃ききなれた御意遊ばせはあまり口達者に発音するせいかゲエときこえるのです。
私の思い出 (新字新仮名) / 柳原白蓮(著)
それはまあ御意ぎょいのままに。戦争や外交官や銀行などといったものの根絶を予想する美しい理想郷的ユトピックな空想ですね。どこやら、むしろ社会主義に似ていますね。
こうなると、平次の御意ぎょいのままです。ガラッ八は桶甚を追っ立てるように、パアッと明るい庭へ出ました。
一俵まけてくれ、と菊太が願うのは祖母に向ってで私にではないけれ共、やっぱり祖母が思うと同じ様に、そんなに御意ぎょいなり放題にして居てはいけない、と思う。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
過日御示おしめし被下くだされそうろう貴著瘠我慢中やせがまんちゅう事実じじつ相違之廉そういのかどならぴ小生之しょうせいの所見しょけんもあらば云々との御意ぎょい致拝承はいしょういたしそうろう。昨今別而べっして多忙たぼうつきいずれ其中そのうち愚見ぐけん可申述もうしのぶべくそうろうまず不取敢とりあえず回音かいおん如此かくのごとくに候也。
なにさま姫上の御意ぎょいもごもっとものように存じられまする。取り留めた証拠もないに異国の人を
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「へいへい。御意ぎょいの通りでございます。手元の金子きんすは、すべて、只今ただいまご用立致しております」
とっこべとら子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「そのお約束で、御奉公に上っております糸でございます。何で御意ぎょいさからいましょう。殿様さえお心変りなさらなければ、末長く——でも、きっとすぐお飽きになって——。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御意ぎょいのままに何なりと、トシ子さんとあなたの結婚式に一世いっせ一代の余興よきょうでもやりますよ」
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だが、あとで聞いた所によると、贅沢に慣れた上流階級の人達には、男にも女にも、恋の冒険を象徴するかの如きこの野蛮な縄梯子がひどく御意ぎょいに召しているとのことであった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
御意ぎょいの変らぬうちにと、私は早速御苦労千万にも近所の薬屋から葛根湯を一包とついでに万古ばんこ焼きの土瓶を買って来て、野郎の面前でガス焜炉こんろへ掛けてグツグツと煮たて始めたが
葛根湯 (新字新仮名) / 橘外男(著)
松浦家では家つきの貞子夫人が采配さいはいを振っている。御主人清次郎氏は生来の温厚人おんこうじんだ。婿養子に来てから三十年間、一度でも自説を主張したことがない。万事奥さんの御意ぎょいに委せる。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「いやはや、もったいないが、御意ぎょいにしたがいましょう。……これ、小波」
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「ロボットは、御意ぎょいのままか、しからずんば、破壊か、だ。」
ロボットとベッドの重量 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
御意ぎょいのとおりで。」と、ペトローヴィッチが言った。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
御意ぎょいあらば立所たちどころ召寄めしよすべし
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
一筆啓上つかまつりそうろういま御意ぎょい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
奉じ、城主山路殿に直々じきじき会い申さんために、これまで参った。——山路弾正殿に、御意ぎょい得とうぞんずる。山路殿はそれにおさぬや!
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「われらことは大塔宮様家臣、片岡八郎と申す者、これにあるは矢田彦七、宮家よりの使者として両人参った。玉置殿に御意ぎょい得たい」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すこぶる天子の御意ぎょいに召して、御機嫌ななめならず、芸術家としての無上の面目を施した上に、黛子たいこさんという別嬪べっぴんの妻君を貰った。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
此が奥の院と申す事で、えゝ、貴方様あなたさま御意ぎょいの浦安神社は、其の前殿まえどのと申す事でござります。御参詣おまいりを遊ばしましたか。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「さてその姫君についてじゃが、予はいささか密々に御意ぎょい得たい仔細しさいがある。」と、云って、一段とまた声をひそめながら
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なれども宿世すくせの因縁と申しましょうか、始めてお目通りを許されました日から、つたない藝が不思議に御意ぎょいかないまして、たび/\召されますうちに
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
御意ぎょいの通りにございます、しがねえ商売でございますが、これも意気地なしの身過ぎ世過ぎ、致し方ぁございません」
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そのようなつもりで申したのでは——折角うかがって、御意ぎょいにそむいては——それなら、おいとまいたした方が——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
どうかお受け下さるように……はなはなんでござるが御意ぎょいかなった色にでもお染めなすって、お召し下されば有難いことで、甚だ御無礼ではござるが……
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
せっかくの事だから亭主も無理な工面くめんをして一々奥さんの御意ぎょいに召すように取り計います。それで御同伴になるかと云うと、まだ強硬に構えています。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
連中が、「ぜひ泊まって、あしたまた釣っていけ」というので、“下地は好きなり御意ぎょいはよし”と泊まる。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
御意ぎょいを得たいと、しばしば申し出ましたがお返辞がない、やむなくかような不作法を致したのです」
細根ほそね大根を漢音かんおんに読み細根さいこん大根といわば、口調も悪しく字面じづらもおかしくして、漢学先生の御意ぎょいにはかなうまじといえども、八百屋の書付かきつけに蘿蔔一束あたい十有幾銭と書きて
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)